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連載最終更新日:2023.06.14 公開日:2022.07.25

『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第29回 「超能力」で高速料金所を突破せよ!イタリア版ETCの使い方。

便利? ポンコツ? いややっぱり便利!? イタリア・シエナ在住の人気コラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情についてアレコレ語る人気連載。第29回はイタリア版のETC「テレパス」について。

文=大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)
写真=大矢麻里(Mari OYA/Akio Lorenzo OYA)

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これがイタリア版ETC「テレパス」の新バージョン「ペイ・ペル・ユーズ」とそのパッケージ、および説明書。

これがイタリア版ETC「テレパス」の新バージョン「ペイ・ペル・ユーズ」とそのパッケージ、および説明書。

テレパステレパスルルルルルー

今回は、イタリア版ETC(電子料金収受システム)に関する泣き笑いを。

NEXCO東日本によると、2022年4月にETCの利用率は92.6%に達したという。イタリアのアウトストラーダ(有料の自動車専用道路)にもETCに相当するものがある。その名を「テレパス(Telepass)」という。相手の考えていることを読み取る能力=telepathにかけたネーミングであることは明らかだ。

その導入は早かった。オリベッティ社のグループ企業やグリエルモ・マルコーニ社などによって開発され、1987年に運営会社「テレパス」社が設立されている。そして、なんと日本のETC導入(2001年)より12年も早い1989年に、最初の区間で運用が開始された。

翌1990年イタリアで開催されたサッカー・ワールドカップに合わせ、国家のテクノロジー水準を誇示する意味もあった。個人的なことをいえば、1996年イタリアに初めて来てテレパスを見たとき、「この国では、こと料金徴収システム導入に関しては、きわめて早いな」と苦笑したものだ。

参考までに今日テレパス社は、アパレルで有名なベネトンの創業家が実質支配する企業「アトランティア」が株式の過半数をもつ。

日本のETC専用ICに相当する、テレパス専用ICも近年は増えてきた。ボローニャ郊外にて。日本のETC専用ICに相当する、テレパス専用ICも近年は増えてきた。ボローニャ郊外にて。

安いにはワケがある

日本ではETCを使うのに、車載機器と設置料で一般的に1万数千円程度を要し、取り付けも専門業者に依頼する。いっぽうテレパスの車載器は無料で配布(契約上は貸与)される。

理由はシンプルだ。日本のETCが車載器から路側機に向けて電波を積極的に発信する「アクティブ方式」であるのに対し、イタリアのそれは「パッシブ方式」といわれるものだ。路側機から発信した電波を、車載器が反射するものと考えればよい。ETCと比較し、地上設備と車載器で交信できる情報量は少ないが、構造は簡単、かつ価格も低減できる。

車載器は密封されていて、ユーザー自身で電池は交換できない。したがって、テレパス社によれば平均4年で新しい機器と交換する必要がある。しかし小型なので、付属の粘着シートを介して、自分でフロントウィンドーに貼り付けることができる。

メリット少なく解約

さて、機器は無料と記したが、代わりにテレパスに存在するのは「月額料金」である。2022年現在でいえば標準プランが1.26ユーロ(約180円)、その上の「イージー」が2ユーロ(約290円)、最上級の「プルス」、英語でいうところの「プラス」が2.5ユーロ(約360円)である。いずれも月ごとに、通行料金と合算で銀行口座から引き落とされる。

アウトストラーダや提携駐車場の料金ゲートをノンストップで通過できるのは全プラン共通だが、上級プランになると、車載器とは別に専用スマートフォンアプリを通じて、パーキングメーター、EV用充電ポール、タクシーなど他の支払いもできるようになる。

かくいう筆者も2000年代初め、自分のクルマにテレパスを装着していたことがあった。高速道路インター近くにあるサービスセンター「プント・ブルー」で受け取った。当日の記録を読み返すと、「行列を待つこと30分。免許証とキャッシュカードを提示すると、担当職員が傍らの古い金庫から車載器を取り出し、有効化用の暗証番号を自身のPCに入力して渡してくれた」とある。

しかし、我が家の主な行動半径は、テレパス支払いの対象となるアウトストラーダではなく、「スーペルストラーダ」といわれる無料の自動車専用道路だった。アウトストラーダを走ってもいないのに月額使用料を払う馬鹿馬鹿しさに気づいた。そのうえ出張の場合、領収書をすぐに欲しい場合が大半である。パソコンで明細を出力できたが、なんと当時はそれも有料だった。そのため、1年後くらいしてプント・ブルーに車載器を返却してしまった。

