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最終更新日:2016.08.15 公開日:2016.08.15

琉球海溝南部の地震と大津波の仕組み

画像1。JAMSTEC「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究」のサイトより抜粋。日本は4つのプレートが交錯しており、構造的に地震が多発する宿命を持つ。今回の探査は、南海トラフから西へ延びる琉球海溝が調査された。

 日本はいうまでもなく地震大国だ。2011年の東日本大震災はまだ被害から復旧していない地域も多いし、2016年4月の熊本地震も記憶に新しい。

 国としてもさまざまな地震を警戒しており、首都直下型地震などと共に、発生間隔が100年から150年ほどとされる西日本の「南海トラフ巨大地震(東海地震、東南海地震、南海地震)」が警戒されている。

南海トラフとは?

 日本は4つのプレート(地殻とマントル上部のことを指し、長時間かけてゆっくりと移動する)がぶつかり合うため、構造的に地震が多いという宿命を持つ。

 南海トラフとは、画像1にある通り、日本の東海地区の沖から紀伊半島沖や四国沖を通り、九州南方の日向灘まで至る、総延長約700km、深さは4000m級の海溝のことだ。

 西日本が乗っている大陸型の「ユーラシアプレート」と、海洋型の「フィリピン海プレート」がぶつかって沈み込んでいく「沈み込み帯」で、そのため地震の多発地帯となっている。

  2013年時点での政府地震調査研究本部の予測によれば、30年以内に南海トラフ全域で発生する確率は、マグニチュード8~9クラスが60~70%だという。また、2012年に文部科学省地震調査研究推進本部が発表した資料では、東海地震が88%、東南海地震が70%、南海地震が60%となっている。

 決して低くないパーセンテージになってきており、被害を極力減らすために南海トラフ地震に関する研究にも予算がかけられている。例えば、文部科学省では「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」として、JAMSTEC(海洋研究開発機構)などに業務委託を行って調査を進めているという具合だ。

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今回は南海トラフから西へ延びる「琉球海溝」が調査された

「琉球海溝」での地震は数百年に一度大津波が発生

 南海トラフ広域地震防災研究プロジェクトの一環として、2013年からJAMSTECが香川大学と共同で研究を行っているのが、7月22日にその成果が発表された、南海トラフから西へ延びる「琉球海溝」に関する調査だ。

画像2。(a)は琉球海溝近辺を含めた広域図。(b)は、今回調査された海域の拡大図。

 琉球海溝を震源とする巨大地震による被害は、実は記録としては少ない。しかし、最新の津波堆積物などの調査から、数百年程度の周期で巨大な津波が繰り返し発生してきたことがわかってきた。

 記録に残る中で非常に大きな地震として知られるのが、1771年の「八重山(やえやま)地震」だ。同地震では津波の高さが約30mにも達し、先島(さきしま)諸島では約1万2000人の犠牲者が出たと推定されている。画像2の(b)図において、赤いベルト状のエリアが、同地震の震源域だ。

最新観測で見えてきた琉球海溝の地震の特徴

 また、近年の地震観測やGPSを用いた地殻変動観測により、琉球海溝では「スロースリップ」や「低周波地震」といった、「ゆっくりとしたすべり現象」が発生していることもわかってきた。

 低周波地震とは、通常の地震に含まれる10Hz(1秒間に10回震動)以上の高周波成分が乏しく、10Hz以下の低周波成分に富んだ地震のことをいい、断層において、ゆっくりとしたすべり現象によって発生し、それには流体が重要な役割を果たすと考えられている。

 さらに「超低周波地震」と呼ばれる地震もあり、こちらは0.1Hz(10秒で1回震動)以下の低周波成分が卓越して放出されるものを指す。発生する場所やその仕組みは、低周波地震と同様と考えられている。

 スロースリップや低周波地震などのゆっくりとしたすべり現象が起きているということはその一帯は柔らかいことが予想され、プレート同士がぶつかり合う境界において、それが固まってくっついてしまう「固着」は弱いと考えられているのである。

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深海調査研究船「かいれい」による長期探査が行われた

深海調査研究船「かいれい」が3か月の地殻構造探査を実施

 しかし、固着が弱いことを確かめるのが、これまでは難しかった。同地域は日本のほかの地域に比べて陸上の定常地震観測がまばらであるという弱点があり、観測が不十分な状況だったからだ。

 そのため、なぜフィリピン海とユーラシアの両プレート間の固着が弱い沈み込み帯で巨大な津波が起きる地震が発生するのか、その仕組みが不明だったのである。

 なお、ゆっくりとしたすべり現象は、南海トラフ巨大地震の震源域周辺でも数多く観測されている。つまり、ゆっくりとしたすべり現象と、巨大地震や津波の発生との関連を明らかにすることは、危惧されている南海トラフ巨大地震への備えとしての重要な研究のひとつとなるというわけだ。

