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クルマ最終更新日:2018.02.27 公開日:2018.02.27

ハチロクこと「AE86」頭文字D 新劇場版オフィシャルカーを激撮!!

 現在、日本の旧車でおそらく最も有名な1台といえば、”ハチロク”ことトヨタ「スプリンター トレノ(AE86型)」ではないだろうか。全48巻で約5000万部の発行部数を誇るコミック「頭文字(イニシャル)D」が連載を開始したことで、1990年代半ばから爆発的に知られるようになった。この1車種だけの中古車市場まで形成されるに至り、もはや社会現象といっていいほどのハチロク旋風を巻き起こした。

 そして多くのファンが中古のハチロクを購入し、劇中の「藤原とうふ店」号の完全コピー車製作に挑んだ。そんな中から、今回は同作品のアニメ新劇場版においてオフィシャルカーとして選ばれ、DVDジャケットなどにも登場するほどの完成度を誇る、1983年式ハチロク(オーナーは岡本律哉さん)を撮影したので紹介しよう。

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「頭文字D」アニメ新劇場版のオフィシャルカー。ボディ右サイドの「藤原とうふ店」(主人公の自宅はとうふ屋で、ハチロクが配達車で手伝いをさせられている)のロゴは比較的見かけるが、内装もこだわり抜いて細かいところまで再現度が高められた1台。2017年11月25日に開催された「2017 トヨタ博物館 クラシックカー・フェスティバル in 神宮外苑」にて撮影した。

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左サイドをローアングルから。ナンバープレートは撮影用に、アニメ新劇場版のものに変更してある細かさ。主人公のホームコースは群馬県榛名山をモチーフにした架空の「秋名山」の山頂付近にある秋名湖とふもとの温泉街をつなぐワインディングロード。

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ハチロクを右サイド後方から。ボディ側面に貼ってある「89」とは、「2017 トヨタ博物館 クラシックカー・フェスティバル in 神宮外苑」でのゼッケン。

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ハチロクとはどのような系統のクルマだったのか?

ハチロクは「カローラ」の系譜に連なるクルマ!

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真横から見たところ。ファストバックスタイルがよくわかる。ファストバックとは絶対的な定義ではないが、トランクルームがなく、ルーフからリアエンドまで運転席後部のライン(このハチロクの場合はリアゲート)がつながっているデザインのことをいう。

 さて、ハチロクがトヨタ車の中でどのような系統に位置づけられるクルマだったのだろうか? まずはどのような流れの中で誕生してきたのかを振り返ってみよう。

 ハチロクは、1966年に誕生したトヨタの国民車「カローラ」の系列に含まれる。68年になって、若者向けとしてファストバックスタイルを持つスポーティー・クーペの「カローラ スプリンター」をグレードのひとつとして追加。それが「スプリンター トレノ」の初代だったのである。なお、スプリンターとは「短距離走者」の意味を持つ(カローラは、「花の冠」の意味)。

2代目から独立して「スプリンター」となった!

 70年になると、2代目はトヨタオート店用として「カローラ」から独立させることになり、「スプリンター クーペ」が誕生する(ファミリーカーとして「スプリンター セダン」などもあった)。同時にカローラ店用には、「カローラ スプリンター」をベースとしたスポーツモデル「カローラ クーペ」が新設される。これは「スプリンター」の兄弟車で、劇中でも「スプリンター トレノ」と「カローラ レビン」が兄弟車と語られていたことを覚えている人も多いだろう。その関係性は、販売チャネルがふたつに分かれたこのときにスタートしたというわけだ。

 そして74年に誕生した3代目になると、「トレノ」と「レビン」の名が誕生する。「スプリンター」の内、1600cc・水冷直列4気筒DOHCエンジン「2T-GR」を搭載した最上位グレードに「トレノ」の名が与えられた。ちなみにトレノとは、スペイン語で「稲妻」という意味である。

 一方「レビン」の方は、1600cc・水冷直列4気筒DOHCエンジン「2T-GEU」を搭載した「カローラ クーペ」の最上位グレードに与えられた。レビンもまた、英語で「稲妻」の意味である。そして、どちらにも「GT」のバッジが貼られることとなった。

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ハチロクを真後ろから。当時、トヨタはDOHCと書いて「ツインカム」とルビをふるなど、そのままDOHCという言葉を使わない傾向で、ハチロクにも左のランプの上の「APEX」の右に「TWIN CAM 16」と記されている。

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ダブル・ハチロクはこうして生まれた!

「スプリンター トレノ」と「カローラ レビン」の誕生!