テレパスのサービス拠点「プント・ブルー」。これはトスカーナ州プラトのもので、インターチェンジ料金所を降りたところにある。

テレパスのサービス拠点「プント・ブルー」。これはトスカーナ州プラトのもので、インターチェンジ料金所を降りたところにある。

待望のプラン、ついに登場

そうした中途半端な思い出があるテレパスに2021年6月、新たなタイプが導入された。「ペイ・ペル・ユーズ(Pay Per Use)」で、使った月だけ2.5ユーロ(約360円)の使用料を支払うというものだ。

購入時に販売手数料5ユーロと、初回起動料10ユーロの合計15ユーロ(約2150円)を別途要するが、導入のメリットはいくつか考えられた。アウトストラーダでは近年、現金・クレジットカード対応の料金自動収受機の導入が進められてきた。だが用紙切れで領収書が出ないことがあるかと思うとヒヤヒヤさせられた。そればかりか故障していることもあった。そのときはインターホンを通じて係員に遠隔でゲートを開けてもらった。

後日家にはナンバープレートから割り出した通行料金の請求書が届いたのだが、郵便局で長蛇の列に並ぶ必要があったばかりか、振り込み手数料はユーザー負担であった。「なぜ相手の故障で、自分が手数料を払うんだヨ」と怒りがこみ上げてきた。

以来、収受員がいるゲートを狙うようになった。だが、イタリア名物のやたら幅広い本線料金所でそれを一瞬にして判別するのは至難の業だ。車線を探して反復横跳びのようにウロウロするのは、かなり危険である。イタリア人も筆者に似た自動収受機の苦い経験があるのだろう。収受員のいるゲートは、いつも混んでいる。たどり着いたゲートでは、現金を落としたり、通行券やクレジットカードが強風で飛んでゆかないか、いつもヒヤヒヤする。

イタリア北部コモ郊外のICにて。どれが料金収受員のいるゲートかウロウロしていると、後続車が来て危ない。イタリア北部コモ郊外のICにて。どれが料金収受員のいるゲートかウロウロしていると、後続車が来て危ない。

ある本線料金所をバスの車窓から撮影したもの。収受員のいるゲートは、右から3番目と4番目である。これを一瞬にして見分けるのは至難の業だ。ある本線料金所をバスの車窓から撮影したもの。収受員のいるゲートは、右から3番目と4番目である。これを一瞬にして見分けるのは至難の業だ。

 けっして全員というわけではないが、収受員のなかにはタバコや葉巻をふかしていたり、同僚や電話の向こうの相手とおしゃべりに興じていて、その片手間で無言でやりとりする係員も少なくない。イタリアの高速道路は民営化されているが、それ以前の体質が染みついているのだ。

昔、日本で国鉄時代、6万円近い通勤通学定期券を購入しても、「ありがとうございます」ひとつ言わなかったのと似ていて嘆かわしい。とくに数百kmの長旅のあと、こうした対応をされると、本当に悲しくなる。かと思えば近年は、収受員ゲートを全廃してしまった料金所もある。

標準的な料金収受機。操作方法が一発でわかりにくいうえ、勝手にステッカーが貼られていて、さらに混乱する。標準的な料金収受機。操作方法が一発でわかりにくいうえ、勝手にステッカーが貼られていて、さらに混乱する。

 これはペイ・ペル・ユーズ導入の好機だ。専用アプリに通行記録と料金が表示されるのも確認した。これで領収書代わりになる。ということで、2022年5月下旬、出張の機会にその購入を決めた。ただし開通までの道のりは、そう簡単ではなかった。

苦節半月

「ペイ・ペル・ユーズ」車載器の入手方法はふたつ。公式サイトを通じて郵送してもらうか、提携ショップで購入するか、である。「すぐ使えます」という触れ込みを信じた筆者は、出発当日後者を選んだ。もっとも近いのは83km離れたタバコ店兼バールである。念のため電話をすると「ありますよ」と丁寧に教えてくれた。

店頭では店主も慣れていて、例の手数料5ユーロを払うとあっけなく購入できた。パッケージは、タバコの箱とまったく同じ大きさである。ちなみにイタリアのタバコ販売機ではタバコだけでなくコンドームなど別の商品も売っている。ペイ・ペル・ユーズも将来自販機での販売を想定していることは明らかだ。

