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クルマ最終更新日:2018.07.13 公開日:2018.07.13

「エアレスタイヤ」の現状に迫ってみた!

タイヤに空気が入っていることは、現代に生きる我々にとっては常識だ。しかし空気の要らない、「エアレスタイヤ」の開発が活発だ。従来の空気入りのタイヤと同等のクッション性を持ち、その上でパンクの危険性から解放されるエアレスタイヤ。その開発状況に迫ってみる。

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ミシュランが市販化したエアレスタイヤ「X トゥイール SSL」のアップ。空気がないのに、空気のクッション性を実現するヒミツが、このスポーク構造だ。ジャパントラックショー2018・ミシュランブースにて撮影。

 タイヤに空気が入っていることは、現代に生きる我々にとっては常識だ。しかし空気の要らない、「エアレスタイヤ」の開発が活発なのをご存じだろうか。従来の空気入りのタイヤと同等のクッション性を持ち、その上でパンクの危険性と無縁のエアレスタイヤ。その特徴に迫ってみる。

 クルマにおいて、もし4本のタイヤのうちの1本でも空気が完全に抜けきってつぶれてしまったら、どうなるだろうか。もちろん、クルマの操縦性能や乗り心地は大きく低下してしまう(実際に実験してみたので、その様子はこちら)。いうまでもないが、タイヤにとって空気はなくてはならない。

 しかし一方で、空気圧の管理が必要になったし、異物を踏むなどした場合、運が悪いとパンクしてしまうという、逃れられない宿命を背負うようにもなった。高圧でタイヤ内に空気を閉じ込めておくからこそ実現している優れたクッション性だが、それ故にパンクの危険性も常につきまとっているのである。

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ノーパンクタイヤとランフラットタイヤに迫る!

ノーパンクタイヤやランフラットタイヤの一長一短

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ブリヂストンのランフラットタイヤのカットモデル。ブリヂストンのランフラットタイヤは、サイドの補強ゴムが、パンク時に荷重を支えて一定の操安性を確保する。東京モーターフェス2016・ブリヂストンブースにて撮影。

 タイヤが背負うパンクという宿命。研究者や技術者はその課題に向き合い、生み出したのがノーパンクタイヤやランフラットタイヤである。ノーパンクタイヤは、構造的にすべてがゴムなどの固体で作られており、空気を必要としないのでパンクそのものが生じない。そしてランフラットタイヤは空気を必要としパンクが生じる可能性はあるが、空気圧以外の方法でも荷重を支えられる構造が持たせられており、空気圧がゼロになっても所定の速度で一定距離までなら走れるというものである。

 しかし、それぞれ短所もある。ノーパンクタイヤの場合は、すべてゴムなどの固体で作られているが故に、通常のタイヤと比べるとどうしても重くなってしまう。クルマにとってバネ下重量(サスペンションによって支えられているボディ以外の、アップライトに取り付けられたタイヤやブレーキ、そしてサスペンション自体の重量)が増えることは、運動性能の低下につながってしまうのだ。

 さらに、普通のタイヤと比べると振動の吸収性が低く、高速走行に適さないし、乗り心地も劣る。結果、高速走行性能や乗り心地よりも、パンクしないことが求められるフォークリフトやダンプなど、産業用の車両向けしか市販化されていないというわけだ。

 一方のランフラットタイヤは乗用車用として今では一般的だ。例えばブリヂストン製のランフラットタイヤの場合は、サイドの補強ゴムがパンク時でも荷重を支え、所定の速度で一定の距離までは走行を保証するというものである。

 しかし、空気入りタイヤの一種なので、パンクしないわけではない。あくまでも、その場で慌ててタイヤ交換をする必要がないし、重いスペアタイヤをクルマに搭載しなくても済む、というものである。ランフラットタイヤは、決してパンクという宿命から解放されたタイヤではないのだ。

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乗用のパンクしないタイヤはないのか!?