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ハチロクを正面から。作品のファンならお馴染みだが、「スプリンター トレノ」はリトラクタブル方式のヘッドライトを採用しており、固定式のヘッドライトの「カローラ レビン」とデザイン的に異なる。

 79年の4代目を経て、83年5月12日にいよいよ5代目が登場。しかもこのときは、「スプリンター」系も「カローラ」系もファミリーカーはすべてFF車になったこともあって車名が大きく変更された。スポーツモデルはFR方式が継続され、グレードに関係なくすべてに「スプリンター トレノ」もしくは「カローラ レビン」の名が与えられたのである。今回紹介している「スプリンター トレノ」は、「カローラ スプリンター」から数えて5代目だ。

 劇中で主人公が乗るグレードは3ドア(リアゲートがある)のボディタイプで、最上位の「1600 GT APEX」。車両型式は「E-AE86-FCMVF」だ(作中では略して「AE86」と紹介されていた)。その車両型式は「カローラ レビン」も同じである。1587ccの水冷直4DOHCエンジンで名機といわれる「4A-GEU」をどちらも搭載する。 

 なお、「カローラ レビン 1600 GT APEX」のひとつ下のグレードで同じエンジンを搭載する「GTV」については、こちらの記事で同乗試乗した際の画像や動画をお楽しみいただくことが可能だ。ぜひ、「4A-GEU」の雄叫びを聞いてほしい。

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「スプリンター トレノ」もいろいろあった!

「スプリンター トレノ」の中の”ハチゴー”

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ライトを点灯すると、リトラクタブル方式なのでアップしてくる。劇中で主人公は、空力が悪化するのを防ぐため、真っ暗闇の山道において、前走車のライトと超絶的な記憶力と想像力だけを頼りに走るという狂気じみた走法「ブラインド・アタック」を身につけ、必殺技のひとつとするのはファンならお馴染みのエピソード。でも、道交法に違反するだけでなく、危険極まりない行為なのはいうまでもないので、よい子は決してマネしないように。

 同じ「スプリンター トレノ」のグレードのひとつなのだが、”ハチゴー”と呼ばれるクルマがあったことは、作品のファンならご存じだろう。主人公の少々ドジな親友が、勘違いから買ってしまった1台である。それは「1500 SR」と呼ばれるグレードで、型式は「E-AE85-FCMXS」。大きく異なるところのひとつがエンジン性能で、1452cc・水冷直列4気筒OHCエンジン「3A-U」を搭載し、ハチロクがノーマルで130馬力なのに対し、83馬力しかなかった。

 さらに、劇中ではもう1台の重要なハチロクが出てくるので触れておこう。こちらは2ドアの「スプリンター トレノ」で、グレードは同じ「1600 GT APEX」、型式は「E-AE86-FSMVF」となる。ファンサイトなどでは、85年式の後期型といわれている。

 この後、「スプリンター トレノ」と「カローラ レビン」は87年に6代目にスイッチ。91年の7代目を経て、95年には8代目を数えた。しかし、日本ではこの頃からクーペやスペシャリティカーの市場が大きく縮小していったため、2000年に生産終了。「スプリンター トレノ」と「カローラ レビン」は歴史上の車種となったのである。

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原作でもよく描かれたような角度から撮影してみた。なお同車は、原作コミックでは比較的序盤に当たるバージョン。劇中の最終戦までにハチロクは大きく様変わりするので、今回は序盤を描いたアニメ新劇場版仕様というわけだ。オーナーの岡本さんに聞いたところ、かつては、黒いカーボン製ボンネットなど、原作コミックの最終仕様にしていた時期もあるそうだ。

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ハチロクのスペックを紹介!

ハチロクスペック

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車内。ポイントはハンドル左の紙コップ。劇中で、元ラリーストの父親が主人公のドライビングテクニックを磨くために用いた手法を再現している。紙コップいっぱいに入れられた水をこぼさずに全開で走るには、コーナリングで超絶的に滑らかな荷重移動が求められる。紙コップに水を入れて、毎早朝のとうふ配達で山道を上り下りしている内に、主人公は「秋名ダウンヒル最速」のテクニックを身につけていったのである。なお、実際に紙コップに水を入れて走ると、普通はバッシャバッシャとこぼれるので、マネするのはやめた方がいいというのはオーナーの岡本さんの言葉。

 「スプリンター トレノ」、「カローラ レビン」、どちらもハチロクは同じスペックとなっている(車重は、当時のカタログを参照)。

【サイズ・重量】
全長×全幅×全高:4200×1625×1335mm
ホイールベース:2400mm
車両重量:940kg
車両総重量:1215kg

【エンジン】
名称:レーザーα4Aツインカム16
型式:4A-GEU
種類:水冷直列4気筒DOHC
排気量:1587cc
最高出力:130馬力(95.6kW)/6600rpm
最大トルク:15.2kg-m(149N・m)/5200rpm
燃費(10.15モード):13.4km

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劇中で主人公の愛車として選ばれた理由が、原作者のしげの秀一氏が、かつてハチロクに乗っていたから。ただし、しげの氏の愛車はサンルーフ仕様に乗っていたことから、原作で車内の天井部分を描く際、勘違いでサンルーフがあるように描いてしまっていたそうである(主人公のハチロクにサンルーフはない)。同車は、その点までこだわって細かく再現されている。

2018年2月27日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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