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最終更新日:2017.03.15 公開日:2017.03.15

第10回 熊谷守一(もりかず)(1880~1977)

87歳のとき、「これ以上人が来たら困る」と文化勲章を辞退、97歳で生涯を終えるまで自宅にこもって”自分の絵”を描き続け、”画壇の仙人”とも呼ばれた画家、熊谷守一。代表作は、単純な線と斬新な色使いで、虫や猫、花や果物などを描く”守一様式”とも呼ばれる晩年の作品。それらを完成させたのは、70歳を過ぎてからのことでした。

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晩年の熊谷守一。

熊谷守一は、1880(明治13)年、岐阜県恵那郡付知(つけち)村(現・中津川市付知町)の地主の家に、7人兄弟の末っ子として生まれました。父は岐阜市内で製糸工場を営み、初代市長になった勢力家。守一は3歳になると実母と別れ、岐阜市内の家で、父や妾、親類縁者と暮らすことを余儀なくされます。
17歳で進学のために上京、その後、父を説得し、小さいころから好きだった画家への道を歩むため、20歳で東京美術学校(現・東京藝術大学)西洋画科撰科に入学。同期生は青木繁、児島虎次郎、先生に黒田清輝、藤島武二など、そうそうたるメンバーでした。

当時から才能を認められていた守一は、テニスやスケッチ旅行をしたりと、学生生活を楽しく過ごしていましたが、翌年夏に父が急死、兄の助けで何とか24歳で卒業できました。
卒業後は自活のため、絵師として国の樺太調査団に参加。帰国後は東京で下宿生活をしながら、展覧会に絵を出品する生活を続けます。

1910年、守一30歳のとき、母が死去。故郷の付知に帰り、そのまま5年間暮らします。
深い山間の村、付知は、かつて木材の産地として栄えていました。兄の家に居候して馬の世話をしていた守一は、最後の二冬を「日傭(ひよう)」という、山で切り出した木を川に流す仕事をして暮らします。その5年間に描いたのは、かわいがっていた馬の絵と、写真を見て描いた父、母、甥の肖像画、合わせて4点だけでした。

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「馬」(1913年)中津川市蔵。

35歳で再び上京、二科展などに出品します。結婚は42歳のとき。5人の子供に恵まれますが、次男を3歳で、三女を1歳で、長女を21歳で亡くしています。

結婚前も結婚後も、ひどい貧乏生活。子供も動物も大好きだった守一ですが、病の子供を医者に診せるためのお金がないときでも、どうしても売るための絵は描けませんでした。

57歳で日本画も描き始め、翌年から画廊やデパートで展覧会が開催されるようになります。このころから徐々に、晩年の作風につながる、輪郭に太い線を使った作品も発表し始め、1964年にはパリの画廊で個展を開催、その後も生涯”自分の絵”を描き続けました。

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「雨来」(1963年)熊谷守一つけち記念館蔵。

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「ざくろ」(1972年)熊谷守一つけち記念館蔵。

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「猫」(年代不詳)熊谷守一つけち記念館蔵。

生まれ故郷の付知に、2015年9月オープンした「熊谷守一つけち記念館」は、初期から晩年までの作品と、守一が実際に使っていた生活用品や愛用品なども展示する貴重な場所。年とともに変わっていく守一の作品と、写真やゆかりの品を通じて、その人生と”人となり”を知ることができます。

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付知の木材をふんだんに使用した館内の窓からは、守一が「雨乞だな」で描いた故郷の山も見え、感慨一入(ひとしお)。

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「雨乞だな」(1961年)中津川市蔵。

「守一が付知で暮らしたのは生後3歳までと、30歳からの5年間でしたが、ここの山や川、森、馬との生活、日傭の仕事が、晩年の作品に影響を与えたように思うのです」と、館長の小南佐年(こみなみさとし)さん。
52歳から、亡くなる97歳まで暮らした東京・池袋の自宅跡地に、「豊島区立熊谷守一美術館」も在りますが、ここ付知も間違いなく、守一の”聖地”なのでした。

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熊谷守一つけち記念館
岐阜県中津川市付知町7713 ℡0573・83・0050

【開】10:00~17:00 (入館は16:30まで)

【休】月曜(祝日の場合は翌日)、
年末年始、展示替え等による臨時休館あり

【料】一般700円、中学生以下無料

☆JAF会員証提示で、一般100円引き(会員含む2名まで)

撮影=村上宗一郎 

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