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クルマ最終更新日:2018.02.02 公開日:2018.02.02

地震などの自然災害を、ビッグデータで統合解析! EPRCの情報サービス【後編】

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EPRCが毎週発行している「地震予兆解析レポート」。通常と異なる地殻変動がある場合は、緊急レポートが発行される。画像は17年11月27日のもので、東北でから北関東、中部での様子をレポートしたページ。微小地震の震源位置や、地殻変動の内、移動した距離が大きなものなどが記されている。詳しくは、前編をご覧いただきたい(新しいタブが開きます)。

 多種多様なビッグデータを統合してAIで解析することで、地震や土砂災害など、自然災害の発生予測の研究を行っている一般社団法人自然災害研究センター(EPRC:Earth Prediction Research Center)。

 前編では、衛星測位システム(GPS衛星)を用いて、国土地理院が全国1350地点に設置した電子基準点の移動を計測して地殻変動を把握。その変動量に対して、その後にどの程度の期間内にどのような規模の地震が発生したのか、もしくはまったく発生しなかったのかなど、過去のデータと照らし合わせることで、今後の地震発生の可能性を解析する手法を紹介した。また、上の画像のような内容が届く、EPRCが週1回発行している「地震予兆解析レポート」などについてもお伝えした。

 電子基準点を用いて地殻変動を観測する方法は、人間の感覚ではとらえることが不可能な年間数cmという大地そのもののわずかな移動も把握できるのだが、弱点も存在する。

 ●小規模・遠海・震源の深い地震は、地表の電子基準点に表れない
 ●20年間分の計測データに存在しない地震はマッチングできない(地殻変動のパターンが過去にない場合は、どのような地震につながるかわからない)
 ●電子基準点データだけだと、都市部においてはデータが不足している
 ●断層型地震は1~2日前に動き出すため、電子基準点のデータだけでは補足が難しい

 こうした弱点を補うため、EPRCではさらに多くのデータを活用している。後編では、そうしたデータも含めて、EPRCの解析手法について掘り下げてみる。

→ 次ページ:
EPRCでは多様な12種類のデータを活用!

独自の解析技術「ISACO」は12種類のデータを活用

 EPRCが自然災害の発生予測を行うために用いている独自の解析技術は、「ISACO(International Surface Artificial Intelligence Communicator)」という。AIを用いたビッグデータの統合解析技術だ。

 そのベースとなるのが、国内外の公的機関が発表している環境に関する膨大なデータ。大別して、以下の12種類のデータが用いられている。カッコ内は、そのデータを発表している国内外の公的機関。これだけのデータを組み合わせることによって、それぞれの情報だけでは見えないものが見えてくるという。

1.震源関連(気象庁/JAMSTEC(*1)/USGS(*2))
2.震度関連(気象庁/産総研(*3)「QuiQuake/QuickMap(*4)」)
3.地震波形関連(防災科研(*5)「F-net(*6)」および「Hi-net(*7)」)
4.活断層関連(産総研「活断層データベース」)
5.地盤強度関連(国土地理院・産総研「20万分の1日本シームレス地質図」/防災科研「地すべり地形分布図」)
6.地殻変動関連(GNSS(*8)/内閣官房「IGS(*9)」/海上保安庁「DPGS(*10)」/国土地理院など)
7.地中圧力(産総研「地下水観測データベース」)
8.地電流(気象庁/国土地理院)
9.潮位関連(気象庁/海上保安庁)
10.気象(雨量・風速・気温・気圧)関連(気象庁)
11.干渉SAR(*11)(ESA(*12)/JAXA(*13))
12.宏観現象(全国農業試験場)

略称は以下の通り。

*1:JAMSTEC:国立研究開発法人 海洋研究開発機構
*2:USGS:米国地質調査所
*3:産総研:国立研究開発法人 産業技術総合研究所
*4:QuiQuake/QuickMap:地震動マップ即時推定システム
*5:防災科研:国立研究開発法人 防災科学技術研究所
*6:F-net:広帯域地震観測網
*7:Hi-net:高感度地震観測網
*8:GNSS:衛星測位システム
*9:IGS:情報収集衛星
*10:DGPS:ディファレンシャルGPS
*11:干渉SAR:干渉合成開口レーダー
*12:ESA:欧州宇宙機関
*13:JAXA:国立研究開発法人 宇宙開発研究機構 

→ 次ページ:
12種類のデータについて

12種類のデータの補足

 12種類の情報の中で、1~6は、震源、震度、地震波形、活断層、地盤強度、地殻変動と地震に関連したものなので、想像がつきやすいことだろう(地盤の強度は、土砂災害とも関連する)。また、9の潮位は津波などにかかわり、10の気象は土砂災害などに関連してくる。

