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ライフスタイル最終更新日:2017.10.13 公開日:2017.10.13

第11回 茶道の町に咲く、甘い雪の花 ●雪花糖(せっかとう)

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北陸新幹線が金沢まで開通してから、北陸各県を身近に感じるようになった人も多いと思います。東京方面から糸魚川の手前で北陸自動車道と交差し、海沿いに出たりトンネルに潜ったりしながら時々見える日本海の景色は旅情に溢れています。
金沢から日本海沿いに、福井方面に30kmほど南にあるのが小松市です。小松を訪ねるのは初めてで、お隣の富山県には何度も行く縁があるものの、私は今まで、石川県のことはほとんど知らないで来ました。
金沢と言えば加賀の国の中心、お菓子ひとつとっても加賀百万石の城下町らしく華やかな風情です。そのイメージが強すぎたせいか、自分には少し派手で、「ハレの日」のお菓子というイメージを持っていました。
さて、今回はどこを訪ねようかと考えた時、昔から記録していたお菓子の写真を掘り起こしてみると、石川県の、ある小さなお菓子の写真が出てきました。それが以前食べたことのある、「雪花糖」。
雪花糖を製造販売しているお店は、「行松旭松堂(ゆきまつきょくしょうどう)」といって、石川県小松市にあります。まず小松市周辺のことを調べてみると、金沢のようなきらびやかさとは違う、独自の道を歩んで来たようにも思えて、俄然興味が湧いてきました。
加賀のお菓子屋さんには、古くは加賀藩の御用菓子として始まり400年近く続いているお店もあるといいます。前田利家の入府以来の加賀文化のひとつとも言える、小松の和菓子はどんな道筋だったのでしょうか。小松駅からも近い行松旭松堂を訪ねて、6代目のご長男で、将来の7代目となる行松宏展(ひろのぶ)さんにお話をお聞きしました。

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行松旭松堂の創業は1838(天保8)年、小松で一番歴史のある老舗和菓子店です。雪花糖は、このお店の中心とも言える歴史あるお菓子で、裏千家発祥の地とも言われる小松の銘菓。裏千家14代・淡々斎(たんたんさい)宗室が好んだお菓子でもあるそうです。お茶道具の袱紗(ふくさ)や茶杓(ちゃしゃく)と同様に、雪花糖も淡々斎好みのひとつだったのでしょう。
その昔、千家4代・仙叟(せんそう)宗室が、加賀藩三代藩主前田利常の御茶堂(将軍や藩主の茶道指南の役職。茶道とも言う)として仕えていたため、利常が隠居城であった小松城に入城する際に小松に移り、利常の文治政策の一端を担ったそうです。そんな歴史的背景もあり、小松は「茶道の町」と言ってもいいくらいに、茶道が盛んに行われてきました。ということは、お茶にはお菓子がつきものですから、当然の如くお菓子屋さんも増えていったというわけです。
かなり減ったとはいえ、いまだ50軒ほどが餅菓子から上菓子までを作っているというのですから、お茶とお菓子の文化が長く引き継がれている町と言えます。

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雪花糖の作り手は、6代目ご主人である行松文男さんです。脈々と店に伝わる製法は一子相伝、文男さんのみが知るもので、息子の宏展さんはその全貌をまだ知らないとのこと。現在は、雪花糖は文男さん、そのほかにたくさんあるさまざまなお菓子を、宏展さんと若い職人さんとで製造しているそうです。

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雪花糖は、見た目からはどんなお菓子なのか想像しにくく、真ん中にくるみが入った落雁のようなお菓子に見えます。実際、材料は落雁に似ていますが、違うのは型を使わないことでしょうか。
白山で採れたくるみを蜜漬けし、そのまわりに、和三盆糖と合わせた寒梅粉を、丸く小さな雪玉のような形になるまで、何度も転がしながら作っていくそうです。
微妙な湿度が影響するこのお菓子、2週間の日持ちとは言え、なるべく早めに食べてほしいと、文男さんは言います。
このシンプルさは、華やかな印象の金沢から少し外れて、脈々とお茶の習慣が続いている小松の土地に相応しい気がしました。この店舗のほか、販売は小松市内だけというのは、雪花糖を大事にする作り手の気持ちであり、地元を思う気持ちの表れでもあると思いました。

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→次ページ:行松旭松堂の和菓子

行松旭松堂の和菓子

行松旭松堂のお菓子を、もう少しご紹介しましょう。
老木のような栗入りの「松古木」や、うぐいす豆の香りの「並木道」、干し柿を使った「冨友柿」、「旅の友」と名付けられた羊羹などなど。それに5~6種類ほどの生菓子も作っているというのですから、おやつやおもたせから、お茶席まで、ということになります。
その中の「おさの音」は、素朴な包みが魅力的な柔らかい餅菓子です。
くるみ入りの四角い羽二重餅が5個入った姿もよく、たくさん買って一包みずつお土産にしたくなります。箱のかけ紙も素敵で、菓銘の「おさ」とは、機織りに使う櫛形の道具のことだとか。

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一方、雪花糖の包みは、白山の景色にくるみの柄。このまま取っておきたくなる絵柄です。
実はもうひとつ、何とも可愛らしい包み紙に気がつきました。濃い色の地に線が引かれて4つに分けられているのは、四季を表す柄。主張するわけでもなく、しかし何気なく、お菓子は季節を表すものと気づきます。意匠を大切にするお菓子屋さんはほとんどが箱や包装紙、かけ紙に風情があるのです。

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風情ある町家が残る通りを歩きながら、帰り道、宏展さんが東北の震災以来続けているという支援活動のことを考えながら思ったこと。お菓子で人に手を差し伸べることは、お茶も必要になり、そのセットが目の前に並べば、自ずと人が集まって一息つく時間ができる。震災の後、被災した方が「きちんとお湯呑みにお茶を淹れてお菓子を一口食べたとき、初めてほっとした」という言葉を思い出しました。
おいしい小さなお菓子は、幸せの象徴ですね。

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●行松旭松堂(ゆきまつきょくしょうどう)
石川県小松市京町39-2 ℡0761-22-3000
【営】9:00~19:00(火曜~12:00)【休】火曜午後 
雪花糖7個入り669円、15個入り1,404円

写真・文○長尾智子
料理家。雑誌連載や料理企画、単行本、食品や器の商品開発など、多方面に活動。和菓子のシンプルさに惹かれ、探訪を続けている。新刊『食べ方帖』ほか著書多数。

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