廃線になった“鉄道ルート”が「高速道路」で復活! 北海道各地で進む「高規格道路計画」とは?「網走線」も全線事業化か【いま気になる道路計画】
北海道各地で高規格道路の整備計画が進行中だ。昭和・平成・令和にかけて、鉄道路線はどんどん廃止されていったが、その廃線ルートに沿って新たな高規格道路の整備計画が多数存在する。ここでは主要な5路線に着目して、計画を見ていこう。
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廃止された北海道の鉄道ルートが「高規格道路」で復活
後志自動車道の余市IC付近の様子。写真は余市IC~小樽JCT開通時に撮影されたもの。
かつて北海道には、今とは比べ物にならないほどに鉄道網が広がっていた。クルマが普及する前の時代、物資や鉱産資源の大量輸送を主な目的として、鉄道の線路が縦横無尽に敷かれていったのだ。
戦後のモータリゼーションの高まりとともに、人の移動はマイカーや路線バスへ移行し、大量輸送はトラックが担う時代になった。道路整備が本格化する一方で、国鉄路線は経営悪化とともに次々と廃止されていった。
そして現在、緊急輸送ルート確保や経済活性化のため、信号待ち・渋滞・急勾配や急カーブを克服し、即時性や定時性の高い輸送に特化した、高規格な中長距離道路ネットワークの整備が進められている。
その多くは国道のバイパスだが、それはつまり、かつて重要拠点同士をつなぐ目標を担って国道指定されたルートを「理想的な道路」として再構築する存在とも言えるだろう。
こうした背景から、高規格道路は「廃止された国鉄路線のルート」を復活させるようなものも多い。
北海道横断自動車道 網走線の概要。
整備が進む道路事業と廃線ルートとの関係について、主な事例を見ていこう。
●北海道横断自動車道 網走線【北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線(旧国鉄池北線)】
池田駅から足寄(あしょろ)駅・陸別駅を経て北見駅を結んでいたのが「北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線(旧国鉄池北線)」だ。かつては「網走線」であり、網走へつなぐ初めての鉄道路線として誕生した。やがて、旭川駅~北見駅に新たな路線がつながると、網走線は池北線としてローカル線に移行。廃止リストに挙がったが、1989年に第三セクターとして存続し、2006年に廃止された。
そのルートに整備中なのが、北海道横断自動車道「網走線」。道東の南北を最短距離でつなぎ、新千歳空港・帯広方面から網走を直結する延長約156kmの重要ルートだ。
「本別JCT~足寄IC」「陸別小利別(りくべつしょうとしべつ)IC~訓子府(くんねっぷ)IC~北見東IC」「美幌高野(びほろたかの)IC~女満別(めまんべつ)空港IC」が開通済み。
「北見東IC~美幌高野IC」の14.3kmも「端野高野道路」として2019年に事業化して用地取得中だ。残る「女満別空港IC~網走」は事業化目前、「足寄IC~陸別小利別IC」も事業化に向けて準備中となっている。
新幹線開業後の廃止区間でも道路整備が進行中
2020年に全線開通した深川・留萌自動車道。
●深川・留萌(るもい)自動車道【JR留萌本線】
JR留萌本線は、かつては深川駅~留萌駅~増毛(ましけ)駅までを結んでいた路線。徐々に廃止されていき、残った深川駅~石狩沼田駅も2026年4月の廃止が目前だ。
このルートには、「深川・留萌自動車道」延長49kmが2020年に全線開通した。旧態依然とした狭い2車線道路しかなく、陸の孤島のようだった留萌エリアが、道央道「深川JCT」から留萌ICまで繋がり、北海道全土とスムーズに行き来できるようになった。
末期の留萌本線に乗車すると、深川留萌道の立派な高架が常に視界にあり、交通輸送路としての新旧交代を象徴するようだった。
帯広・広尾自動車道の概要。
●帯広・広尾自動車道【国鉄広尾線】
帯広市の南側には十勝平野が広がり、中札内(なかさつない)・大樹(たいき)・広尾などの街が点在している。それだけでなく「とかち帯広空港」や広尾の重要港湾「十勝港」があるなど物資輸送の重要拠点となっており、特に十勝港は、国際39万トン、国内101万トンもの取扱貨物量を担っている。
