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連載最終更新日:2023.06.14 公開日:2020.08.19

吉田 匠の『スポーツ&クラシックカー研究所』Vol.04 フェラーリを超えるスーパースポーツを目指した「ランボルギーニ」前編。

モータージャーナリストの吉田 匠が、古今東西のスポーツカーとクラシックカーについて解説する連載コラム。第4回は「ランボルギーニ」について。同社はいかにして世界屈指のスーパースポーツブランドになり得たのか、前後編の2回に分けてお届けする。今回はその前編。

文・吉田 匠 写真・アウトモビリ・ランボルギーニ

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中央の黒っぽいスーツ姿が創始者、フェルッチョ・ランボルギーニ。写真にあるミウラの発表が1966年だから、1916年生まれのフェルッチョ、50歳の頃の姿と思われる。

中央の黒っぽいスーツ姿が創始者、フェルッチョ・ランボルギーニ。写真にあるミウラの発表が1966年だから、1916年生まれのフェルッチョ、50歳の頃の姿と思われる。

<前編/1963-69年>
ランボルギーニ創立にまつわる”伝説”

現在はアウディ傘下、つまりフォルクスワーゲングループの一員ではあるが、イタリア製のスーパースポーツとして確固たるポジションを得ているランボルギーニ。その始まりは1963年、すでにトラクターの製造で成功を収めていた野心的な企業家にして、熱烈な自動車好きでもあったフェルッチョ・ランボルギーニが、北イタリアのモデナ郊外、サンタガタボロネーゼに自らの自動車会社、Automobili Ferruccio Lamborghiniを創立したことに始まる。

興味深いのは、ランボルギーニがその世界に進出しようとした理由だ。彼はすでに成功者だったのでフェラーリのGTを持っていたが、そのクルマに気になる部分があった。そこでそれについて話そうとエンツォ・フェラーリに会見を申し込んだが、エンツォはその申し出を無視、会見は叶わなかったという。そこでフェルッチョは「ならば自分で、フェラーリを超える理想的なスーパースポーツを造ってみせる」と一念発起、自動車メーカーを設立したというのが、ランボルギーニ創立にまつわる”伝説”となっている。

そのフェッルチョ・ランボルギーニが最初に世に出したクルマは350GTVで、1963年秋のトリノショーで発表、翌64年にはその生産型である350GTが発売される。それはその名のとおり排気量3.5リッターのエンジンを持つGT=グラントゥーリズモだが、そのスペックは多くの点で同時代のフェラーリGTを上回っていた。エンジンはフェラーリと同じV12気筒だが、フェラーリのヘッドがSOHCだったのに対して350GTはより高回転型に向いたDOHCを採用。しかもギアボックスはフェラーリGTの4段に対して5段。さらにシャシーの分野でも、フェラーリGTの後ろ脚がリーフスプリングで支えたリジッドアクスルという古典的な型式だったのに対して、350GTはコイルのダブルウィッシュボーン式独立懸架を採用という具合だ。

350GTのプロトタイプたる350GTV。カロッツェリア トゥーリングのデザインと製作になる。

350GTのプロトタイプたる350GTV。カロッツェリア トゥーリングのデザインと製作になる。

GTVより角が丸くなった印象の市販型350GT。

GTVより角が丸くなった印象の市販型350GT。

350GTのリアを上から望むの図。

350GTのリアを上から望むの図。

 さらにボディスタイリングもフェラーリとはまるで違った。フェラーリがカロッツェリア ピニンファリーナがデザインした典型的なイタリアンGTスタイルだったのに対して、ランボルギーニは戦前からそのライバルだったカロッツェリア トゥーリングにデザインを依頼した。その結果、350GTのデザインは、同時代のフェラーリとはまったく異なる個性的なスタイリングで世に出た。

350GTはやがてエンジン排気量を4リッターに拡大した400GTに発展、室内にリアシートを備える2+2座の400GT 2+2も追加された。パワーは320psで、5段ギアボックスを介して250km/hに達するという最高速も、もちろん同時代のフェラーリの4座GTを確実に上回っていた。実は当方、10年以上前に日本でコンディションのいい400GTに試乗したことがあるが、それは想像以上に洗練された、とても上質なドライビング感覚を味わわせてくれる高性能GTだった。フェラーリを超えるクルマをつくる、というフェルッチョ・ランボルギーニの熱い思いは、見事に実現されていると感じたのだった。

