スバル製水平対向エンジン+トヨタ製システム=「クロストレック ハイブリッド」だ!【人とくるまのテクノロジー展2019】
5月22日から24日まで開催された「人とくるまのテクノロジー展」。スバルは、水平対向エンジンにトヨタ製ハイブリッドシステム「THS II」を組み合わせて開発した、同社初のPHEV「クロストレック ハイブリッド」を出展した。
スバルが掲げたブースコンセプトは、『安全と環境対応技術を融合させた、「安心と愉しさ」を提供する電動車両』。プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)やEVといった電動車は、ゼロエミッションであることに注目が集まっている。しかしスバルはそれだけではなく、従来よりも安全かつ安心を実現すると同時に、楽しく乗れる必要があることを表したメッセージだ。
ブースでは、スバル初のPHEVで、米国で販売中の中型クロスオーバーSUV「クロストレック ハイブリッド」(※1)と、そのカットモデル、さらに搭載ハイブリッドシステムのカットモデルなどが展示された。
スバルのプラグイン・ハイブリッドシステム「スバル・スタードライブ・テクノロジー」とは?
「クロストレック ハイブリッド」に搭載されたプラグイン・ハイブリッドシステムは、「スバル・スタードライブ・テクノロジー」と呼ばれる。以下の構成を特徴とする。
●水平対向エンジン(「クロストレック ハイブリッド」の場合は排気量1995cc・4気筒エンジン「FB20型」を搭載)
●2基のモーターを組み込んだCVT(※2)「リニアトロニック」
●シンメトリカルAWD(全輪駆動)
少し補足が必要なのが、「シンメトリカルAWD」だろう。水平対向エンジンやリニアトロニックを核としたパワートレインが、左右対称かつ一直線にレイアウトされたAWDという意味である。左右と前後の重量バランスに優れることから、4輪にかかる荷重もバランスがよくなり、優れたタイヤの接地性を発揮。結果として、AWDとして高い性能を発揮できるのである。
しかしPHEVの場合、このシンメトリカルAWDを実現しようとすると、重量物であるメインバッテリーの搭載位置が重要となってくる。「クロストレック ハイブリッド」の場合は荷室下(下写真(6))に搭載することで、シンメトリカルと同時に低重心も実現した。
そして3つの構成の中で最も重要なのが、”2基のモーターを組み込んだ”「リニアトロニック」だ。実は、これこそがトヨタ製のプラグイン・ハイブリッドシステム「THS II」なのである。
自社で開発するのではなくトヨタ製「THS II」を採用
スバルには独自のハイブリッドシステム「e-BOXER」があり、2018年には「XV」と大型クロスオーバーSUV「フォレスター」に、同システムを搭載したグレード「Advance」が設定された。しかし、プラグイン・ハイブリッドシステムはさらに別の技術も必要とする。そこで、スバルは2005年10月から業務提携しているトヨタに技術協力を要請し、水平対向エンジンに組み合わせることにした。
トヨタ製ハイブリッドシステムは、1997年、初代「プリウス」に搭載された「THS(Toyota Hybrid System)」に始まる。この世界初の量産ハイブリッドシステムは、2003年に「THS II」にパワーアップ。そして、2009年12月から発売を開始した初代「プリウスPHV」には、そのプラグインバージョン「THS II Plug-in」が搭載された。その後も、名称こそ変更されないが改良され続けて現在に至る。
「THS II」は発電用と走行用の2基のモーターを搭載。エンジンとモーターの両方でタイヤを駆動するパラレル型と、エンジンは発電のみを行ってモーターが駆動するシリーズ型と両方を状況によって使い分けることから、ハイブリッドの種類としてはシリーズ・パラレル型、スプリット型などと呼ばれる。
また「THS II」はCVTと一体化したトランスミッションである点も特徴だ。「クロストレック ハイブリッド」にもハイブリッドシステム兼トランスミッションとして搭載されている。「リニアトロニック」はスバルが独自開発したCVTのことだが、「クロストレック ハイブリッド」に搭載されている「リニアトロニック」に関しては「THS II」なのである。
水平対向エンジンに「THS II」を組み合わせる困難さとは?
今回、「THS II」を組み合わせるに当たって、スバルの開発陣が最も苦労した点が、FB20型エンジンと「THS II」の”置き方の向き”が異なることだったという。
エンジンには縦置きと横置きがある。何を持って縦横を判断するのかというと、エンジンの主要パーツのひとつであるクランクシャフトの向きだ。ピストンを介して混合気の爆発力を回転力=駆動力に変えるのがクランクシャフトだ。このクランクシャフトが、クルマの向きに対して前後方向に向いていれば縦置きとなる。左右方向に向いていれば横置きだ。
縦置きか横置きかは、主にそのクルマのエンジンレイアウトと駆動方式によって決められる。現在のクルマの大多数が採用しているFF車の場合は、駆動力をすぐ前輪に伝えられる横置きが採用されることが多い。トヨタ車も例外ではなく、「THS II」も横置きエンジン用に設計されている。
一方、AWDの場合はどちらもあるが、スバルでは「クロストレック ハイブリッド」も含めて縦置きを採用している。「THS II」に縦置き用があれば話は簡単だったのだが、スバルはトヨタから横置き用そのままで供給を受けている。
そのため、縦置きのFB20型エンジンに「THS II」を組み合わせるべく、スバルが手を加えて実現したのである。「THS II」はケーブルを通す穴ひとつをとっても横置き用の位置にあるため、ケーブルの取り回しだけでも工夫が必要だったという。
国内で「XV ハイブリッド」はいつ登場する?
「クロストレック ハイブリッド」が国内で発売されるとしたら、「XV ハイブリッド」という名称が考えられる。国内での販売についてブース説明員に聞いたところ、回答を得られなかった。どこのメーカーも国内と北米では異なる戦略を採用していることが多い。北米のみでしか販売されない車種やグレードは珍しくなく、残念だが「XV ハイブリッド」は国内での販売はないこともあり得るだろう。
「XV」自体は2017年5月24日に現行モデルの3代目が登場し、「e-BOXER」搭載グレードの「Advance」が2018年10月に追加設定された。もしかしたら、4代目へのモデルチェンジの際に設定されるのかもしれない。スバル初のPHEVの国内上梓は実現するのか。PHEVへの国内関心が高まる中、ファンならずとも目が離せない。
スバルというと、電動化からは遠いイメージを持っていた人も多かったのではないだろうか。今回は、トヨタのシステムを組み込んだプラグイン・ハイブリッドシステムおよびその搭載車を紹介した。業務提携しているとはいえ、他社製のシステムを組み込んでまでPHEVを開発するところに、スバルも電動化の波を避けることはできないということを感じさせられる。
スバル車の魅力のひとつに間違いなく水平対向エンジンがある。ファンとしては、電動化が進んでいった先が気になるところだろう。しかし、今回の「クロストレック ハイブリッド」を見る限り、重量物である大容量リチウムイオンバッテリーの搭載位置を工夫することで、低重心とシンメトリカルというスバルらしさを実現していた。
現在のスバル車が持つすべての魅力を、電動化したら継続していくのは難しいかもしれない。しかし工夫次第では、失われる魅力を最小限に留められることも感じてもらえたのではないだろうか。そんなスバルの未来を感じさせる展示であった。