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最終更新日:2017.12.15 公開日:2017.12.15

地震などの自然災害を、ビッグデータで統合解析! EPRCの情報サービス【前編】

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この東北地方の各所から伸びる赤い矢印が何を意味するのか? ぜひ最後までご覧いただきたい。

 さまざまな地震予測技術が研究される中で、GPS衛星による地殻変動の計測を用いた方法をご存じだろうか? 国土地理院が全国1380カ所に設置した「電子基準点」を観測して地殻変動の距離と方向を計測することで、過去に起きた地震の地殻変動データと照らし合わせ、地震が発生する可能性を導き出すという手法である。

 こういった解析手法を構築し、地震等の自然災害の予兆現象をとらえるべく研究を行っている民間の研究組織がある。一般社団法人自然災害研究センター(EPRC:Earth Prediction Research Center)だ。

進歩を続ける地球観測技術を利用!

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地球観測技術は常に進歩しており、現在は地球測位衛星や地球観測衛星(上画像。ESA(欧州宇宙機関)の「SENTINEL-1A」)などにより、以前より精度よく観測できる。

 地球観測は、日本国内だけでもさまざまな研究機関や省庁が観測やデータ収集を行っている。ただ、それらの統合的な解析があまり行われていなかったことが課題であった。それを実践しているのがEPRCで、それぞれ得手不得手のある情報を相互補完させる形で統合し、自然災害の予兆現象をとらえようとしているのである。

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EPRCに迫る!

EPRCはどのような研究センターか?

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さまざまな研究機関などが観測や計測している、大別して12種類のデータを統合して解析している。そのデータ解析手法は、「ISACO(International Surface Artificial Intelligence Communicator)」という。

 EPRCは、GPS衛星による測位を初め、JAXA(宇宙開発研究機構)などが運用する地球観測衛星からの観測データなど、国内の複数の研究機関などによる地質、気象、海洋などに関する膨大な観測・計測データを、AIを用いて統合解析するという手法を用いて、自然災害の種類・規模・発生地点・発生時期などを研究している。

 複数のデータを組み合わせることで、何が見えてくるのか? まずはEPRCが毎週提携企業や防災組織などに配信している、地震に関連した「地震予兆解析レポート」で具体的に見てよう。

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地震とは大きなものになればなるほど、その予兆現象が発生するという。中でも顕著な予兆現象は、地震発生の1~6週間ほど前に通常とは異なる大きな地殻変動だ。地震予兆解析レポートでは、22年分の地殻変動と地震のデータを解析し、最新の異常な地殻変動が地震につながる可能性があるかどうかを報告している。

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「地震予兆解析レポート」に迫る!

「地震予兆解析レポート」は厳然たる事実のみを掲載!

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高知県南部にて「南東方向」に向かう、通常とは異なる地殻変動が観測されたことから、南海トラフ地震につながる可能性があるという臨時レポートが2017年11月22日に配信された(左)。しかし、すぐに通常の地殻変動に戻ったことから(右)、南海トラフ地震が発生するような心配はなくなったとする内容で臨時レポートがその2日後に配信された。

 地震予兆解析レポートの特徴は、確認された事実のみを掲載していることだ。具体的には、人工衛星で観測された地殻変動(地表が動いた距離とその方向)、そしてレポートが発行される前の週に発生したマグニチュード3以上の地震震源地だ。

 これによりわかるのは、前週に発生した地震と、その発生前に確認されていた地殻変動の異常との間に関連性が見られることが多い点である。つまり、地殻変動は地震の予兆現象として現れる可能性があるということ。100%ではないのだが、いつもと違う地殻変動が確認されたときは、地下で何かが起きている可能性があり、それは地震につながる可能性があるというわけである。

 また地殻変動の異常が検出された場合、過去22年分のデータとも照合し、地震発生につながった地殻変動があったかどうかも解析される。つまり、「このような地殻変動が確認された場合、過去にはこれだけのマグニチュードの地震がこれだけの日数以内に発生しているため、今回もこれだけの規模の地震がこの地域に発生する可能性がある」と、「心構え情報」として通達しているのである。

 とはいえ、過去22年分しかデータの蓄積がないことが、まだこの手法が万能ではない理由でもある。22年という時間は人間の感覚からすると長く感じるが、地質学的な時間からすると決して長くはない。そのため、現在観測された地殻変動に対し、過去に同じようなタイプの地殻変動のデータが存在しないこともある。その場合、地殻変動が観測できても、それがどんな地震発生につながるのかが予測できないこともあるわけだ。EPRCでは、さらなる情報の集積が必要だと考えている。

 一方で、詳しくは次ページ以降で述べるが、東日本大震災のように過去に参照できるデータがないとしても、明らかに異常事態だとわかる場合もあるのである。

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地殻変動はどうやって把握している?

地殻変動はGPSや観測衛星などを活用してを観測

 地殻変動は通常は年に数cmから数10cm程度だし、異常時でも数日に数cmという程度なので、地表面上にいながらにして地殻変動を実感することはない。そこで、観測衛星やGPSなどの衛星測位システムなど、宇宙からの目を使うことで、その観測を可能としている。

 衛星測位システムによる地殻変動の観測には、全国1380カ所に設置されている「電子基準点」の動きをチェックすることになる。電子基準点とは、国土地理院が正確な地図を作製するためにNASA(米航空宇宙局)のInternational GNNS規格に沿って開発したもので、米国のGPS、ロシアのGLONASS、欧州のGalileo、そして日本の「みちびき」(準天頂衛星システム)などに対応している。1996年から設置が始まった。

 22年分蓄積されているデータとは、この電子基準点を衛星測位システムで観測したデータのことである。

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電子基準点を用いた地殻変動の値と方向を示した図。2011年1月26日のデータ。平常時の東北地方はユーラシア大陸側に引っ張られている。

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衝撃の3.11前後の地殻変動!

東日本大震災でも予兆は現れていた!

 6年半の月日が経過した今でも記憶に新しい東日本大震災。そのときの地殻変動はどうだったのだろうか? 何か予兆現象はあったのだろうか?

 前ページで紹介したように、本来、東北地方はユーラシア大陸側(西側)に向かって、一定のペースで移動している。しかし、2月下旬頃から西側には向かわなくなり、徐々に太平洋側に向かい始め、3月7日の時点では東北地方全体が太平洋側に向かって大きく移動していたことが、電子基準点の観測でわかっていた。

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2011年3月7日時点の地殻変動の値と方向。太平洋側の地域は特に移動が激しく、東北地方全体が太平洋側に引っ張られているのがわかる。

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1ページ目で紹介した画像はこの一部をトリミングしたもの。衝撃的な3月11日の東日本大震災直後に計測された、地殻変動の値と方向である。1.2cm以上の移動を示す矢印のみで、真っ赤。実際、国土地理院からは当時、最大で水平方向に約5.3m、上下方向に約1.2mという、「極めて大きな」地殻変動が観測されたと発表された。

 当時、EPRCではこれら直前の地殻変動を異常事態ととらえ、関係機関にも伝えたそうだが、残念ながら具体的な対策にまではつながらなかった。今後、同じような事態が起きないよう、EPRCとしては地道に観測データを積み重ねていき、将来的には天気予報のようにテレビなどで広く一般に伝えられるような形にしたいとしている。

 後編では、今回紹介した電子基準点による地殻変動の値と方向の情報以外の、各種データがどのように統合的に活用されているのかを紹介する。

2017年12月15日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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