キャンピングカー王国ドイツ。 その歴史と文化を、 ワーゲンバスとともに探ってみた!
夏に向けてキャンピングシーズンの到来。キャンプといえば、最近は日本でもキャンピングカーの人気が高まっているが、ドイツでは戦後にブームが訪れて以来の人気者で、今も若者からシニアまで広く親しまれている。では、ドイツはどのようにキャンピングカー王国となっていったのか。時代背景と、それを取り巻く文化について探ってみた。
フォルクスワーゲン ウエストファリア キャンパー。1951年にドイツ国民のキャンプへの憧れを強烈に刺激したモデルだ。
戦後のドイツ経済成長の立て役者といえば、経済大臣ルートヴィッヒ・エアハルトの名が挙げられる。しかし、フォルクスワーゲンのキャンピングカー「ワーゲンバス」なしには、奇跡的な復興は成し遂げられなかった。このことを否定するドイツ人はいないだろう。
ワーゲンバス(日本)=ブリ(ドイツ)
日本での通称は「ワーゲンバス」、ドイツ語では「がっしりした」を意味する「ブリ(Bulli)」とは、フォルクスワーゲン社の車種「T1」に端に発する、バン、ワゴン、キャンピングカーの愛称である。名前のごとく、丸みを帯びた四角いどっしりとしたボディに、カラフルなペイントが施された斬新なデザインは、たちまちに国民の目を虜にした。
1949年に誕生した最初のモデルT1 。フロントには、フォルクスワーゲン(Voklswagen)社のロゴマークVWが。
ワーゲンバスのデザインは、フォルクスワーゲンの先行モデル「ビートル」から考案された。フロントからサイドに流れる流線型のラインに、ビートルの形跡を見ることができる。
広い荷室を考慮して生み出された実用車T1
ドイツ国民の愛すべき運送車として
最初にシリーズ化されたバンは、広い荷室ゆえに様々な用途に使用された。郵便車、パトカー、消防車、救急車の他に、オーブンを搭載した移動式パン屋、極めつけは美容室として使用されたというから驚きだ。国民になくてはならい「オールラウンドカー」として愛すべき存在になっていく。
50年代に食料品店の運送用として使われていた様子。女性のヘアスタイルも時代を物語っている。当時は牛乳の路上販売にも用いられたそうだ。
コカコーラの運送として使用されていたワーゲンバス。フロントにはフォルクスワーゲンのロゴの代わりに、コカコーラのロゴマークが取り付けられている。
電話の普及がまだまだこれからだった当時、路上販売車として用いられたワーゲンバスは人と人を繋ぐ社交的な役割も担っていた。ドイツ経済の成長と、希望溢れる未来を象徴する、次のような絵が残っている。
ワーゲンバスの需要は経済成長グラフと平行して上昇を続け、2014年に製造を終えるまで、1000万台以上も販売された。まさにドイツ経済を支えてきた頼もしい存在である。
ワゴン車「サンバ」の登場!
バンの次にフォルクスワーゲンが1951年に発表したのは、ワゴン車「サンバ」である。サンバは、ルーフも含めると全部で25の窓を持つ、8人乗りのワンボックスだ。
1951年にT1のワゴン版として出現した「サンバ」。赤と白のカラフルなデザインも余暇モードにぴったりだった。
サンバという踊るような陽気なネーミングが、この車のコンセプトを物語っている。経済的な余裕を取り戻しつつあるドイツ人の、バカンスへの要求に答える乗用車として、サンバはまさに最適であった。
50年代にサンバを使ったパッケージツアーも旅行会社から提供された。ルーフも開ける開放感のあるサンバに乗って、暖かい南欧に出かけるツアー旅行が人気だったという。
カヌークラブでのイベントに使われてたサンバ。ルーフに荷物が載せられ、大人数で移動できるサンバは団体でのイベントでも活躍した。
団体旅行から個人旅行へ
ドイツ人は旅行好きな国民である。60~70年代にドイツは、個人旅行を楽しむ時代に突入する。ワーゲンバスの次なるモデルチェンジは、アウトドアを楽しむドイツ人の真骨頂ともいうべき、キャンピングカーである。1953年、フォルクスワーゲンは、キャンピングカー「キャンピング・ボックス」を販売する。これは、クローゼット、棚、鏡、洗面台、ベッドなどを備えた、当時では画期的なモデルだった。
