2022年01月28日 06:00 掲載

交通安全・防災 AIが片側交互通行をコントロール。日本初「長野方式」の最新道路対策を、国道19号・犬戻トンネルの地すべりにみる【第2回】

2021年7月、名古屋市と長野市を結ぶ大動脈、国道19号の犬戻トンネル付近で地すべりが発生した。片側交互通行規制を余儀なくされた同路線で、上下線の切り替えタイミングをAIで判定する「長野方式」が両方向に延びる渋滞のコントロールに大きな成果を挙げたという。無人化施工が進む道路工事の最新技術を紹介しよう。

神林 良輔

国道19号の片側交互通行規制でサイクル長の調整にAIが導入された。 写真=くるくら編集部

国道19号の片側交互通行規制でサイクル長の調整にAIが導入された。 写真=くるくら編集部

 2022年1月現在、国道19号・犬戻(いぬもどり)トンネル西側出口付近(長野市篠ノ井小松原地先)で、片側交互通行規制が実施されている。これは2021年7月6日に発生した地すべりによる土砂が道路上に流れ込むのを防ぐため、山側の上り車線(長野市→松本市方面)を利用して、土砂から道路を防護する鉄柵が数十mにわたって設置されたためだ(詳しくは第1回を参照のこと)。

今回発生した地すべり。画像下部中央に見えるのが、犬戻トンネル西側出口。 写真=長野県提供

今回発生した地すべり。画像下部中央に見えるのが、犬戻トンネル西側出口。画像右上から地すべりが発生している。 写真=長野県提供

片側交互通行規制を実施する際の課題

 今回の片側交互通行規制には大きな課題があった。それは、国道19号の犬戻トンネル近辺を含む区間は、とても交通量が多いということ。そして上下線の交通量が常に変動しているため、上下線の切り替えタイミング(信号パターン)を調整するのが難しいことだ。

国道19号の犬戻トンネルを含む区間は上下線合わせて1日に2万台強が通行する。写真=くるくら編集部

国道19号の犬戻トンネルを含む区間は上下線合わせて1日に2万台強が通行する。写真=くるくら編集部

 2015年に国土交通省が発表した「平成27年度 全国道路・街路交通情勢調査 一般交通量調査 集計表」(道路センサス)によれば、同区間は上下線合わせて1日2万台強が通行する。このような幹線道路の場合、上下線を一定の青時間で切り替えていると、混雑している側の車線で渋滞が大きく延伸してしまう。また、手動で切り替えを行うためには、広範囲に監視員や作業員を配置して、交通量、渋滞長などをチェックし、その時々の交通状況に合わせて、適切に青時間を調整しなくてはならない。しかし、そうした柔軟な対応は非常に難しいという。

 今回の規制区間でも、片側交互通行規制が始まった7月14日から9月18日までは、上下線ともに規制区間の数km手前の地点まで総勢10~13名の監視員・作業員を配置し、交通量などをチェック。その情報を集約した上で手動での切り替えが行われていたが、それでも混雑している側のドライバーから苦情が入ることもあったという。

日本初のAIによりサイクル長を調整する「長野方式」を導入

 そこで国土交通省は、上下線で偏った滞留が発生しないようにするため、AIを導入し、信号パターンを交通量に合わせて自動調整することを決断した。AIによる自動調整は日本初の方式であり、通称で「長野方式」と呼ばれている。

 その第1ステップとして7月24日、12台のLIVEカメラを必要な地点に設置。この時点ではAIは導入されていないため、それらのLIVEカメラからの映像を規制監視室の監視員が確認し、適切な信号パターンを算出して現場の作業員に伝達し、上下線の切り替えを実施した。その交通状況と監視員の指示はAIの教育用データ(教師データ)として蓄積していった。

規制監視室の様子。17箇所に設置されたモニターの映像が映し出されており、ここで上下線の切り替えを行う。

規制監視室の様子。17箇所に設置されたモニターの映像が映し出されており、ここで上下線の信号の切り替えを行う。 写真=くるくら編集部

 そしておよそ50日後の9月19日、第2ステップとしてAIによる試運転がスタート。信号パターンは最短で1分から最長で6分まで、上下線の組み合わせで全26パターンを設定した。50日間かけて蓄積された情報を教師データとして鍛えられたAIは、LIVEカメラの映像から10分ごとに最適なパターンを選び出して監視員に提案。監視員はそれを確認した上で、信号機に手動で入力して運用するという方式へと改めたのである。その後さらに学習が深められ、現在ではAI自身が26パターンの中から判定した信号パターンを自動で信号機に設定できるようになった。長野方式は地すべりの発生からわずか2か月強でシステムが稼働し、上下線の切り替えを半自動化するに至ったのだ。

上下線のサイクル長の組み合わせの全26パターン。AIが交通状況から最適な組み合わせを選択する。画像提供:長野国道事務所

上下線の信号パターンの組み合わせの全26パターン。AIが交通状況から最適な組み合わせを選択する。 出典=長野国道事務所

 なお完全自動ではなく半自動なのは、片側交互通行で正面衝突を防ぐため、AIの制御に完全に任せず、最終車両の通過は規制作業員が行っているからだ。

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