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最終更新日:2017.08.23 公開日:2017.08.23

思いやりは怒りから? ドライバーの「怒り」を分析する ドイツの「思いやり運転」

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ドイツでは自転車と自動車ドライバーの小競り合いは永遠の課題といわれるほど多い。© picture alliance / dpa Themendienst

 交通事故を防ぐためには、交通ルールを守ることに加え、思いやりのある運転も大切な要因である。

 日本自動車連盟(JAF)でも、交通社会において思いやりの輪を広げる「思いやりティ ドライブ キャンペーン」を展開しているが、こういった取り組は海外にもあるのだろうか? ドイツの例をとって考察してみたい。

 JAFと同じようなドイツの組織として、全ドイツ自動車クラブ(ADAC)が上げられる。ADACはその活動の中に「交通社会における正しい行い」を提唱しており、「フェアな運転」というパンフレットを発行している。これが日本の思いやり運転の働きかけに相当するものである。

怒りの原因が思いやり運転のキーワード

 ADACの「フェアな運転」では、ドライバーが運転中に引き起こす「怒り」にスポットを当てている。

 「人は憤り、自分を見失うと交通ルールを配慮できない状況に陥ります。落ち着いた冷静な精神状態でいてこそ交通安全は守られるのです」。
 と、ADAC交通部門副部長ウルリヒ・ベッカー氏は、パンフレットの前書きで述べている。このドライバーの怒りの感情を基に、

① どういう状況下で人は怒りを発するのか?
② 怒りの元となる相手は、なぜそのような行いをするのか?
③ その場合の交通ルールは?
④ 怒りを感じたらどうすべきか?

といった項目ごとに、相手の心理、その状況下の交通ルール、正しい行いを分かりやすく説明し、安全運転の手引きを展開しているのである。

 まずは、ドイツ人がどういった状況で怒りをあらわにしているのか、ADACが製作した動画を参照していただきたい。
 自転車とクルマの運転手が罵り合ったり、車内で怒りを爆発させるドライバーの様子を撮影したこの動画は、ドイツでごく日常的に起こっている事例である。

リンク先=ADAC YouTube

 次ページでは、動画のような怒りの場面には、どのような状況や心理が隠れているのか、「フェアな運転」で取り上げられている2つの例を紹介する。

→ 次ページ:
ドライバーはどんな時にキレるのか? 傾向と対策

事例①車道を走る自転車が邪魔になる

① ドライバーの怒りの原因
 自転車専用道や自転車通行帯があるにもかかわらず、自転車の多くは車道を走行している。対向車が多い狭い道路では、自転車の追い抜きができずイライラするし、交通の妨げになる。
② なぜ自転車は車道を走るのか?
 理由はいくつかあるが、自転車専用道が狭い、自転車専用道が駐車車両によってブロックされている、歩行者と共用の自転車道(自歩道)であるためスムーズに走れない、などが考えられる。

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自転車通行帯に車を駐車することで妨害してしまっている例。© picture alliance / Hauke-Christian Dittrich/dpa

③ 交通ルール
 (ドイツでは)標識等により自転車の通行区分が指定されている場合は、そこを走らなければならない。標識がない場合は、車道を走行してもよい。

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ドイツの自転車歩行者専用道(自歩道)を示す標識。© picture alliance / ZB

④ アドバイス
 自動車のドライバーは、自転車の通行区分が示されていない場合は、自転車も車道を走る権利があることを認識すべきである。また、自転車に乗る人は安全のためにも必ず指定された場所を走るようにする。

事例②夜間にライトなしで自転車に乗ること

① ドライバーの怒りの原因
 夜間に無灯火で自転車に乗ることは、ドライバーの怒りを発する原因となるだけでなく非常に危険な行為である。ライトなしの状況下ではドライバーが気づくのが遅れ、事故の原因となりやすい。自転車に乗る人は、夜間の無灯火の自転車がドライバーにとってどれだけ認識しにくいのか知らない場合が多い。
② どうして灯りをつけないのか?
 壊れたライトを修理する時間がないまま走行したり、取り付け式のライトの場合、装備を忘れている場合もある。また、多くの人はクルマのヘッドライトで十分に照らされるだろうと思っている。

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夕暮れ時にライトなしで走る自転車。© picture alliance / Thomas Uhlemann/dpa-Zentralbild/ZB

③ 交通ルール
 (ドイツでは)自転車はフロントとバックにライトとリフレクターの装備が義務づけられている。自転車用トレーラーにもリフレクターは必要である。夜間だけでなく暗くなりはじめる夕暮れ時もライトは灯さなければならない。ライトなしに走行して事故にあった場合、賠償金は減額される。
④ アドバイス
 「気づかないこと」が事故の大半の原因である。その観点からライトの装備は非常に重要である。またドライバーから認識してもらえるように明るい服装を着用することも事故防止の助けとなる。クルマのヘッドライトは限定された照射範囲のみを照らすものであることを念頭におきたい。

 ドライバーのキレる原因として、自転車、路上駐車しようとしている車、割り込み、後ろを走るドライバーから急かされるなど、運転を妨害された時の行為が上げられている。

 ADACの「フェアな運転」の目的は、ドライバーが一方的な見地から抜け、怒りの原因となる他者の心理や状況を理解することで、思いやりの心を育もうとすることである。そのため、最後に交通心理学者とのQ&Aによって締め括られている。次のページではそれを引用する。

→ 次ページ:
自分が正しいという考えを捨てる

交通心理学者によるQ&A

なぜドライバーは、通常よりもクルマの中の方が怒りを爆発させやすいのでしょうか?

 複数の理由があります。まずは、車内では社会的な制裁がない、つまり思いっきり大声で怒鳴っても誰の反応を気にする必要がないということです。
 また交通社会にはたくさんのルールが存在します。そのため、規則にふれてしまうことが多いのですが、ルールに抵触した人を見て、自分が正しいと思う傾向に陥りやすくなります。つまりドライバーの人格とは関係なしにルールを守らないドライバー=思いやりのない人とみなし、怒りを表す原因となるのです。

運転中に自制できないときはどうしたらいいのですか?

 運転には多様な能力、注意力、集中力を必要とします。常に緊張している状態で、ストレスを感じやすい上、遅刻しそうだ、シートの座り心地の悪さ、目をさえぎる太陽の光など外的要因もストレスを増長させます。こういった状況下で他のドライバーが「間違い」を犯せば、ストレスが怒りに変わってしまう訳です。

 そういう時には、怒りの感情に翻弄されるのではなく、怒ってもまったく意味のないことだといい聞かせ、自分に戻る努力をしましょう。ストレスの原因となる車中の環境を整えたり、時間の余裕を持って早めに出発するなどリラックスした状態で運転に臨むことも重要です。

安全な運転のためにはどうしたらいいですか?

 自分が正しいという考えを捨てることです。
 そうすれば、ドライブ中に起こる多くのことに寛容に対応できます。他者がどうしてそのようなことをするのか、動機が理解できれば受け入れることができるかもしれませんし、他者は間違いを犯していない場合もあります。私たちみなが交通安全のモデル(実践者)であり、交通がどのようになるのかは私たち自身にかかっています。

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© picture alliance / ZB

2017年8月24日(JAFメディアワークス IT Media部 荒井 剛)

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