帯広から広尾までは、かつて国鉄広尾線が約84kmの鉄路を伸ばしていた。途中にある「幸福駅」は縁起がいいとして話題になったこともある。十勝港が1960年代に飛躍的な発展を遂げるなか、その輸送手段はすでにトラックに移り変わっていた。さらに沿線人口は長い路線延長に対して希薄で、当時の国鉄は経営継続できる状態ではなく、1987年に全線廃止となった。
このルートでは、高規格道路「帯広・広尾自動車道」が整備中だ。すでに総延長約85kmの2/3にあたる「帯広JCT~忠類大樹(ちゅうるいたいき)IC」延長58.4kmが開通済み。「忠類大樹IC~豊似(とよに)IC」延長15.1kmでは、橋梁工事が実施されて進捗率は約7割まできている。「豊似IC~広尾IC」延長12.3kmは、2022年に事業化して用地取得の段階だ。
まだまだある「かつての鉄道路線ルート」の高規格道路
後志自動車道と蘭越倶知安道路の概要。
●後志(しりべし)自動車道 + 蘭越倶知安(らんこしくっちゃん)道路【JR函館本線】
JR函館本線は、函館駅~長万部(おしゃまんべ)駅~小樽駅~札幌駅~旭川駅までを結ぶ423.1kmの路線だ。函館駅~札幌駅では「北海道新幹線」の工事が進行中で、これが開業すれば、並行する山岳区間「長万部駅~小樽駅」約140kmが事実上廃止となる方向で調整されている。
廃止となる区間の沿線は、名峰「羊蹄山(ようていざん)」と倶知安町を抱え、そして国際的リゾート地のニセコ町がますます人気を見せている。さらに小樽市の西隣の余市町は、ウイスキー工場をはじめとした観光都市に成長している。
この区間において輸送ルートを確保するのが「後志自動車道」と「蘭越倶知安道路」だ。「後志自動車道」は、札樽(さっそん)自動車道から南西に延伸する形で、「小樽JCT~倶知安IC」延長62.4kmを結ぶルート。現在は「小樽JCT~仁木IC」延長26.6kmが開通済み。
「蘭越倶知安道路」は「倶知安IC~ニセコIC」延長11.7kmを結ぶルート。2024年までに全区間が事業化されている。
なお、その先「ニセコIC~黒松内(くろまつない)IC」も高規格化が検討されているが、「当面、現道を活用していく」として、事実上の棚上げになっている。とはいえ、検討再開の可能性は中長期的に十分あり得るものだ。
この高規格道路がつながれば、有珠山(うすざん)や樽前山(たるまえさん)が噴火して、長万部町~苫小牧市の交通が寸断された場合、札幌市・千歳市方面への代替ルートになることも期待されている。
日高自動車道の概要。
●日高自動車道【JR日高本線】
JR日高本線は、苫小牧駅から様似(さまに)駅まで、襟裳岬方面に向かって約146kmも伸びていた路線。2015年に起きた高波被害がとどめを刺して大部分が廃止となった。現在は鵡川(むかわ)駅までのわずか30kmが残るのみだ。
このルートでは、高規格道路「日高自動車道」が苫小牧から浦河の延長約120kmで計画されている。現在は「苫小牧東IC・JCT~日高厚賀IC」延長約60kmが開通済みで、2025年度内に「新冠(にいかっぷ)IC」まで延伸予定だ。
その先「東静内(ひがししずない)IC」までは事業化済み。さらにその先、「三石」までは計画段階評価が完了。最後の区間「三石~浦河」は概略ルートすら未定の状況だ。
日高道は、緊急輸送ルートの確保や帯広方面への周遊性向上とともに、沿線の各種産業の出荷スピードの向上が期待されている。
また、日高自動車道沿線は、全国シェア約8割を占める日本一の競走馬生産地であるため、「信号ゼロ化により競走馬をケガさせることなく運送できる」という地域経済に根ざした整備効果も挙げられている。
その他にも、鉄道の廃線ルートをなぞる高規格道路は計画されている。しかし、計画があまり進んでいないもの、比較的短距離であるものとして、ここでは以下に列挙するのみとする。
●函館・江差(えさし)自動車道【JR江差線】
●松前半島道路【JR松前線】
●渡島(おしま)半島横断道路【国鉄瀬棚線】
●釧路中標津(くしろなかしべつ)道路 + 根室中標津道路【JR標津線】
●旭川紋別自動車道【JR名寄本線】
このように、多くの鉄道路線が廃止となった北海道では、高規格道路の整備ラッシュが続いており、新路線が毎年のように開通・事業化されている。鉄道からバトンを受けて現代の輸送手段となった道路は、今後も発展を続けていくだろう。北海道の道路整備を引き続き注視していきたい。
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