曙ブレーキの液体で止める「MR流体ブレーキ」
コムスに搭載されて実証実験が行われている「MR流体ブレーキ」。
曙ブレーキ工業は8月10日、東北大学流体科学研究所の中野政身教授との共同研究で開発した、摩擦に頼らない「MR流体ブレーキ」を開発したことを発表した。
MRとはMagneto Rheologicalの略で、直訳すれば「磁気粘性」という意味で、MR流体は「磁性流体」ともいわれる。砂鉄のように磁石に吸い寄せられる流体で、磁気に反応することで液体から半固体へと変化する特性を持った機能性材料だ。
MR流体は、磁石が近づけられる、つまり磁場が加えられると、油などの液体中に分散している粒子半径が数マイクロメートル(マイクロメートルは1000分の1mm)の強磁性体粒子、つまり鉄粉が磁気が働く方向に整列してチェーン状の粒子のクラスター(塊)を形成し、半固体化するという仕組みだ。
MR流体ブレーキは、その半固体化する現象を利用して抵抗力を発生させ、摩擦に頼らずに減速を行うのである。
MR流体ブレーキは2年前から共同研究がスタート
同社では、中央技術研究所において10年後、20年後のブレーキの開発を行っており、既存のパッドとディスクを用いて、運動エネルギー(速度)を摩擦でもって熱に変換して空気中に逃がすことで減速するという方式に頼らない、新たな技術を開発している。
いくつかある中で、MR流体ブレーキについて今回発表したのは、約2年前から開発をスタートさせ、2015年3月に完成した試作品を用いたテストによってデータが集まって実用化が見えてきたことと、それに伴って2016年7月に共同研究を行っている東北大の中野教授が研究発表を行ったことから、それに合わせて披露したという具合だ。
ほかにも、電動式のブレーキなど新方式・新発想のブレーキの開発や、既存のブレーキ用の新素材の開発なども進められているそうである。
MR流体ブレーキの構造
具体的なMR流体ブレーキの構造は、車両側に固定された円盤(固定円盤)と、タイヤ側のハブベアリングと一緒に回転する円盤(可動円盤)が交互に配置されている間にMR流体が充填されているというもの。
そしてブレーキ内部に配置された電磁石のコイルに電流を流すことで、円盤と垂直の方向、要は固定円盤と可動円盤の間に磁界が発生するので、両円盤の間にチェーン状粒子クラスターができあがるというわけだ。
ただし、クラスターは可動円盤の回転を一気に止められるほど頑丈ではなく、壊れてしまう。
では、どのようにブレーキとして働くのかというと、クラスターの固定円盤側の根元が動かない一方で、可動円盤側の根元はタイヤの回転方向に進んでいくために引っ張られた際に、「せん断変形」することで抵抗力となる。
せん断変形が進むとクラスターは中央付近でちぎれてしまうのだが、すぐ回転でひとつずつずれて隣のちぎれたクラスター同士がくっつく。するとまたせん断変形が生じて抵抗となり(これを「せん断応力」という)、ちぎれたらまた隣のクラスター同士がくっついて…を繰り返し、抵抗となるというわけだ。
MR流体ブレーキの原理。チェーン状クラスターが伸びてちぎれてはつながってを繰り返すことが抵抗となる。
MR流体ブレーキのメリットとは?
MR流体ブレーキのメリットのひとつは、環境負荷を減らせること。既存のブレーキとは異なって摩擦を用いているわけではないので、パッドの摩耗が生じない。つまり、摩耗粉が発生しないので環境負荷を軽減できるというわけだ。
それから、摩擦を利用しないということは、ブレーキでお馴染みの「キキーッ!」という甲高いノイズ音が生じないということもメリットとして挙げられるだろう。
また、MR流体は磁気に対して数ミリ秒(1ミリ秒は1000分の1秒)で反応するため、現在一般的な油圧方式よりもさらに俊敏かつ安定した制御が可能となる。
さらに制動力を電気で直接制御するため、制御パターンを変えることで、ブレーキの効き具合をさまざまに変えることができる。ドライバーが、 好みのフィーリングのものを選ぶといった、従来のブレーキではできない仕組みも用意することが可能だ。
2020年を目指してまずは超小型EV用を市販化する計画
現在、MR流体ブレーキは、試作品を用いて今後のモビリティのための「スマートブレーキ」として、2020年の実用化を目指して、同社のテストコースを用いて耐久性などの試験を実施中だ。
同社広報に確認したところ、2020年までに超小型EV用の市販化に成功したあとは、次の研究ステップとして、普通車など、もっと重量のあるクルマでの使用を想定したものを開発していくとしている。
また気になるコスト面はまだ開発中の段階のため、既存のパッドとディスクを用いたブレーキとの比較はまだ難しく、現段階では回答ができないとした。
それから、同社では今後、MR流体ブレーキが既存のブレーキに取って代わるものではなく、用途によって使い分ける形で共存させていくとした。
2016年8月12日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)
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