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クルマ最終更新日:2018.08.29 公開日:2018.08.29

会宝産業など、クルマ用プラスチック部品の再資源化に産学連携

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新興国において、廃車扱いとなったクルマは適切な処理をされないまま投棄されている。画像は、ナイジェリアで撮影されたもの。

 プラスチックの環境汚染が地球規模で注目されている。クルマもプラスチックを多用しているため、適切な処理をなされずに廃棄されると、環境汚染を加速させることになる。

 日本国内で廃車になる中古車は年間に約350万台といわれており、そのほとんどが国内の約2500ある解体業者によって解体されているという。鉄くず、プラスチックくず、そして再利用可能な部品として大まかに仕分けられている。

 しかし、バンパーやダッシュボード、ドアトリムなどのプラスチック部品は大きくかさばるため、実は再利用化や再資源化率はあまり高くない。保管や可搬性に難があることから、シュレッダー業者やプレスせん断処理業者の大型シュレッダーによって”廃車ガラ”として処理され、最終的には焼却もしくは埋設処分されているのが現状だ。

 そうした現状を変えようと、石川県金沢市の自動車リサイクル事業を営む会宝産業(かいほうさんぎょう)が企画構想したのが、協力関係にある全国の同業他社や地域の産学の協力を得て、破砕・粉砕と洗浄を一体化した小型破砕洗浄機を開発し、自動車産業における次世代循環型解体ビジネスを世界的に展開するという計画だ。

 同業のアール・トーヨー(長崎県長崎市)、福山セコ(広島県福山市)、桃太郎部品(岡山県岡山市)と連携し、装置の設計製作をリバーヘッドシステムズ(石川県金沢市)が担当。そして、金沢工業大学工学部ロボティクス学科の土居隆宏准教授が技術アドバイザーとして参画する形で、小型破砕洗浄機の開発を目指すことにしたのである。1号機は10月末に完成の予定で、会宝産業やアール・トーヨーなど、4社に行き渡るのは11月末の予定だ。

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小型破砕洗浄機の機能と導入時期など!

小型破砕洗浄機はどんな機能がある?

 プラスチックと一口にいっても、ポリプロビレン、ABS樹脂、ポリウレタン、ポリ塩化ビニール、ポリエチレンなど、クルマに使用されている素材はいくつもある。

 これまでは素材ごとに分別して管理することが難しかったがために、再資源化を進めにくいという状況があった。また現状の仕組みでは、解体業者にとって再資源化では利益をほとんど得られない現状もある。そのため、解体業者が再資源化を事業にできる環境ではなかったといえる。

 そこで、今回の小型破砕洗浄機の登場となる。同装置は車台番号と外したパーツをデータ的に結びつけてクラウドで情報管理できる仕組みを有する。それにより、どの素材がどれだけ集まったかなどを同装置を導入した解体業者間で共有することもできる。そして素材が明確になるので、再生業者に買い取ってもらいやすくもなり、収益を上げやすくなるのだ。

 小型破砕洗浄機はパーツごとに12mm程度のサイズに破砕した上で洗浄することが可能だ。この装置ははフォークリフトでの運搬が可能なほどコンパクトで、小規模な解体業者でも導入しやすいという。これまでは小規模な業者では、廃車ガラとしてシュレッダー処理されていた部品の再資源化もしやすくなるのである。

 会宝産業広報に確認したところ、小型破砕洗浄機は11月末までに4社に導入されたあとは、しばらくの間、さまざまなクルマのプラスチック部品について、素材データを取得していく計画だという。

 金沢工業大学の土居准教授は、こうしたIoT的なデータ化において協力している。

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自動車解体業の抱える問題と会宝産業の取り組み

自動車の解体業はオートメーション化が難しい

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解体の様子。ありとあらゆるメーカーのさまざまなクルマが持ち込まれるため、オートメーション化はなかなか難しいという。

 自動車の解体業は、オートメーション化が難しいという。ありとあらゆるメーカーのクルマが持ち込まれ、車種も多種多様。それを熟練の職人が経験を頼りに手作業で解体していく。クルマごとの機構的な特徴などを頭に入れておく必要はあるし、また重量のあるパーツも多い。

 金沢工業大学では、以前から会宝産業と自動車解体のオートメーション化についての共同研究を進めてきたことから、今回の産学連携も実現した。またリバーヘッドシステムズとも、ロボット開発などでやはり以前から産学連携してきたという。

 金沢工業大学広報に話を伺ったところ、土居准教授らは、自動車解体のフルオートメーション化はすぐには実現できないにしても、例えばタイヤなどの重量物を支えるロボットアームや、タイヤを自動で転がして所定の保管場所に移動させるアシストロボットなどの実現を目標としているそうだ。

 部分的なオートメーション化やアシストは可能だと考えているそうだが、ポイントとなるのは、現場で役に立つかどうかということ。熟練職人の手早い作業を邪魔しては意味がないため、現場にどのように組み込み、どのように作業をアシストするかが難しいという。

 将来的には、メーカーや車種を問わずにクルマをセットしたら、きれいにパーツごとに分解する”解体ライン”を開発できるのが理想だそうだが、そこまでに到達するのはまだ先の話だろうとしている。

会宝産業が考える次世代循環型解体ビジネスとは?

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会宝産業が考える「次世代循環型解体ビジネス」のイメージ図。このまま生産して廃棄するという消費型の社会構造では

 会宝産業では現在、中古自動車部品を世界86か国に輸出していることから、新興国の現地政府に対する自動車リサイクル政策の立案サポートや、リサイクル工場設備、生産工程、リサイクル技術・経営のノウハウの3点を統合したクルマのリサイクルシステムを各国に提供しているなど、SDGs(Sustainable Development Goals:エス・ディー・ジーズ、持続可能な開発目標)にも積極的に取り組んでいる。

 中古車としての日本車は人気が高いことから世界中で引っ張りだこなので、国内中古車は車の形のまま再販できる。しかし、日本国内では中古車を処分できたとしても、冒頭のナイジェリアの画像のように、再販した先の各国で廃車が山積みとされているような状況では、地球規模で見たときに問題の解決になったとはいえないだろう。

 会宝産業では今回の小型破砕洗浄機から始めて、将来的には、上図のような「次世代循環型解体ビジネス」の世界展開を目指し、資源の有効活用を進めていくとしている。

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