今回の調査エリアを示した画像2を再掲載。

 そこで、今回のJAMSTECと香川大学の共同研究では、八重山地震の津波波源域を縦断する測線において、JAMSTECの深海調査研究船「かいれい」による地殻構造探査が3か月にわたって実施された。また、石垣島・西表島周辺に設置された海底地震計30台と地震観測点6点も活用された。画像2の白丸が海底地震計だ。

 集まったデータの解析が行われたところ、琉球海溝南部の地震発生帯において合計73個の低周波地震が検出された。画像2(b)およびそれを拡大した画像3(c)の4色の色つき星印がそれである(黒星印を除く)。

画像3。(a)図は、上下の波形共に実際に今回の調査で記録されたもので、上が低周波地震の波形で、下は通常のもの。上の地震は低周波成分が含まれている。(b)図は、低周波地震(赤)、通常の地震(黒)、ノイズのスペクトルの比較。低周波と通常の地震とでは特徴が異なるのがわかる。(c)図は、画像2の一部、今回記録された73個の低周波地震の震央が記録された部分を拡大したもの。4色は、それぞれ発生した時期と場所が異なるグループであることを示す。

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低周波地震が発生している領域(深度)が判明

低周波地震15~18kmの深度で発生

 そして、低周波地震が発生している領域(深度)が確認された。八重山地震の津波波源域と、スロースリップが起きているプレート境界の深部領域との間で発生していたのである。

 また、陸上観測点に基づく先行研究において、琉球海溝で超低周波地震が発生していることがすでに指摘されていたものの、低周波地震や超低周波地震はこれまで詳細な発生場所がわかっていなかった。

 しかし今回の研究により、それらの知見も大きく前進。海面から深さ15~18kmのプレート境界近傍で発生していることが確認されたのである。

画像4。琉球海溝南部の沈み込み構造と低周波地震分布の鳥瞰図。赤星は画像2(b)および画像3(c)、画像4(c)と同じ低周波地震。津波地震発生域とスロースリップ発生域との間で低周波地震が発生していることが判明した。

八重山地震の津波波源域の分岐断層の存在も確認

 さらに、反射法探査データの解析からは、八重山地震の津波波源域に存在する「分岐断層」がプレート境界面と低速度のくさび形構造を形成していることも新たに確認された。

 この分岐断層の位置と形状は過去に推定されている八重山地震の震源モデルが矛盾しないことから、この分岐断層もしくはプレート境界浅部における地震性すべり現象によって、八重山地震による巨大津波が発生した可能性が考えられるとしている。

 また、分岐断層とプレート境界の複数か所で反射波の極性(波の正負のパターン)が反転していることも確認されたという。

 こうした極性反転は、地震波が高速度媒質(固いもの)から入射し、低速度媒質(柔らかいもの)との境界で反射することで生じるため、反射面に低速度媒質として流体が存在することを示唆するとした。

 つまり、流体が分布することが、プレート間の固着が弱いことや低周波地震の発生と関連している可能性があることがわかってきたのである。

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八重山地震の震源域の詳細な構造も判明

琉球海溝の沈み込み帯では固着が弱い

 さらに、今回の研究により、八重山地震の震源域の詳細な構造と、そこでの現在の地震活動が初めて判明。

 その結果、琉球海溝沈み込み帯ではプレート境界の浅部から深部まで固着が弱い領域の方が多いことが明らかとなり、固着域(プレート間が強くくっつき地震時に大きくすべる領域)は存在しないと考えられると結論づけられたのである。

 このような場所では強い地震動を引き起こすタイプの巨大地震は起こりにくいと考えられるという。

 しかし、一方で巨大津波をもたらす津波地震はプレート境界および分岐断層で発生しやすい環境にあると考えられるとする。

画像5。琉球海溝南部の構造。(a)と(b)は、音響波を海中に放射して、海面まで返ってきた反射波の時間や振幅などを利用して地質構造を調べる「反射法探査」によるイメージ。(c)は、同じく音響波を用いて、海底に展開した海底地震計でその音響波と地中から屈折してきた地震波を記録して解析する「屈折法探査」で得られたイメージ。黒線を堺に右側がフィリピン海プレートで、左側がユーラシアプレート。境界の赤星は、画像3(c)の赤星と同じ低周波地震の発生域。

琉球海溝全体の地震に関する構造的要因はまだ不明な点が

 これらの成果は、今後、琉球海溝での巨大津波の発生機構を検討する上で重要な知見となるとしているが、琉球海溝全体にわたる地震活動の特徴とそれを支配する構造的要因については、まだ不明な点が多く残されている状況だ。

 そして南海トラフで将来発生することが予想されるプレート境界型巨大地震が、琉球海溝側にどのように伝播するのかを検討するためにも、琉球海溝から沈み込むフィリピン海プレートの詳細な3次元形状モデルを構築することが必要とした。

 共同研究チームは今後も、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」の下、琉球海溝における観測調査を継続し、低周波地震を含む地震活動の実態解明を目指すと同時に、こうした観測研究から地震・津波発生機構を明らかにし、海域で発生する地震・津波に対する防災・減災に貢献していくとしている。

2016年8月15日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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外部リンク

JAMSTEC(海洋研究開発機構)
香川大学

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