芝浦工大など、次世代空調システムを開発中
空調は走行の次にエンジン負荷が高く、その効率化は燃費改善に欠かせない。
芝浦工業大学は7月6日、カルソニックカンセイと共同で、次世代型の空調システムの開発に向けた研究を開始したことを発表した。同大学の研究担当者は、機械制御システム学科の伊東敏夫教授だ。
現在のクルマの空調システムは課題が多い!
クルマが走行以外でエンジンの動力を最も使うのが、車内空調システムである。現在は、搭乗者の体感温度に関係なく設定された温度を保つように稼働する仕組みなので、実はムダが生じてしまっている。
また、クルマの冷暖房システムはエンジンの廃熱を利用するが、エンジン性能が上がるにつれて廃熱が少なくなっており、特に暖房エネルギーはその供給のために燃料を消費するという新たな課題が生まれている。
さらに、エンジンの廃熱を利用できない電気自動車(EV)の冷暖房によるエネルギー消費問題は、ガソリン車・ディーゼル車よりもずっと深刻だ。冬のEVでは、エネルギーの50%が暖房で消費されることもあるといわれ、実走行距離を延長する上で大きな障害となっているのである。
今回の研究が目指す3つのポイント
そこで今回、搭乗者それぞれの快適温度に車内を保つと同時に、空調を最小限にすることでクルマの燃費性能も向上も実現するという、次世代型の車内空調システムの開発に向けた研究を開始したというわけである。まずは、以下の3つの目標を掲げて、研究が開始された。
1.心拍から快適か不快かが自動的に計測され、搭乗者ごとの最適な温度環境の自動化を実現する。
2.これまでの過冷房や過暖房によるエネルギーロスを改善する。
3.搭乗者が装置を身につけなくても、ステアリングやシート内に心拍計を組み込むだけですむ製品を開発する。
研究は、まず「温度変化によるストレスにより、心拍数が変化したり、自律神経に乱れが生じたりするのではないか」という仮説が立てられ、実験がスタートした。
「PMV」(Predicted Mean Vote)と呼ばれる快適性の指標を使用し、安静にした被験者の環境温度を20分おきに変化させた場合、心拍数がどう変化するかが解析された。なお、心理的要因による心拍数の変化を避けるため、被験者は着座安静状態で実験を受けている。
具体的には、「心拍間隔」を基準に、体の働きを活性化させる交感神経と、逆にリラックスさせる副交感神経を計算し、(1)日内リズムを考慮して基準化した心拍間隔の値、(2)心拍間隔の分散、(3)副交感神経を交感神経で割った成分を計測。
その後、パターン識別手法のひとつである、2パターン識別期「サポートベクターマシン」を用いて、快適と不快の分類が可能かどうかの解析が行われた。
その結果として、明確な差をデータとして取得できたということで、快適かどうかの判断を心拍により行える傾向があることが判明したというわけだ。
今後の展開
今後は、運転中にリアルタイムに心拍数を計測し、心拍データにより不快と判断されれば快適になるまでエアコンを制御するなど、製品化できる制度を出すため、課題解決に向けて以下の追加実験を行っていく予定である。
1.3分間隔であったデータ処理時間をより短くしてリアルタイム性を向上させる。
2.基礎代謝量(体格)の違いを考慮した検証や、運動負荷(実際に運転する)を与えた検証を実施し、結果を比較する。
3.急な危険事象などに遭遇した際、誰でも急激に心拍数が上昇するが、それをエラー値だと判断できる閾値を導入する。
また、ドライビングシミュレーターを使った実験も行われる予定だ。
伊東教授の研究室とカルソニックカンセイでは、今後も共同研究を継続し、より計測精度を向上させる実験を進め、ハンドルやシートに心拍計を組み込むことを検討すると共に、トータルシステムの構築を目指すとしている。
今後は、ドライビングシミュレーターを活用した実験も行われる予定だ。
2016年7月7日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)
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