 少しわかりにくいのが、7の「地中圧力」。これは、地下水(井戸)の水位の変化を計測することで地中の圧力の変化を調べるというものだ。そして8の「地電流」は、地面を流れる電気に関するものだ。地中に普遍的に存在する鉱石である石英は、地殻変動で圧力を受けて変形すると電気を発生させる。その結果、地面を電気が流れるので、それを計測すると同時に、その影響で発生するノイズも計測されている。こちらも地中の圧力の変化がわかる情報だ。

 説明が必要なのが11の「干渉SAR」だろう。これはESAが運用している地球観測衛星「SENTINEL-1A」が搭載するレーダーを用いた宇宙からの観測によるもので、地表面を5mmという解像度で調べられる。電子基準点が少ない都市部の地殻変動をカバーできるという。また、さらに高解像度の1.2mmというレーダーを搭載するJAXAの陸域観測技術衛星「だいち2号」からの情報も使用を検討中だ。

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JAXAが運用するJAXAが運用する陸域観測技術衛星「だいち2号」のイメージ。

 そして干渉SARと同様に日常生活ではまず耳にしない専門用語が、12の「宏観現象(こうかんげんしょう)」だ。全国農場試験場からのデータとあるから、農業と関係があることは想像がつくはず。しかし、地震と農業がどのように関係あるのか? 次のページでは、この異色データの宏観現象について紹介する。

→ 次ページ:
「宏観現象」とはどんなデータなのか?

搾乳量と産卵数をリアルタイム解析!

 宏観現象とは、農業の中でも酪農に関連する用語だ。具体的には乳牛から搾乳したミルクの量や、ニワトリの産卵数の変化をまとめたものだ。

 地震の前兆現象として、犬やネコなどの動物がほえるという話を聞いたことがある人は多いと思う。そのほか「地震雲」とか地鳴りとか、地質学的な現象なども聞かれる。宏観現象とは、広義では生物学的、地質学的、物理的な地震の前触れ現象全体のことをいう(宏観異常現象ともいう)。ただしEPRCの研究では、生物学的な前兆現象を指す用語として使われている。

 動物の前兆現象と思われる異常行動は、ヒトよりも遥かに感覚が鋭いため、地面を流れる地電流の変化を受けて乱れる電磁波、地下の圧力の変動を受けて変化する温泉地のラドン濃度、活断層が動くことによって生じる重低音などを察知しているといわれる。東日本大震災を始め、過去の地震の多くで、その直前にさまざまな動物たちの異常行動などが観察されており、実際に研究機関でも研究が行われている。

 乳牛やニワトリの場合、地震の前兆現象が、異常事態であると察知している思われる。その結果としてストレスにつながり、ストレスのためにタンパク質の合成量が低下。最終的に搾乳量や産卵数の減少に結びつくのである。

 全国の農場試験場からのデータを得て、こうした動物たちの力も借りようというのが、EPRCの地震予兆の解析手法というわけだ。

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動物たちは、ヒトよりも鋭い感覚を有しているものも多い。それにより、ヒトが察知できない地震の前兆現象をとらえることができるのだろう。地震の前兆現象として認識しているかどうかはわからないが、異常事態であることは察しているものと思われる。そして本能的に危険を感じた結果、ストレスが生じてタンパク質の生産が減り、搾乳量や産卵数が減ってしまうのだろう。

→ 次ページ:
自然災害による被害を世界的に最小限にするのが目標

自然災害による被害はまだまだ減らせる

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EPRCでは収集するビッグデータの種類を日々増やしている。この画像は、「だいち2号」が取得したもの。1.2GHzの「Lバンド合成開口レーダー」を搭載しており、解像度1.2mmという精度を実現している。現状、GPS衛星による電子基準点の観測では、都市部から得られるデータが少ないため、それを補完できるものとして、EPRCでは活用を検討中だ。

 いくつものビッグデータを統合解析することで、地震の予兆をとらえようというEPRC。今後、世界中のさまざまなビッグデータを統合解析し、世界各国の防災機関・研究者にデータを公開するプラットフォームを完成させ、防災・減災研究に貢献していきたいとしている。

 また、これまではEPRCの「E」は”Earthquake”の頭文字だったが、新たに”Earth”とした。地震に限定することなく、あらゆる自然災害に関するデータをISACOで解析し、世界各国に発生24時間前までにフィードバックし、自然災害による被害を最小限にとどめることを世界的に行っていきたいという思いからだ。実際、その活動は既に進んでおり、インドネシアとは共同研究を開始。同国の国家防災庁など、公的な防災関係9機関との国際共同研究・解析情報活用契約を締結した。

 さらにEPRCでは、将来的には自然災害で亡くなる人を減らすため、毎日のデータの蓄積と解析を続けていくとしている。

2018年1月31日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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