新車からスペアタイヤが消えた理由と、お得なパンク対処法
今から約20年前。ほとんどの国産車は、スペアタイヤの搭載は当たり前で、ジャッキ、ドライバーやスパナなど、いろいろな応急処置用の道具を積んでいた。
それが時代とともに、必要性を感じられなくなった工具達は、ひとつ、またひとつと姿を消していった。そして、それはスペアタイヤも例外ではない。
◆新車にスペアタイヤを装着しなくなった理由
何故、スペアタイヤが搭載されなくなったのか?
ひとつには、燃費向上のための「軽量化」が影響している。きっかけとなったのが、平成21年に施行されたエコカー政策だ。
エコカー政策とは、一定の燃費基準を達成した新車を購入すると、国から補助金が支給される「エコカー補助金」と、一定の燃費基準を達成した新車を購入した際に、取得税や重量税が減税される「エコカー減税」のことだ。
これは、CO2削減を目的とした環境対策ではあったが、期間限定措置ということもあり、新車販売台数が前年対比5倍という、景気対策の面でも成功だったと言えるだろう。当時、自動車ディーラーで販売営業していた筆者は、お客のほとんどが、店頭で車種を選ぶ際、デザインや走行性能ではなく、エコカー対象車か否かで選んでいたことを、とても鮮明に覚えている。
エコカー減税対象車種は、車両重量ごとに定められた燃費数値(10・15モード)が、基準を達成している必要がある。例えば1,000kgの車両重量の車であれば、22.4km/ℓの燃費数値を達成しなければ対象車種とはならない。
スペアタイヤの重量が、車種にもよるがおよそ10kg。対して、パンク応急修理セットは約1kg。たかだか9kgの差ではあるが、軽量化を図る上では、必要とされたのだろう。
また、新車を購入してから、一度もスペアタイヤを使用せずに廃車にするユーザーも多く、使用頻度も少ないという見解もあったため、スペアタイヤが世の中から姿を消していくきっかけとなった。
◆スペアタイヤレスの風潮はスズキが発端?
スペアタイヤの替りにパンク応急修理セットを搭載して話題となったのは、平成20年9月にフルモデルチェンジをしたスズキのワゴンRだ。
エコカー政策が始まる半年前に発表された同車は、斬新なアイディアということで当時の話題となった。
軽量化が目的だったのか、別の目的があったのか、メーカーからは公表されていないものの、これを境に、スペアタイヤではなく、パンク応急修理セットが、ある種のトレンドとなった。
◆パンク応急修理セットの使い道は限られる?
かくしてスペアタイヤの代替品となったパンク応急修理セットは、その使い方は非常に簡単で、ジャッキアップなどの力仕事も要らないため、女性でも無理なく使用できる。
しかし、使用できる状況は非常に限定されている。例えば、タイヤに4mm以上の切り傷があった場合や、タイヤ側面に損傷がある場合には、パンク修理剤は使えない。また、タイヤがホイールから外れたり、バースト(破裂)している場合にも使えない。
パンク修理剤が使えるのは、「タイヤの接地面」で、「3mm以下の穴や傷」、かつ「タイヤ1本のみ」という限られた条件のみである。
ここまで限定されてしまうと、パンク修理剤が使える状況の方が稀で、あってもなくてもたいして変わらない気はする。
また、パンク修理剤を使用したタイヤは再使用できなくなって、交換を余儀なくされる場合もある。パンク修理剤は、内側に特殊な液剤を注入することで、一時的に空気漏れを防ぐ仕組み。だが、この特殊な液剤が付着してしまうことで、タイヤや、場合によってはホイールまでも再使用できないことがある。スペアタイヤでの応急処置であれば、ホイールごと交換をするため、タイヤの損傷具合に関係なく対応が可能だ。
こんなことから、万が一に備えて、スペアタイヤを車内に常時積載するユーザーまで現れた。
◆新車購入時にオプションで搭載できる車種も
そんなユーザーの声を反映してか、新車購入時にスペアタイヤをオプションで搭載できる車種もある。オプション価格は平均1万円弱だが、実際にパンクをした時を比較してみよう。
スペアタイヤを搭載していれば、軽度のパンクの場合、修理工場に持っていけば数千円程度の修理費用で済む。しかし、パンク応急修理セットでは、パンクの程度に関わらず、タイヤ交換(数万円)に加え、パンク修理剤は再利用ができないため、新しく買い替えなければならない。出費が、倍から10倍程度も変わることもあるのだから、オプションで搭載するという選択肢も、検討する価値は十分あるはずだ。
2017年9月5日(雨輝・高山祐輔)