2020年09月17日 04:00 掲載

旧車 吉田 匠の
『スポーツ&クラシックカー研究所』
Vol.05
フェラーリを超えるスーパースポーツを目指した「ランボルギーニ」後編。

モータージャーナリストの吉田 匠が、古今東西のスポーツカーとクラシックカーについて解説する連載コラム。第5回は「ランボルギーニ」について。同社はいかにして世界屈指のスーパースポーツブランドになり得たのか、前後編の2回に分けてお届けする。今回はその後編。

文・吉田 匠 写真・アウトモビリ・ランボルギーニ

ガバリと上に跳ね上がるように開くドアがカウンタックの見せ場のひとつ。

ガバリと上に跳ね上がるように開くドアがカウンタックの見せ場のひとつ。

前編はこちら

<後編/1970-90年>
真打ち登場!

 1970年代に入ると、ランボルギーニはさらに変貌を遂げていく。まずはV6エンジンの小さなフェラーリ、ディーノに対抗するべく2.5リッターV8エンジンをミドシップに搭載した2+2座のウラッコP250を70年秋に発表、後にその2リッター版と3リッター版のP200 とP300を追加して、ディーノ包囲網を固める。これもボディスタイリングはベルトーネのガンディーニによるデザインだった。

 さらに同じ1970年、ランボルギーニはカロッツェリアトゥーリングの廃業によってボディの供給元がなくなったイスレロに換わる2+2座GTとして、これもベルトーネボディのハラマ400GTを発表。これまたガンディーニのデザインの手になるボディは、イスレロよりずっと現代的かつ個性の強いものだった。4リッターV12エンジンは350psを生み出し、5段ギアボックスを介しての最高速は260km/hといわれた。

イスレロの後継モデルとして1970年に登場した、日常使いにも向いたフロントエンジン2+2座GT、ハラマ40GT。ベルトーネのマルチェロ・ガンディーニによる直線的なスタイリングが特徴。

Lamborghini Jarama

イスレロの後継モデルとして1970年に登場した、日常使いにも向いたフロントエンジン2+2座GT、ハラマ40GT。ベルトーネのマルチェロ・ガンディーニによる直線的なスタイリングが特徴。

フロントは先代のイスレロと同じくリトラクタブルヘッドライトを採用、ボンネットのNACAダクトが新鮮だ。

フロントは先代のイスレロと同じくリトラクタブルヘッドランプを採用、ボンネットのNACAダクトが新鮮だ。

リアビューもシンプルにしてシャープ。

リアビューもシンプルにしてシャープ。

これも直線的なデザインのコクピットは豪華なだけでなく、使い易そう。

これも直線的なデザインのコクピットは豪華なだけでなく、使い易そう。

 1971年になると、70年代ランボルギーニを象徴するモデル、いわば真打ちが登場する。ミウラに代わるミドエンジンのスーパースポーツ、カウンタックのプロトタイプLP500がジュネーヴショーでデビューするのだ。やがて74年、それがカウンタックLP400として販売開始される。それはミウラとはまったく別物のシャシーを持つクルマで、4リッターV12エンジンをコクピット直後に縦置きし、しかも通常とは逆にトランスミッションをエンジンの前方に突き出した、独特のレイアウトを採っていた。それは、横置きエンジンのミウラで苦労したギアシフトフィールの向上を意図したためと思われる。

 カウンタックの最大の魅力は、ガンディーニが持てる才能すべてを発揮したといえるそのスタイリングにあるといっていい。ややクラシックな雰囲気も備えていたミウラと違って、カウンタックは70年代前半当時のトレンドだったエッジーなウェッジシェイプ デザインをピュアに表現したもので、見る者を驚かせる大胆さに満ちていた。ちなみに日本で"カウンタック"と呼ばれるCountachというイタリア語は、同国ピエモンテ地方の方言で「スゲー!」といった意味のContacc=クンタッチに由来するものといわれる。

1974年に発売された最初の市販型カウンタックであるLP400の、サイドウインドー後方にエンジンへのエアスクープが増設されたのを除けば、ガンディーニのデザインが最もストレートに表現された魅力的なプロフィール。

Lamborghini Countach

1974年に発売された最初の市販型カウンタックであるLP400の、サイドウインドー後方にエンジンへのエアスクープが増設されたのを除けば、ガンディーニのデザインが最もストレートに表現された魅力的なプロフィール。

シャープなエッジと片面的なパネルで構成されていながら、前衛彫刻のような趣も感じさせるリア斜め上ビュー。ミドシップに縦置きされた4リッターV12エンジンは375psを絞り出し、最高速300km/hを謳っていた!

