レシピ14 :「ホラー! やっぱり出た!」の作り方
深夜のトンネルといえば「出そう」なイメージ
若い頃は怖いもの知らずで、夏になるとノリで「あの心霊スポット行ってみようか……」などと、深夜にドライブをしたものです。僕の地元にも有名なトンネルがあって、そこでは、誰もいないのに人の駆け足の音が聞こえるとか、壁に人の顔が無数に映っているなどの噂がありました。僕らが出かけた時は、不幸、いや幸運にも何も出なかったのですが、やはり深夜のトンネルには「出そう」というイメージがあります。
さて、今回、無線でLEDが点灯する「X(クロス)ベース」という製品が非常にユニークなので、読者の皆さんにその使い方を伝えたいと思っていた中、2017年12月29日に僕のSNS「MINIATURE CALENDER」(http://miniature-calendar.com/171229/)に掲載した作品を思い出したのです。
この時は、単にトンネル内の照明や車のライトを表現したにすぎなかったのですが、「JAF Mate」の8・9月号掲載の作品だから、読者の皆さんに「夏」を想起させたい、でも「Xベース」を使いたい、それなら「トンネル」を表現した過去の作品があるなぁ、などと思考の樹海をさまよっているうちに出遭ってしまったのが? このアイデアです。
草木も眠る丑三つ時。
「もうひと稼ぎしよう」と、山道でショートカットして街へ向かうタクシー。
その先には「出る」と噂されるトンネルがあることはわかっていたが、運転手は、「まさかね」と鼻で笑っていた。
だが、その入り口に白い服を着た女が!
ずぶ濡れだ。満天の星空なのに!!
運転手はアクセルを踏み込んだ。
スリッパのように出口のないトンネルの闇の中へ……。
そう、幽霊の要素をプラスして、過去の作品とベースは一緒でも、全く異なる「ミニも奇妙な物語」となるのです。
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「ホラー! やっぱり出た!」を表現した材料
トミーテック「THE カーコレクション80 vol.5 トヨタクラウン(MS60型)」
深夜、こんなところでなぜ? という場所で乗せた女性客が忽然と姿を消した……という定型文のようなホラーエピソードがあるタクシー。そこで、作品では誰もがひと目でタクシーだと認識できるミニカーをセレクトしました。最近はワゴンタイプなども増えていますが、僕の中でタクシーといえば、ちょっと角張っていて、黄色の車体が一番ぴったりくるイメージ。ちなみに、このミニカーは、1980年代に活躍した車を再現したシリーズのひとつです。
塗装した幽霊の人形
トンネルの入口でタクシーを待っていたのは、この人形。当然、市販のモデルではなく、市販品を塗装したオリジナルです。その作り方は次ページで確認してください。
スリッパと樹木の模型
1足分のスリッパで片道1車線のトンネルを表現。スリッパもタクシー同様、おしゃれなものにはせず、いわゆる「便所スリッパ」とか、その昔、とんねるずがコントで使っていたような、スリッパらしいスリッパにしました(笑)。その周囲には市販されている針葉樹の情景模型を配置して森に見せました。
(上)ハピネット「Xベース ワイヤレスパワーステーション」1万9800円
(下)ハピネット「Xベース ワイヤレスLED」3500円
そしてこちらが、今回の作品の肝試し、ではなく肝となった「Xベース」。通常、模型に電飾を仕込む場合、配線が必要になるのですが、これはワイヤレスタイプ。写真上の黒いベース部に、写真下のLEDを配置すると点灯します。ホワイト、レッド、ブルー、グリーン、アンバー、ピンク、パープルの7色もあるので、様々な表現に使えますよ。
→次ページ:「いよいよ制作!」
いよいよ制作!
(1)塗装で幽霊らしい? ずぶ濡れ感を表現
いつものプライザー社の人形を幽霊風味に塗装。肌は青白いどころか、グレーに近くして不気味さアップ! 長い髪の毛は、ずぶ濡れになっている感じをイメージし、べったりと体に張り付いているように表現しました。服は迷うことなく白に。幽霊というと、白い服を着ているイメージがありますからね。
(2) 「Xベース ワイヤレスパワーステーション」を撮影台の下に隠す
まず、無線でLEDを点灯できる「Xベース ワイヤレスパワーステーション」にACアダプターをつないで電源オン。これだけで、幅30×高さ32×奥行き33cmの空間にワイヤレスで電力を供給できるようになります。ただ僕の作品を撮影するうえで、この装置が見えてしまうのはNG。
なので、底部にジオラマを配置するベースを載せ、さらに奥のつい立のように立つ部分もペーパーを被せて隠しました。「Xベース ワイヤレスパワーステーション」の上に、直にLEDを載せなくても点灯させられるので便利です。
(3)スリッパの内側に「Xベース ワイヤレスLED」を接着
スリッパの内側にトンネル内の電灯をイメージした「アンバー」の「Xベース ワイヤレスLED」を練り消しゴムで接着。このほかにも、タクシーの行灯(屋根の上に乗っているあれ)、前照灯は「ホワイト」、尾灯は「レッド」で表現し、このライトの色味を残して、デジタル加工でミニカーそのもののライトが点灯しているように見せました。
ところで、タクシーの右サイドをよーく見ていただきたい。
おわかりいただけただろうか……。
幽霊の人形が青白く見えるのは、そう、車体の横に隠すように青色LEDを配置していたからなのです。キャー!
今回は、ちょっとハイテクな装置を使いましたが、写真で見せる作品だからできる超アナログなテクニックも使っていますよ。
(4)手持ちの懐中電灯で夜の明るさを表現
普段、撮影で使うスポットライトを使うと陰影がつきすぎて、作品の全体像が見えにくくなります。そこでスマホのライトで作品の周囲を何枚か撮影。複数の写真をフォトショップを使って合成し、暗くても作品の細部がきちんと見えるように調整しました。これはちょっと難易度高めの技ですが、最近はスマホのアプリで様々な加工ができるので、自分なりに挑戦してみてはいかがですか?
ミニチュア写真家:田中達也(たなか たつや)
1981年、熊本県生まれ。広告関連のアートディレクションに携わりながらInstagramにアップしていたミニチュア作品が大人気に! 「ミニチュア写真家」へと転身する。2017年に話題を呼んだNHK連続テレビ小説『ひよっこ』のタイトルバックのミニチュアも手がけた。「MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界」が国内外各地で開催中。
写真集『MINIATURE LIFE』『MINIATURE LIFE2』(水曜社)を上梓。
彼の作品は、http://miniature-calendar.comをチェック!
企画構成・文/寺田剛治