キャンピング・ボックスからタープを張り巡らせ、屋外で食事を楽しむ家族。
「マイホテルで旅行に!それはもう夢ではありません」。
1956年のキャンピング・ボックスのカタログには、こんなコピーが記載されている。第一世代のキャンピング・ボックスは爆発的な人気を博した。ドイツ人の旅行好き、アウトドア好きにまさにマッチしたクルマであったのだ。キャンピング・ボックスはその後、様々なモデルチェンジを行い、60万台ものセールスレコードを記録した。
テーブルやポップアップルーフなどが装備されたキャンピング・ボックス
自由のシンボル
キャンピングカーはドイツ語で、Wohnwagen(ヴォーンワーゲン)、直訳すると「住居カー」という。冷蔵庫やシャワーボックスなど当時の最新装備が備えられたキャンピング・ボックスにはその後次々と便利な装備が加えられ、まさに移動式住居と化していくのである。
外にアンテナを立ててテレビが楽しめるキャンピングカー。DIY感覚でキャンピングカーのカスタマイズを楽しむドイツ人も多い。
家族で使うのに十分な広さのベッド。カバーの配色がいかにも70年代を彷彿させる。
60~70年代の地中海旅行ブームに乗って、ヨーロッパでは、キャンピングカーを使って南欧にバケーションに行くのが流行した。そんな当時の浮き足立った雰囲気がカタログ用の写真からも伝わってくる。
地中海への憧れを謳ったコマーシャル写真。
1961年のフォルクスワーゲンのカタログ写真。「フォルクスワーゲンのキャンピングカーは、あなたがいつも夢見ていた自由な旅行を実現させます」が写真のキャプションだった。
60年代になるとフォルクスワーゲンのキャンピングカーはアメリカにも輸出され、好評な売り上げを記録した。70年代には特にカリフォルニアのサーファーたちのアイコン車として愛され、ヒッピー達が旅行に使うようになると「ヒッピーバス」とも呼ばれ、自由なライフスタイルの象徴となるのである。「キャルルック」と呼ばれるカリフォルニアのライフスタイルに、ワーゲンバスは欠かせない存在として自動車史に刻まれている。
T1から様々な改良が重ねられたワーゲンバスは、今年70周年を記念して「ブリ・スペシャルワゴンT6」が発表された。初代T1の製品化は1951年であるが、考案された1947年から数えての70周年である。6代目モデルにあたるT6には、ワーゲンバスの自由な精神とドイツ経済に功績した尊敬の念がこめられている。
「サンバ」とT6、新旧のワーゲンバス。T6はカラーやデザインは初代モデルを踏襲しつつ最新技術を搭載した最新モデルだ。
ワーゲンバスの進化を表したスケッチ
キャンピングカーの最新モデルは「カリフォルニア」
ワーゲンバスのキャンピングカーで、最も新しい2017年モデルは「カリフォルニアT5」である。カリフォルニアT5は、7人用シートにポップアップルーフ、キッチン、ベッド、サイドオーニングなど最低限の快適さとスマートな可動性を備えた、自由に移動しながら絶景地も堪能したいという若い世代のニーズが反映されている。
ドイツの若者の理想とするキャンプを実現してくれるカリフォルニアT5には、「ビーチ」、「コースト」、「オーシャン」の3車種がある。
「カリフォルニア」は、1988年に発売されたT3が22,000台、T4 は39,000台、そして最新のT5が50,000台の販売実績を誇る、フォルクスワーゲン社のキャンピングカーのヒット商品である。
カリフォルニア・コーストのキッチン
広々としたT5の車内。カリフォルニア・シリーズは残念ながら日本では未発売となっている。
最後にオマケとして、ワーゲンバスのユニークな写真2枚を紹介して終わりたい。ドイツでは毎年ファンが自慢のワーゲンバスとともに集い、交流したりフェスを楽しむイベントが行われている。特別な思い入れのある今なお愛されているクルマなのである。
プロのサッカー選手がサッカー場でのイベントでキャンピングシーンを再現
プリングルスのPRに使われたワーゲンバス
2017年4月26日(JAFメディアワークス IT Media部 荒井 剛)