なぜポルシェファンは「911タルガ」の麗しさに目を奪われるのか?——河村康彦の「ポルシェは凄い!」♯9
いつの時代もスポーツカーファンから一目置かれているブランドと言っていいポルシェ。ではポルシェのいったい何が凄いのか。ポルシェ愛好家のモータージャーナリスト河村康彦の連載コラム、9回目は「911タルガ」をフィーチャー!
この記事をシェア
カブリオレよりも遥かに長い歴史の持ち主
ポルシェのオープンモデルと耳にしたとき、多くの人の脳裏に浮かぶのはまず911カブリオレの姿だろう。
確かに今でこそ、同様のフルオープンボディを備えるボクスターも高い存在感を発揮するまでに成長はしている。けれども、2代目タイプ930時代の1983年に初代モデルが誕生し、1996年に初代が誕生したボクスターよりも遥かに長い時間を生き抜いてきているのだから、やはり「ポルシェのオープン」と聞けば、まずは911カブリオレを連想するのも当然の流れではあるだろう。
しかし、実は911シリーズには“もうひとつのオープンモデル”が存在することも忘れてはならない史実。しかも、そちらが前出カブリオレよりも遥かに長い歴史の持ち主だと知れば、少なからず驚く人も現れるに違いない。「タルガ」という存在である。
911タルガの初代モデルが発表されたのは1965年のフランクフルト・モーターショーの舞台。そう、なんとこのモデルは1963年に初代911(タイプ901)が発表された次回の同ショーですでにヴェールを脱いでいたのである。
ちなみに、それがフルオープンボディではなく左右のサイドウインドウ後方に幅広のロールオーバーバーを設けたスタイルとなったのは、世界最大のオープンカーマーケットであったアメリカに巻き起こった「転倒時に危険なのでオープンボディは禁止すべき」という声に対応するため。
しかし、結局そうした安全性にまつわる疑念が払拭されフルオープンの展開が可能になった後も、特徴的な幅広Bピラーを持ちクーペボディに準じた快適性を備える全天候型でファッショナブルなルックスが一定の支持を獲得。そこにはポルシェ車が活躍していたイタリアはシチリア島で開催された公道レース“タルガ・フローリオ”から取った「タルガ」の名称が採用され、現在へと至っているというわけである。
こうして、クーペでもフルオープンでもないユニークな形態として911シリーズに定着したタルガ・ボディだが、実は細かく見ると大きな特徴でもあるロールオーバーバーの役割を与えられたBピラーからリヤウインドウ周りにかけては、その構造にたびたびのリファインの手が加えられてきたことは見逃せない。
その最も初期型というべき構造は、手動で脱着を行うルーフトップ部分とプラスチック製のリヤウインドウを組み合わせたもの。ただし、このリヤウインドウにはローンチ早々にヒーター付きの安全ガラス製がオプション設定され、ほどなくこちらが標準装備品へと昇格されてタイプ964世代(3代目)が終了するまでの間、長く採用されることになったという。
大変革を重ねて現在の幅広Bピラーが定着
ポルシェ911タルガ3.6(993型/1997年モデル)|Porsche 911 Targa 3.6(Type 993/1997)
そんなタルガトップ部分に大変革が行われたのは、空冷911世代の最終型として知られるタイプ993型(4代目)が登場したタイミング。
この世代のタルガでは、なんとこのボディに不可欠と思われていた幅広のロールオーバーバーが消滅! ルーフ部分には超大型の熱線吸収ガラスが採用されて、その大部分がスイッチひとつでリヤウインドウの内側に重ねて格納されるというワンタッチ式のオペレーションが可能となったのである。
こうして誕生した超大型のスライディングガラスルーフ式のタルガトップシステムはついに水冷エンジンを搭載して話題となった次期タイプ996型(5代目)にも踏襲されるとともに、911の歴史では初めてとなるガラスハッチの採用でも記憶に残るモデルに。さらにこのスライディングガラスルーフ+ガラスハッチ式のシステムは次期タイプ997型(6代目)にも継続採用され、クーペ同等の流麗なシルエットを実現するとともにオープン時にスムーズな整流が行われることによって、髪の乱れが気にならないと特に女性ユーザーからの好評の声が得られたという。
ポルシェ911タルガ4(991.1型/2014年モデル)|Porsche 911 Targa 4(Type 991.1/2014)
新世代のシステムとして定着するかと思われたスライディングガラスルーフ式のタルガトップだが、7代目のタイプ991世代になるとまたまた大変革が実施された。なんと一度は潰えたと思われたロールオーバーバーが再度の復活! その一方で実に巧みな動きによるシステムが構築されて、持ち上げられたリヤウインドウの下にルーフトップ部分が格納されるという夢のような自動オペレーションが実現されたのである。
これによって、当初のタルガの特徴であった幅広のロールオーバーバーを備えたルックスと、かつては無理な相談と思われていた頭上のハードトップ部分をスイッチひとつで脱着するという動作を両立。2020年に発表された現行タイプ992型(8代目)のタルガにも、引き続きこのシステムが採用されている。
かつては成し得なかった事柄を新たなテクノロジーによって克服していくというポルシェのやり方は、こうしてタルガトップの歴史を見ても明らか。こうして振り返ると、一見“911の異端児”とも思えるタルガというモデルは、実は最もポルシェらしさを秘めた存在と言えるのかも知れない。
動画=ポルシェ公式YouTubeチャンネルより




