2021年05月28日 13:00 掲載

ライフスタイル 第28回/春から初夏に生まれる草食動物の赤ちゃん
生まれてすぐ立って歩くことが生き残るための第一歩
【アニマル“しっかり”みるみる】

世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物展示課飼育担当伊藤さんに、「春から初夏に生まれる草食動物の赤ちゃん(5種類)」について解説してもらいました。

文・上條 謙二

家畜ヒツジの祖先/「ムフロン」の赤ちゃん

富士サファリパーク|草食動物の赤ちゃん|くるくら

ムフロンの母親は、母性が強く、しっかりした子育てをするのが特徴。園内でも、赤ちゃんの体を慈しむようになめたり、赤ちゃんが自分の後をちゃんとついてきているかを確認する様子が見られる。

 気温が高くなって、餌になる植物が成長する、春から初夏にかけての季節は、多くの草食動物が出産時期を迎えます。今回は、この季節に園内で可愛い姿が見られる、5種類の草食動物の赤ちゃんについて解説します。

 一つ目に紹介するのは「ムフロン」の赤ちゃんです。ムフロンは、地中海にあるコルシカ島原産の偶蹄目ウシ科の動物で、現在の家畜ヒツジの祖先種とも考えられています。大人のムフロン(オスの場合)は、ぐるぐると渦巻く大きな角が特徴です。

 ところでこのムフロンに限らず、草食動物の赤ちゃんには共通する行動が見られます。その一つが「生まれてからすぐに立ち上がること」(※伊藤さん以下同)です。野生下での草食動物は肉食動物から捕食される対象です。捕食されないためにはまず走って逃げなくてはなりません。そのため「どの草食動物の赤ちゃんも、生まれて数時間のうちには立ち上がって歩くことができるようになる」そうです。

 また草食動物の赤ちゃん(生まれてから数日~数週間の群れに合流するまでの間)は、親とは離れて単独で岩陰や草陰で息を潜めてじっとしています。これも肉食動物に見つからないための防衛行動の一つと考えられています。園内のムフロンの赤ちゃんの場合も、「母親に促されて、草陰や岩場の隅などでじっとしている」そうです。

 ムフロンは、2月下旬〜3月上旬に年1回の出産で1頭の子供が生まれます(まれに双子が生まれることも)。出生時の体長は30㎝、体重は1~2㎏ほど。薄い灰色の体毛で、フワフワ、モコモコとした毛質が特徴です。生まれたばかりでも足はしっかりとして太く、地面を踏みしめる姿にはたくましいものがあります。

 また赤ちゃんムフロンはヒツジとよく似た「メ―」という声で鳴きます。春先は、生まれたばかりの赤ちゃんムフロンが「メ―」という声を上げながら、母親の後を遅れまいと必死に追いかける姿がよく見られます。

別名はアメリカヤギュウ/「アメリカバイソン」の赤ちゃん

富士サファリパーク|草食動物の赤ちゃん|くるくら

アメリカバイソンの赤ちゃんは、体毛がオレンジに近い明るい茶色。生まれて4か月ほど経つと大人と同じ茶褐色の毛色になる。

 「アメリカバイソン」は、アメリカからカナダにかけての森林地帯や草原などに暮らしている偶蹄目ウシ科の大型動物です。大人になると、体⻑は2.4〜3.8m、肩までの⾼さが1.5〜2m、体重は500~1100㎏ほどにもなります。一方、アメリカバイソンの赤ちゃんですが、出生時の体長は0.7~1m、体重は20~30㎏ほどです。

 アメリカバイソンは、春の終わりから夏にかけて、年に1回、1頭の子供を出産します(まれに双子が生まれることも)。赤ちゃんの体色は、大人と違ってオレンジに近い明るい茶色(大人は濃い茶褐色)です。大人の体形が、⼤きな頭部とそれを⽀えるために発達した肩の筋⾁の盛り上がりでいかついのに比べて、赤ちゃんは肩周りの筋肉は発達しておらず、頭から背中にかけては平らに近い曲線を描いています。授乳期間は6か月齢から遅くても1歳まで続きます。3歳くらいで親とほぼ同じ体の大きさになります。

 アメリカバイソンの赤ちゃんは、ヤギの鳴き声を低くしたような「ベー」という声を出しますが、母親を呼ぶときには、少し高い「ピー」とか「キー」と聞こえるブタのような声も出します。