フロントでは、ヘッドライトが4灯式になったのが350GTとの最大の違い。

400GTは、フロントではヘッドランプが4灯式になったのが350GTとの最大の違い。

350GTよりキャビンを後方まで伸ばしてリアシートを設け、2+2座とした400GT。

350GTよりキャビンを後方まで伸ばしてリアシートを設け、2+2座とした400GT。

ランボルギーニがフェラーリに先駆けて1966年に世に送り出したミドエンジンスーパースポーツ、ミウラ。

ランボルギーニがフェラーリに先駆けて1966年に世に送り出したミドエンジンスーパースポーツ、ミウラ。

ミウラ誕生の衝撃

さらに1966年になると、ランボルギーニは衝撃的なモデルを世に送り出す。それはスペインの猛牛の名を車名としたP400ミウラで、4リッターV12気筒エンジンを2座コクピットの直後に横置きした、ミドエンジンのスーパースポーツだった。当時フェラーリは、レースカーこそミドエンジンが主流だったが、公道を走るロードカーはすべてフロントエンジンだったから、この分野でもランボルギーニがフェラーリの一歩先を走ったのである。もちろん、350psとされたパワーも、280km/hとされた最高速も、当時のフェラーリを凌ぐものだった。ミウラはやがて、より高性能なミウラS、ミウラSVに発展していく。

しかもミウラは、スタイリングも魅力的だった。そのデザインは一般にベルトーネに在籍していたマルチェロ・ガンディーニの作品とされているが、ベルトーネのチーフデザイナーがジウジアーロからガンディーニに代わった直後に発表されたクルマだったため、ジウジアーロが基本線を引いたものをベースにしてガンディーニが仕上げた、というのが時期的に考えて妥当なプロセスではないか、という推測も成り立つ。

古典的な味わいとスーパースポーツらしい獰猛さを併せ持つ、ミウラのプロフィール。

古典的な味わいとスーパースポーツらしい獰猛さを併せ持つ、ミウラのプロフィール。

斜めリアビューも魅力的。

斜めリアビューも魅力的。

立体的な造形でデザインされたダッシュボード。

立体的な造形でデザインされたダッシュボード。

ミウラのボディは2座コクピット部分を中心に残して、前後のカウルがガバッと開く。

ミウラのボディは2座コクピット部分を中心に残して、前後のカウルがガバッと開く。

コクピットの直後に横置きされた4リッターV12 DOHCエンジン。

コクピットの直後に横置きされた4リッターV12 DOHCエンジン。

 いずれにせよミウラが、非常に美しく魅力的なスタイリングのミドエンジンスポーツだったことに間違いはないが、同時にそれは走らせてもすこぶる刺激的なクルマだったのは、過去に複数回ドライビングした経験を持つ筆者が鮮烈に記憶している。背中のすぐ後ろでV12エンジンが官能的なサウンドを奏でながらパワーを絞り出して地面にへばりつくように低いボディを強力に加速させ、カーブでは路面を舐めるような感覚でコーナリングしていく。まさに男のためのスーパースポーツなのである。

次いで1968年、ランボルギーニは2つのニューモデルを発表する。400GTの後継車たる2+2座のイスレロと、そのシャシーをベースにしたまったく新しい4人乗りのGT、エスパーダである。400GTと同じくトゥーリングのスタイリングになるイスレロは、350/400GT系とは異なる60年代後半のクルマらしいやや角張ったデザインを採用していたが、ランボルギーニらしい個性には乏しかったといえるかもしれない。

400GTの後継モデルたるイスレロ。400GTよりぐっとシャープで直線的なデザインに変わった。

400GTの後継モデルたるイスレロ。400GTよりぐっとシャープで直線的なデザインに変わった。

400GTをシャープにした印象の斜めリアビュー。カロッツェリア トゥーリングが関わった最後のランボルギーニになった。

400GTをシャープにした印象の斜めリアビュー。カロッツェリア トゥーリングが関わった最後のランボルギーニになった。

イスレロのコクピット。変速機は当然3ペダルの5段MT。助手席側にはクーラーの吹き出し口が見える。

イスレロのコクピット。変速機は当然3ペダルの5段MT。助手席側にはクーラーの吹き出し口が見える。

 一方、ベルトーネにデザイン依頼されたエスパーダは、シャープなエッジと後端までほぼ水平のまま伸びるルーフラインなど、いかにも奇才ガンディーニらしい個性あふれるスタイリングを採用して登場した。エンジンは他と同じ4リッターV12で325㎰を発生、4人の大人を無理なくキャビンに収めて必要なら250km/hで走れるGTという、それまでになかったジャンルの高性能車を、ランボルギーニはまた生み出したのである。

奇才ガンディーニが手掛けた超個性的なエスパーダのスタイリング。シャープな面構成と、4人乗りのキャビンを得るためにリアまでほぼ水平に伸びるルーフラインが最大の特徴。

奇才ガンディーニが手掛けた超個性的なエスパーダのスタイリング。シャープな面構成と、4人乗りのキャビンを得るためにリアまでほぼ水平に伸びるルーフラインが最大の特徴。

広いグラスエリアのもたらす明るい室内もこのデザインのポイントのひとつ。

広いグラスエリアのもたらす明るい室内もこのデザインのポイントのひとつ。

二人の大人が快適に過ごすためにデザインされたリアシート空間。

二人の大人が快適に過ごすためにデザインされたリアシート空間。

後半へ続く

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