シャープなエッジと片面的なパネルで構成されていながら、前衛彫刻のような趣も感じさせるリア斜め上からのビュー。ミドシップに縦置きされた4リッターV12エンジンは375psを絞り出し、最高速300km/hを謳っていた!

グレーの外板色にタンの内装というシックなカラーリングが不思議とマッチするLP400。直線的でありながらフェンダーラインの微妙なカーブが美しい。

グレーの外板色にタンの内装というシックなカラーリングが不思議とマッチするLP400。直線的でありながらフェンダーラインの微妙なカーブが美しい。

ワイドになったホイールとタイヤをカバーするためオーバーフェンダーが備わり、フロントにスポイラーも加わったLP400S。

ワイドになったホイールとタイヤをカバーするためオーバーフェンダーが備わり、フロントにスポイラーも加わったLP400S。

 1974年に発売されたカウンタックLP400は、4リッターV12エンジンから385psを発生、1200kgと公表された車重を300km/hの最高速に導くとされた。それに対して、4.4リッター水平対向12気筒エンジンをミドシップに収め、対カウンタックの急先鋒として登場したフェラーリ365 GT4/BBはトップスピード302km/hを標榜、BBこそが世界最速のロードカーだと豪語した。しかし実際はLP400もGT4/BBも300km/hに達することはなく、あくまでカタログの紙の上での争いだった、というのはよく知られた話だ。

 カウンタックはその1974年LP400をベースに、78年LP400S、82年エンジンを4.8リッターに拡大したLP500S、85年エンジンをさらに5.2リッターに拡大し、気筒当たり4バルブに変更したLP5000 QV=クアットロヴァルヴォーレとモデルチェンジしていき、90年にディアブロにその座を譲って生産を終了する。モデルチェンジするごとに、ボディ前後やサイドにスポイラー類やエアインテークなどが加えられ、スタイリングは徐々に仰々しくなっていった。

カウンタック最後の市販モデルとなった4バルブヘッドの5.2リッターV12エンジンを積むLP500Sクアットロヴァルヴォーレ。455psで最高速295km/hといわれた。

カウンタック最後の市販モデルとなった4バルブヘッドの5.2リッターV12エンジンを積むLP5000クワットロヴァルヴォーレ/25thアニバーサリー。455psで最高速295km/hといわれた。

基本のボディラインはLP400と同じながら、フロント、サイド、リア、それにリアフェンダー上面のエアインテークなど、多くの部分が装飾的になった。

基本のボディラインはLP400と同じながら、フロント、サイド、リア、それにリアフェンダー上面のエアインテークなど、多くの部分が装飾的になった。

イタリアのカントリーサイドのワインディングロードを走るクアットロヴァルヴォーレのリアビュー、5.2リッター4バルブV12の爆音が聞こえてきそうだ!

イタリアのカントリーサイドのワインディングロードを走るLP5000クワットロヴァルヴォーレ/25thアニバーサリーのリアビュー、5.2リッター4バルブV12の爆音が聞こえてきそうだ!

 スタイリングの好みは人それぞれだから、どれがベストであるとは言い難いが、敢えて筆者の見解を書かせてもらえば、ガンディーニのデザイン意図が最高にストレートに表現された最初期のLP400が、デザイン的にもっとも魅力的なカウンタックだと思う。

 と同時にドライビングしても、スーパースポーツらしさをもっとも明確に実感できるのは、LP400だったといえる。ボディサイズのわりに軽快な身のこなしは、そのスタイリングと同じく、カウンタックが本来目指していたスーパースポーツの本質を実感させる、魅力的な感触だった。ついでに書いておけば、LP400の生産台数はたった150台といわれ、歴代カウンタックのなかでも最も少ない。

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