 アメリカバイソンは、普段はあまり走り回ることはない動物ですが、いざとなると時速65キロで走ることができます。速く走るための訓練なのか、「園内の子供同士でよく駆けっこをして遊ぶ姿が見られる」そうです。

大型のシカ/「ワピチ」の赤ちゃん

富士サファリパーク|草食動物の赤ちゃん|くるくら

ワピチの赤ちゃんは、母親を探すときに「ピー」というシカの仲間に特有の高い音の鳴き声を出す。

 「ワピチ」は、エルクやアメリカアカシカなどとも呼ばれる偶蹄目シカ科の動物です。主にアメリカやカナダなど北アメリカ大陸の西部に生息していますが、中国やロシアなどにも分布しています。大人のワピチは、シカの現生種の中では、ヘラジカに次いで2番目くらいに体が大きく、体長は1.5~2.5m、体重は200~400kgほど。それに対しワピチの赤ちゃんの出生時の体長は60~80㎝、体重は15㎏ほどです。

 ワピチは、4月下旬から6月にかけて、年に1回、1頭の子供を出産します。大人のワピチの体色は、夏は黄褐色で、冬は灰色がかった白色に変化します。それに対して、ワピチの赤ちゃんは、大人の体色よりも明るい茶色で、胴体の側面に白い斑点があります。ワピチの赤ちゃんは足が長く、スマートな体形をしているのが特徴です。

螺旋状の角が特徴/「ブラックバック」の赤ちゃん

富士サファリパーク|草食動物の赤ちゃん|くるくら

ブラックバックの赤ちゃんの授乳期間は、6か月ほど。

 「ブラックバック」は、インドやパキスタンの森林や乾燥地帯に数十頭の群れで生息する偶蹄目ウシ科の動物です。ブラックバックのバック(buck)にはオスという意味があって、成長とともにオスの背中の毛が黒くなっていくことから、この名前がついたと言われています。オスには独特な螺旋(らせん)状の角が生えます。生え始めの1年くらいは角が螺旋状に捻じれずに細く伸びます。大人は、体長が1~1.5m、体重が30~50kgほど。出生時の赤ちゃんは、体長が30㎝、体重が3~4㎏ほどです。

 ブラックバックは、3~4月にかけて(秋に出産することもある)、年に1回、1頭の子供を出産します。大人の体色は、オスの背中側は黒褐色で、目の周りと腹部は白色、メスと成熟する前の若いオスは明るい茶色をしています。ブラックバックの赤ちゃんは、体全体がクリーム色に近い茶色をしています。ブラックバックの赤ちゃんも岩陰や木の切り株の周りにじっと隠れているので、「まるで保護色のように周りの色に同化してしまって、見つけられないことがよくある」そうです。

手のひらのように広がった角/「ダマジカ」の赤ちゃん

富士サファリパーク|草食動物の赤ちゃん|くるくら

ダマジカの赤ちゃんは、あまり鳴き声を上げない。大人のダマジカは、「ブー、ブー」と鼻が詰まったような、くぐもった鳴き声を上げる。

 「ダマジカ」は、ヨーロッパ地中海沿岸から小アジア、イランにかけての森林や草原に生息する偶蹄目シカ科の動物です。オスの角は、先端が広がって手のひらのような平たい形をしているのが特徴です。大人は、体長が1.1~1.9m、体重は40~100kgほど、出生時の赤ちゃんは体長が30㎝前後、体重が3~4㎏ほどです。

 ダマジカは、4~6月にかけて年に1回1頭の子供を出産します。大人の体色は、通常赤みを帯びた薄い灰色で胴の側面部に白の斑点がありますが、白色や焦げ茶色の個体もいます。赤ちゃんの体色は、腹部は白く、胴体は灰褐色で白い斑点が散らばっていますが、こちらも白色や焦げ茶色の体色の個体が生まれることがあります。

富士サファリパーク|飼育員さん|くるくら

「ムフロンの飼育をしているとき、産まれてすぐに人間が手をかけると、赤ちゃんでもそれを覚えていて、母親とはぐれても探さず、人間についてきてしまうことがありました。ちょっと複雑な心境になりました」と飼育担当の伊藤さん。

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