SUVの走破性とは。三菱SUV体験イベントから学ぶその実力
三菱は9月3日、全国で実施してきた「4WD登坂キット体験イベント」の参加者が累計10万人を突破したと発表した。このイベントはSUVの4WD性能の高さをアピールするために実施してきた。記念すべき10万人目となったのは、9月1日に開催した「スターキャンプ2018 in 吹上高原」(宮城県・大崎市)の参加者だった。
普通の車にとってオフロード走行の何が厳しいのか。SUVに求められる性能とは?
「4WD登坂キット体験イベント」は、過酷な路面状況を模したステージを走る車に同乗して車の走破性を体感するというものだ。20度の斜面を横切る「キャンバー走行」や高さ40cmの凸凹を走行する「モーグル走行」、岩場をイメージした「階段昇降走行」など、さまざまなシチュエーションが用意されている。中でも最も人気があるのが、最大傾斜45度を昇り降りする「急坂登坂走行」だ。この急坂を作るトラックだが、三菱ふそうのスーパーグレート(初代前期型)をベースにイベント専用車を作り上げた。その名も「4WD登坂キットトラック」。エンジンや足回りには特に手を入れていない。全国各地でイベントを実施するため、三菱ではこのトラックを2台保有しているという。(広報部)
さて、以下では「4WD登坂キット体験イベント」の各セクションに準じて、悪路に強いSUVに求められる性能について解説しよう。
派手なパフォーマンスの裏に質実剛健な性能あり
特装トラックによって作り出される最大45度の登坂路だが、これだけの”激坂”になると、低回転から大きいトルクを発生させたり、そのパワーを余すことなく路面に伝える能力が車に求められる。こうした場面でディーゼルエンジンの4WD車が有利になる。また、EVやHVなどの、モーターを搭載している車も坂道に強い。モーターは極低回転域から最大に近いトルクを発生させることができるからだ。
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車にとって最もつらいセクションとは
最も厳しい路面状況をSUVはどうやって走破する?
ミニバンの形をしたSUVというのがコンセプトのデリカD:5。4WDモデルはへたなSUV顔負けの走破性を誇る。
車にとって厳しいのが「モーグル走行」セクション(写真上)だ。ほとんどの車は、4WDであっても、どこか1輪が空転するだけで前にも後ろにも進むことができなくなる。左右互い違いに凸凹が繰り返される場所(モーグル地形)を走ると、タイヤが地面から離れてしまい動くことができなくなるのだ。こうした路面を克服できるか左右するのがサスペンションの性能だ。
三菱パジェロのリヤサスペンション。この独立懸架式は悪路には不利とされてきた。だが従来からのリジッド式を捨て、オンロードでの快適性を飛躍的に向上させつつ高いオフロード性能も実現した。
車体とタイヤをつなぐ役目をするサスペンション(写真上)は、伸びたり縮んだりすることで、地面の状況に関わらず車体をフラットに保つ。この伸び縮みのストローク量が大きいほど地面からタイヤが離れにくくなるので、オフロードでは力を発揮する。だが、ストロークを伸ばしすぎると、整地された舗装路面ではふらつきやすくなるので運転しにくくなるというジレンマがある。この二律背反する条件に適うことがオフロードに強い車い作る条件になっている。
パジェロのリヤデフロック(オプション)。電子デバイスの制御によって各輪をコントロールするパジェロだが、機械式デフロックを装着すれば走破性がさらに向上する。
一方で、いざタイヤが浮いて空転した場合にどうやって対処するか。一輪でも空転すると他のタイヤが動かなくなる原因は、デファレンシャルギヤが作動しているから。車はハンドルを切ったときに左右のタイヤに回転差が生じる。ディファレンシャルギヤは駆動力を逃がすことで、この回転差をコントロールする役割を果たす。舗装路では、ディファレンシャルギヤがないとまともに走らせることが難しくなるが、タイヤが地面から浮き上がるような状態になると、駆動力がその浮き上がったタイヤに逃げてしまい、他のタイヤを駆動することができなくなる。つまり、ディファレンシャルギヤを作動しない状態にすれば、他のタイヤに駆動力をかけられるわけだ。その仕組みは最近まで機械的にロック(写真上)することで行う車が多かった。が、ESC等の普及で全輪バラバラにブレーキをかけることができるようになった現在は、空転したタイヤだけにブレーキをかけることで、擬似的にディファレンシャルギヤの作動を止める仕組みを持つ車が増えた。オフロードに強い車には、必ずこの「デフロック」機能が備わっている。
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そもそもオフロードに強いSUVの条件とは
そもそもオフロードに強い車には条件がある
”地味”な「階段昇降走行」(写真上)も普通の車には厳しい。障害物を乗り越えるために必要な性能は最低地上高とアングル角に表される。アングル角は、障害物へのアプローチ時、またいでいる最中、脱出時の3点。この角度が大きいほど、障害物や凸凹を乗り越えられる可能性が高くなる。そのために、SUVでは大きいタイヤを装着して最低地上高を高くするのだ。大径タイヤは伊達ではない。
そうであれば、もっと径が大きいタイヤを装着すればよいのではと考えがちだがそうではない。車幅を変えずにタイヤを大きくすると、車の重心が高くなる。そうすると「キャンバー走行」(写真上)のように横転しそうな場面で不利になる。車幅は交通環境を考えるといたずらに大きくはできないから、大径タイヤを履きながらも、重心は低い位置にする必要があるのだ。
オフロードに強いSUVには以上のような性能が求められるために、車体を頑丈に作る必要がある。そのため、車重がどうしても重くなり、それを走らせるために排気量や出力・トルクが大きいエンジンを積む必要がある。燃費の悪化という環境性能との戦いを強いられているのもSUVであるともいえる。だが、ここへ来て三菱「エクリプス クロス」(写真上)のような都会的でコンパクト、コンディションの悪い道にも強い車が、販売台数上位にランクインするようになって来た。「燃費のためにSUVをあきらめない」というメーカーの思い・姿勢が結実しつつあるといえよう。
車にとって(人にとっても?)厳しい環境を何万回も走らせるということは、三菱の自社SUVに対する自信の表れととることができる。難関セクションを走る車を運転するのは、ダカールラリー2連覇を達成したラリードライバーの増岡浩氏をはじめとするプロドライバーだ。車両は「デリカD:5」や「エクリプスクロス」、「パジェロ」を使って行われる。
三菱では「4WD登坂キット体験イベント」(WEBより予約可能)を引き続き実施していくとしているので、参加してみてはいかがだろうか。
「4WD 登坂キット体験イベント」WEB サイト URL:http://www.mitsubishi-motors.co.jp/special/4wd/cleandiesel/