『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第1回 あちっ! くさい? これが”イタリア版JAF”だ
イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情についてアレコレ語る新連載がスタート。第1回目はイタリア版JAFについてのお話。
「あちっ」って何だ!?
イタリアを中心とした等身大の欧州カーライフ事情を紹介するこのコーナー。「アンディアーモ(andiamo)」とは、イタリア語で「行こうぜ!」の意味である。記念すべき第1回は、やはり”イタリア版JAF”の話をしよう。
イタリア中部シエナに住み始めた23年前のこと。日本の国際免許の期限切れが迫った筆者は、この際イタリアの免許に書き換え申請をしようと思い立った。どこに行けばよいのかイタリアの知人に聞いてみると、相手は何度尋ねても「あちっ」「あちっ」という。よくよく聞けば「ACI」、アウトモビル・クラブ・イタリアの略だった。
なぜ国際免許の書き換え窓口が運転免許試験場ではないのか? 煩雑な手続きを進めるうち判明してきたのは、このACIが日本人の想像する「クラブ」ではないことだった。
創設は遠く1905年。前世紀から半島各地で少しずつ誕生していた自動車所有者組織を統括する組織として、トリノの自動車クラブが中心となって設立されたものだった。1926年には当時敷かれていた王政にしたがい「イタリア王立自動車クラブ」と改称。第二次大戦後の王政廃止後も公的な性格を残し、今日では非営利の公社として存在している。
会員数は約100万人。会員になるとJAFと同様、ロードサービス、提携施設での会員優待のほか、『JAF Mate』のような会員誌が舞い込む。
「くさい」って何だ!?
いっぽう、かつてヒストリックカー・イベント「ミッレミリア」に参加する際、イタリアでD級と称するライセンスが必要であることが判明した。関係者に問い合わせると、窓口は「くさい」と教えられた。
何のことかわからずよく調べてみると、CSAIとは Commissione Sportiva Automobilistica Italiana、日本語に訳すとイタリア自動車競技委員会だった。こちらもACIの一組織でモータースポーツ用ライセンスの発給に関する業務もJAFと同じといえる。実際にライセンス取得講習会の講師は、CSAIのメンバーだった。なお、CSAIは2012年にはACIスポルトと改称して現在に至っている。
2013年からはヒストリックカー文化の保護育成を目的にした関連組織「ACIストリコ」も設立された。この団体による古典車指定リストは、一般車よりも安いヒストリックカー専用自動車保険の適用を受ける際の基準となっている。
ACIの地方支部は、一定規模以上の町なら必ず1か所ある。前述の国際免許の書き換え以上に興味深い窓口業務は、自動車の登録だ。つまり日本でいうところの陸運局の役割の一部もこなしていることである。
かつてイタリアで車を買うと、新車・中古車を問わず、ACIの関連団体から透かし入りの立派な「所有証明」なる証書が送付されてきたものだ。この証書、ようやく2015年から電子化されたが、自動車を下取りに出すときも必ず提出を求められる。つまり公的な証明として通用しているのである。
イタリアの自動車税の払い方とは
しかしながらイタリア人の生活で、ACIを最も身近にしているのは、ずばり「免許の更新業務」と「自動車税の徴収」であろう。前者については別の回に説明することにしよう。後者に関していえば大抵、ACIの地方支部ビル内で最もわかりやす場所に窓口が設けられている。
ネットバンキングが普及しておらず、日本のようなコンビニが存在しないこともあって、いまだACIは最も伝統的かつポピュラーな自動車税支払い窓口である。筆者が住むシエナのACIには、ユーザーの便宜を図るため、そばに地元銀行のATMまで設置されている。
ところが受付は月〜金の8時から12時半まで、つまり午前中のみだ。ゆえに、支払い期限が迫る月末は混雑する。町の守護聖人の祝日(イタリアの祝日で地域によって異なる)も休みだ。
人々は30〜40分近い順番待ちをする間、地元紙で週末のカルチョの結果を確認したり、パズル雑誌で時間を潰している。見れば、支部のすぐ外には新聞雑誌スタンドがある。ACIのおかげで、店の親父は毎日一定の収入があるに違いない。さらに見ず知らずの人と話に興じているお年寄りもいる。そして、筆者にとってのACIの順番待ちは、イタリア語の読解力と会話力が鍛えられるという副次効果を筆者にもたらしてくれるのである。