2022年06月20日 18:20 掲載
ライフスタイル
『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第28回
しがみつけ! ホイールカバー
メルセデス・ベンツW114型の同色ホイールカバー。白リボンタイヤとともに独特の気品を醸しだしている。
盗まれても好き
アルミホイールの普及と反比例するように、存在感が薄くなったのがホイールカバー(ホイールキャップ)である。今回は、それに関する悲喜こもごもを。
アルミホイールがバネ下重量の軽減に貢献することは承知だ。だが、筆者自身はスチールホイール+ホイールカバーが好きである。今日ホイールカバーといえば樹脂製が主流だが、筆者が幼少期を過ごした1970年代初頭、「スーパーデラックス」や「デラックス」はメッキした金属製で、樹脂製といえばスタンダード、つまり廉価版のシンボルだった。ただし個人的には、スタンダード用のシンプルさが逆に清々しかったものだ。
デザイン的に秀逸なホイールカバーも少なくなかった。1974年「シトロエンCX」初期型のそれは、簡潔なプレスながら、そのリフレクションが美しかった。今日の「メルセデス・ベンツ」Eクラスの祖先であるW114型のボディと同色のホイールカバーは高貴な雰囲気が漂っていた。日本を含め、他国のモデルで模倣が相次いだことからも、その秀逸さが窺える。
同じメルセデスの1979年のSクラス・W126型のホイールカバーは、ブレーキ冷却用の空気流入まで考慮されており、のちに同社製他モデルにも採用が拡大された。
シトロエンCX初期型のホイールカバー。単純にして個性的という秀逸なデザインである。
メルセデス・ベンツは1980年代、空力ホイールカバーを各モデルに装着した。
個人的な車歴でいえば大学生だった1980年代末、親のお下がりで乗っていた「アウディ80」は、スチールホイールでありながら、センター部分だけに小さな直径のホイールカバーが付いていた。「鉄チンで何が悪い!」と言っているような洒落たデザインだったのを覚えている。
かくもホイールカバーには、アルミホイールにはない創造性溢れた世界があった。
筆者が乗っていたアウディ80。鉄チンの中に小さなホイールカバーが付いていた。
かつてホイールカバーはウインドウを飾ったこともあった。2007年にモーターショーで沸くジュネーブ市内にて撮影。
ただし苦い思い出もある。イタリアに住み始めて2番目のクルマだった中古の「フィアット・ブラーヴァ」もスチールホイール+ホイールカバーだった。
2005年のことだ。東京出張のため1か月ほどシエナの青空駐車場に置いておいたら、ホイールキャップが4枚とも盗まれてしまった。悔しくて悔しくて、発見直後に市内のカー用品店に飛び込んだ。すると、社外品ではなく純正品を、それほど高くない値段で即座に入手できた。"国民的ブランド"フィアット車の成せる業だと思ったものだ。
ホイールカバーを盗まれた愛車フィアット・ブラーヴァに、カー用品店のスタッフが新品を嵌めてくれているところ。2005年撮影。
そのような筆者ゆえ、いまだ新車のウェブカタログで、無意識のうちにホイールカバー付き仕様を探してしまうことがある。残念なのは、今日のホイールカバーは大半が"なんちゃってアルミホイール"風である。かつてのような志あるデザインがみられないのが嘆かわしい。
近年は限りなくアルミホイール風デザインのホイールカバーが主流である。これはルノー・クリオのもの。
雑貨店では、文房具に紛れるようにして汎用のホイールカバーが販売されている。価格1枚5.9〜6.9ユーロ(約840〜980円)。2022年6月撮影。
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