乗用車用でパンクしない「エアレスタイヤ」の開発

 そうした中、各メーカーでは空気入りの通常のタイヤと同等のクッション性を実現しつつ、空気を必要としない「エアレスタイヤ」を開発すべく、以前から研究が進められている。

 エアレスタイヤのコンセプトモデルを発表しているメーカーは、ブリヂストン「エアフリーコンセプト」(2011年11月発表)、東洋ゴム工業「ノアイア」(2017年9月発表)、住友ゴム工業「ジャイロブレイド」(2017年10月発表)、米グッドイヤー「ターフコマンド」(2017年10月発表)など。国内外の大手タイヤメーカーで、研究していないメーカーはないといっていいだろう。

 こうした中、ブリヂストンおよびブリヂストンサイクルは、乗用車用および自転車用として2019年に、グッドイヤーは芝刈り機用の「ターフコマンド」を2018年内に市販化するとしている。

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ブリヂストンのエアレスタイヤのコンセプトモデル「エアフリーコンセプト」。基本的にどこのメーカーも同様の構造をしており、空気の代わりを務めるのがスポーク構造(水色の部分)となっている。スポークが荷重を支え、路面からの衝撃を吸収するのである。

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ミシュランの市販エアレスタイヤの実力とは?

建機用だがすでに市販化しているミシュラン

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スキッドステアローダーに装着された「X トゥイール SSL」。国内では酪農畜産、農業などで利用されている。アタッチメントを付け替えることでさまざまな現場に対応できるため、海外では酪農畜産・農業に加え、道路工事などの工事現場、さらには除雪などにも利用されている。画像は、ミシュランのプレスリリースより。

 他社が「間もなく」市販化という未来形なのに対し、建機用ではあるが、すでにエアレスタイヤを発売中なのがミシュランだ。ミシュランはエアレスタイヤのコンセプトを2005年に発表。そして2012年から米国とカナダで、建機スキッドステアローダー用の大型エアレスタイヤ「X トゥイール SSL」の発売を開始した。

 各社のエアレスタイヤも同様だが、「X トゥイール SSL」も空気の代わりとしてスポーク構造を採用している。「X トゥイール SSL」のスポークは高強度ポリ樹脂でできており、これがタイヤにかかる荷重を支え、路面からの衝撃を吸収する。

 この高強度ポリ樹脂製スポークによるクッション性は、従来のノーパンクタイヤよりも優れているという。また接地面が空気入りタイヤよりも安定することからスキッドステアローダーの操縦性がアップ。結果として運転者の疲労が軽減され、生産性も上がるとしている。

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各メーカーのエアレスタイヤと同様に、高強度ポリ樹脂のスポーク構造が空気の代わりを務める。ただし、スポークの形状はメーカーごとに異なる。「X トゥイール SSL」はどちらかというと、シンプルな構造をしている。

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これだけ柔軟性がある。スポークが折れ曲がってしまうのではないか心配されるが、きちんと復元する。

英語の動画だが、ミシュランが公開している「X トゥイール SSL」を装着したスキッドステアローダーによる実際に走行する様子。上の画像ほど極端なつぶれ方はしていないが、スポークが目に見えて歪んでも問題なく復元する様子を見て取れる。

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「X トゥイール SSL」の特徴をさらに紹介!

そのほか「X トゥイール SSL」の特徴

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トレッド表面が見える角度から。トレッドパターンは、さまざまな不整地・路面でのトラクションと排泥性能を考慮して設計されている。

 スポーク構造と同様に、各社エアレスタイヤ共通の構造が、タイヤとホイールの一体化だ。「X トゥイール SSL」もホイールに組み付ける作業を必要とせず、そのまま一般的なスキッドステアローダーなら取り付けられるようになっている。

 また「X トゥイール SSL」は複数回のリトレッド(接地面のトレッドを貼り替えてタイヤとして再生すること)を可能にする「アンダートレッド構造」を採用しているため、経済性にも優れる。

 さらに、スキッドステアローダーは旋回が激しいことからタイヤの減りが早いことが現場の悩みとされるが、「X トゥイール SSL」は接地面が安定していることから、溝の深さが同等の通常の空気入りタイヤと比較した場合、より寿命が長くなることも期待できるとしている。

 加えて、もちろんエアレスなのでパンクによるタイヤ交換で作業の中断もゼロとなり、その点からも生産性がアップするというわけだ。

日本での販売と乗用車用の可能性

 「X トゥイール SSL」は販売地域の拡大が決定しており、まず2018年内に欧州とロシアでの販売が始まる。さらに、2019年には日本でも販売することが決定した。

 そして将来的な話として気になる乗用車向けだが、現時点ではコスト的な問題などがあってまだまだ難しいという。ただし、コスト削減に向けた研究開発は進められているとした。

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「X トゥイール SSL」の特徴をまとめた図。画像は、ミシュランのプレスリリースより。

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