レシピ05:「エリア51の誰そ彼」の作り方
SF映画好きの趣味を炸裂させた「洋画あるある」情景
アメリカの広大な農場。一面の麦畑に落ちる夕陽。実にのどかな風景ですよね。でも、それだけじゃつまらない! と思ってしまったんです。僕はSF映画が好きなんですけれど、なぜか農夫がUFOや宇宙人に遭遇、「オーマイガッ!!」となる。そんな「洋画あるある」の情景を1枚にしました。
……とは言っても、これは『JAF Mate』の連載。ミニカーを使った情景であること、そして今回は秋を想起させることが前提条件。UFOの模型を使うわけにもいかず、どうしたものか……と悩みに悩んで思いついたのがコレ!
広大な麦畑は、靴磨き用のブラシ。
妻が迎えに来たのは、飼料収穫機での仕事を終えた農夫。
ふたりの様子を、麦を食みながらのんびりと眺める2頭の牛。
その奥に沈む夕日は、ノートPCに表示した夕日の画像……。
情緒たっぷりな情景だけれど、不吉を感じさせるファクターを盛り込みました。何で農場? と思うかもしれませんが、「エリア51」という設定です。
そう、昔UFOの特番で散々、僕たちをビビらせたUFO墜落事件があったとされる場所にしたのです。
牛はもしかして、キャトルミューティレーション(動物の死体がくり抜かれたり、血液が抜き取られる事件)の餌食になっちゃうの? とか想像が膨らんで、怖く感じませんか?(笑)
ちなみに、タイトルの「誰そ彼」は、人の顔が見分けにくくなる夕方のこと。薄暗くなって顔を識別できず、「誰だあれは」となることから、「黄昏」という当て字が生まれたとの説があります。作品名からも宇宙人の存在を匂わせてみました。
「エリア51の誰そ彼」を表現した材料
ジク社「Claas 飼料収穫機」(734円)
麦やトウモロコシなどの飼料作物を刈り取り、脱穀などが行える農作業用車両のミニカー。先端のカッティングロールベーラが特徴です。スケールの関係で、フィギュアとさほど大きさが変わらないので、フィギュアを手前に置くことで巨大な車両のように見せる工夫をしました。
農夫とその妻、牛のフィギュア
今回も使用したのはプライザー社のフィギュア。夫婦の人形は、もともと色付きなのですが、僕が作りたい世界観に合わせて緑色に再塗装。さらわれる運命が待っている家畜の人形はジャージー牛に! 僕の勝手なイメージですけど、ホルスタインだと日本ぽい感じがするんですよね。(笑)
靴磨き⽤ブラシ
麦畑の表現に使用したのが、こちら。並べるだけで、あっという間に麦畑を開墾できちゃいます。ブラシの毛先をカットすれば、刈り取ったばかりのように見えるのも便利です。もちろん高級ブラシではありませんが、ひとつ1000円。ゆえに今回は8個使用したから8000円也!(涙)
ノートPC&夕日の画像
背景がリアルと思った人も多いでしょう。そりゃそうです。実は今回、ノートPCの液晶画面に夕日のフリー画像を表示して、それをジオラマの背景にしたのです。皆さんが個人的に使う場合は問題ありませんが、私はプロ。ちゃんと画像使用料を払いました。(涙、再び)
いよいよ制作!
(01)
毛先をカットし刈り取りを終えた麦畑を再現!
靴磨き用ブラシの一部をカット! そうすることで、飼料収穫機で刈り取られた状態の麦畑を表現。根元部分を残すとリアルに見せられますよ。
ご存知のように靴磨き用の毛は、少し硬い。カットする際には、ハサミではなくニッパーを使いましょう。
(02)
あの玩具を利用して高さを調整!
ノートPCに表示した夕景を使うため、ジオラマを配置する場所がキーボード上になってしまいます。撮影用の台と異なり、自由に高さ調整ができないので木製のブロックを使用しました。今回使用したのは「ジェンガ」! キーボードに置いてしまうと「あああああああ」みたいに文字が表示されてしまう恐れがあるので、避けるように!
(03)
ブラシの配置の仕方で広大な麦畑に!
いくつもブラシを並べるので、どうしてもその間に隙間が生じてしまいます。そこで牛の人形を配置したブラシを手前にし、レンズに対して横向きに配置しました。作品を見てください。広大な麦畑に仕上がっているでしょ!? さらにカットしたブラシの毛先をばら撒いて、収穫を終えたばかりの麦畑を演出しました(写真下)。ちょっとした工夫で壮大かつ、繊細な情景になるんですよ。
ミニチュア写真家:田中達也(たなか たつや)
1981年、熊本県生まれ。広告関連のアートディレクションに携わりながらInstagramにアップしていたミニチュア作品が大人気に! 「ミニチュア写真家」へと転身する。ハリウッド映画『アントマン』に作品を提供するなど、世界的にも活躍。現在放映中のNHK連続テレビ小説『ひよっこ』のタイトルバックのミニチュアも手がける。
写真集『MINIATURE LIFE』『MINIATURE LIFE2』(水曜社)を上梓。
彼の作品は、http://miniature-calendar.comをチェック!
企画構成・文/寺田剛治