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クルマ最終更新日:2023.06.19 公開日:2019.07.22

自動運転はなぜ必要? その理由 新連載『いま、自動車界でなにが起きているのか』(第1回)

100年に一度の変革期にあると言われる現在の自動車業界。今後、モビリティは社会をどう変えていくのか? 本連載では専門性の高い内容をやさしくかみ砕き、解き明かしていきます。第1回は自動運転に関する自動車メーカーの思惑について。

文・大谷達也

自動運転技術を開発する米ウェイモは、乗用車以外に自動運転トラックの開発も進めている。

商業車自動運転の可能性

6月20日、ルノー、日産自動車、ウェイモ(グーグルを傘下に持つアルファベットの自動運転開発会社)の3社はドライバーレス・モビリティサービスに関する独占契約を結び、今後、フランスと日本において乗客および配送向けドライバーレス・モビリティサービス事業に関して実現の可能性を検討していくと発表しました。

この手のニュースは毎日のように飛び込んできますが、その本当の意味を理解するのは難しいように思います。そこでこのコラムでは、そのときどきで話題になった出来事をかみ砕いて説明し「いま、自動車界でなにが起きているのか?」を解き明かしていきます。

その第1回は、冒頭のニュースについて解説しつつ、自動車メーカーの思惑を紹介することにしましょう。

まず、ドライバーレスとは自動運転技術の一種で、完全にドライバーが不要な運行システムのことを指します。これをタクシーもしくはバスのような事業、または宅配事業に応用する可能性を3社で探っていくというのです。

いま話題の自動運転ですが、このなかにはさまざまな技術レベルが存在します。基本的には人が運転するものの、その一部の操作を自動運転技術で助けてくれるものもあれば、人が乗っていても、基本的な運転操作はすべてクルマがまかなってくれるものも開発されています。

このニュースにあるドライバーレスは自動運転の究極の姿で、ドライバーがまったく不要な技術です。そんなこと、本当に可能なのでしょうか? これを実現するうえでさまざまな課題があるのは事実ですが、数多くの自動車メーカーやIT企業がその実現にチャレンジしようとしているのが現実です。

ではドライバーレスにできると、どんなメリットがあるのでしょうか?

自動運転がタクシー会社を救う!?

現在、タクシー会社、バス会社、運送会社はどこも人手不足にあえいでいます。足りない人手を補うために人件費がかさみ、なかなか利益が確保できないとも聞きます。特別な資格を持たないドライバーがタクシーに似た業務を請け負うウーバーというサービスをご存知でしょうか? 欧米では安くて使い勝手がいいためにすでに広く普及していますが、ウーバーを運営する企業自体は人件費がかさんで赤字だそうです。つまり、ドライバー不足、もしくはその大きな人件費の負担に、世界中のタクシー会社、バス会社、運送会社などは苦しんでいるのです。

では、ドライバーレスが実現できたらどうでしょう? その車両がどのくらいの価格になるかにもよりますが、タクシー会社、バス会社、運送会社などが抱える問題を一気に解消する可能性を秘めています。そして、それを販売する自動車会社にしてみれば、巨大な市場が誕生するかもしれないのです。

2018年末にアメリカ・アリゾナ州の一部地域限定でウェイモがサービスをスタートさせた自動運転タクシーの紹介動画。

 いま、世界中で自動車離れが叫ばれています。現時点では自動車の世界的な販売台数は伸びていますが、自動車がどこまでも増え続ければ環境問題をさらに深刻化させ、資源問題にも発展しかねません。いつまでも今のような販売台数を継続できるとは限らないのです。そこで自動車メーカーの多くは次世代の市場、それもできれば価格が高く、1台でより大きな儲けの得られる製品の開発に取り組んでいます。ドライバーレスは、まさにその象徴といえるでしょう。

それだけに、他業種からの参入が相次ぐとも予想されています。しかも、ドライバーレスの実現に欠かせないコンピューターやソフトウェア開発などを担ってきたIT産業は、スマホを見てもわかるとおり、1年に1回のペースで新製品を投入できる開発スピードを持っています。これは、6〜7年に一度フルモデルチェンジを行う自動車産業とは大きく異なるもので、自動車産業界は彼らを一面で脅威と捉えています。

それゆえに、自動運転に関するさまざまなノウハウを有しているウェイモと独占契約を結び、その事業化に向けた検討を行おうとルノーならびに日産自動車は考えたのでしょう。

さらに自動運転は電動化技術やネット接続技術などとも関連していくのですが、そういったお話しは次回以降でご紹介することにしましょう。

大谷達也(TATSUYA OTANI)
大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2019-2020 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。

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