筆者がテレパス・ペイ・ペル・ユーズを購入したフィレンツェ郊外のタバコ店兼バール。筆者がテレパス・ペイ・ペル・ユーズを購入したフィレンツェ郊外のタバコ店兼バール。

 店頭で渡されたレシートに印刷されたQRコードをスマートフォンで読み取ると、公式ウェブサイトが現れた。しかし「ペイ・ペル・ユーズ」用入力欄が見当たらない。不思議に思ってスクロールすると、前述の3プランの下、地味な書体でひっそりと書いてあった。他のプランと比べてあまり儲からないのだろう。

個人情報や銀行口座情報(いまだクレジットカードは不可)を入力する。加えて車載器本体のバーコードを読み取らせる。そこまで順調だったが、最後の段階でフリーズしてしまった。仕方がないので再度初めから入力し直す。しかし、すでにアプリが途中まで認識してしまったらしく、ペイ・ペル・ユーズの選択ボタンが消えてしまっている。

不幸なことに、旅先ではサービスセンターのプント・ブルーの受付時間外である土日にかかってしまった。帰路、寄ってみようと思ったが、近年の合理化の影響で、軒並み閉鎖されていた。今後は筆者が購入したような提携タバコ店やガソリンスタンドに移管してゆく考えなのだろう。

かつて頻繁に見かけたサービス窓口「プント・ブルー」は次々閉鎖中。路肩の標識も青く塗られ、消されている。かつて頻繁に見かけたサービス窓口「プント・ブルー」は次々閉鎖中。路肩の標識も青く塗られ、消されている。

アウトストラーダA1号線「太陽の道」の、あるSAにて。このプント・ブルーも2021年12月15日をもって閉鎖されていた。アウトストラーダA1号線「太陽の道」の、あるSAにて。このプント・ブルーも2021年12月15日をもって閉鎖されていた。

 週明け、家に戻ってから、指定のSNSや日本でいうところのフリーダイヤルで問い合わせをする。オペレーターの指示にしたがい、もう一段階前に戻って操作する。だが今度はナンバープレートを入力しても「すでにその番号は登録されています」と表示されるようになってしまった。

もう放置されたかと思ったある日、携帯電話にローマからの着信があった。出てみるとテレパスの技術担当と思われるスタッフだった。どうやらセンター側で筆者の情報を一旦消去したらしい。今度はナンバープレート情報も入力できた。最後の”儀式”として、スマートフォンと車載器をくっつけると、NFCが交信できたことを示すブザー音が鳴った。結局SNSチャットは双方で合計55回、電話は往復で9回に及んだ。使えるようになったのは購入から半月後であった。

天からの響き

……と喜んでいたら、イタリアでETCサービスが2022年4月から自由化されたことを知った。自由化とはすなわち、従来テレパス社が独占していた電子料金収受システムを、これからは他社の供給による同様の車載器でも利用できるようになったのだ。

その第1弾として、保険会社「ウニポール・サイ」社がすでに車載器を供給開始している。目下同社からは、ペイ・ペル・ユーズのような「使った月だけ」プランは提供されていないが、競争原理で価格低減とサービス向上が実現されることを期待したい。

ペイ・ペル・ユーズ車載器は、タバコのパッケージと同じ大きさの外箱に入ることから想像できるとおり、以前筆者が使用していたものよりも格段に小型化されていた。プラスチックのバリが目立つのはご愛嬌である。裏面のテープを剥がして、説明書どおりリアビューミラーから10cm以内に貼り付ける。

ペイ・ペル・ユーズをフロントウィンドーに貼りつけたところ。ペイ・ペル・ユーズをフロントウィンドーに貼りつけたところ。

ゲート前、およびバー直前で「ピーッ」と言う短いブザーが鳴る。ユーロ旗マークは、欧州共通のETCが使えることを示す。ゲート前、およびバー直前で「ピーッ」と言う短いブザーが鳴る。ユーロ旗マークは、欧州共通のETCが使えることを示す。

 万一のエラー時を考え、最初に差し掛かった料金所では、専用ゲートではなく自動収受機とテレパス兼用のゲートを選んだ。恐る恐る近づくと、車載器から「ピーッ!」と作動音が鳴った。その音色は貼り付け位置も手伝って、天国からの響きに聞こえた。

日本でETCに慣れた読者には噴飯ものだろうが、14年落ちの自分のクルマに新機能が加わったような気がして嬉しくなった。ただし、日本のETCのような音声は出ない。寂しいので、自分でその女性音声を真似て「リョウキンハ23.20ユーロデス」などと言いながら通過するようにしている。

苦節半月。開通まで長い道のりであった。苦節半月。開通まで長い道のりであった。

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