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公開日:2025.11.20

吉田 匠の『スポーツ&クラシックカー研究所』Vol.22 快適な足にも、 俊敏なオープンスポーツにも──マセラティ・グランカブリオ トロフェオ。

マセラティ グランカブリオ トロフェオ|Maserati Grancabrio Trofeo

モータージャーナリストの吉田 匠が、古今東西のスポーツカーとクラシックカーについて解説する人気連載コラム。第22回は、マセラティの4座GT「グラントゥーリズモ」のオープンモデル「グランカブリオ トロフェオ」を試乗する。

マセラティ グランカブリオ トロフェオ|Maserati Grancabrio Trofeo

文=吉田 匠

写真=秋月新一郎(KURU KURA)

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マセラティ4座GTのオープンモデル

イタリアの伝統的スポーツカーブランドとして知られるマセラティ。第一次世界大戦が勃発した1914年、イタリア半島の付け根のあたりに位置するボローニャに兄弟の一人、アルフィエーリ・マセラティの名を冠した工場が設立されたのがその起源だった。一方、かの有名なフェラーリが会社として創設されたのは第二次大戦後の1947年のことだから、ブランドの歴史としてはマセラティの方がはるかに長いわけだ。

ところが、創立直後のマセラティはレーシングカーに全神経を集中していたため慢性的な資金難に見舞われていて、創立から20数年後には経営権をモデナの財閥オルシ家に譲 って本拠をモデナに移し、やがて第二次大戦後にはマセラティ兄弟も同社を去ることになる。

その後も会社のオーナーは幾度となく変わるが、それでもマセラティの名が消滅することなく受け継がれてきたのは、それがこの世に存在する価値があったということだ。このイタリアの名門スポーツカーブランドは現在、伊、仏、米のメーカーからなるステランティス・グループのなかの宝石として、光を放っているというわけだ。

マセラティ グランカブリオ トロフェオ|Maserati Grancabrio Trofeo

2ドアクーペの「グラントゥーリズモ」をベースとするグランカブリオ。正面の顔つきはクーペとほぼ同じだ

そのマセラティの現行ラインナップは大きく分けて4つ。その1が、当サイトでも2023年に試乗記を掲載したMC20に代表されるミドエンジン・スーパースポーツのMC系、その2が、4座GTのグラントゥーリズモ系、その3が、グレカーレとレヴァンテからなるSUV 系、そしてその4が、ギブリとクアトロポルテという4ドアサルーン系である。

その豊富なラインアップのなかで今回は、4座GTたるグラントゥーリズモのオープンモデル、その名もグランカブリオを駆って、いよいよ猛暑の夏から秋の気候に変わろうという時期の箱根を目指したというわけ。グラントゥーリズモシリーズには、クーペにも力ブリオにも標準型とより高性能なトロフェオの2モデルがあるが、今回のグランカブリオは後者のトロフェオである。

エンジンはMC20と基本は同じ、ネットゥーノと呼ばれる副燃焼室を備える3リッターV6ツィンターボをフロントに収めるが、MC20と違ってエンジンを一段と低く搭載するためのドライサンプは採用していない。パワーはノルマーレの490psに対して、トロフェオは550ps/6500rpmを発生し、4輪を駆動する。

あまりに快適すぎてちょっと物足りない?

マセラティ グランカブリオ トロフェオ|Maserati Grancabrio Trofeo

「アイス」と呼ばれるカラーのレザーシートでコーディネートされたインテリア。ダッシュボード中央には、12.3インチと8.8インチのふたつの液晶パネルが備わる

まずは全長4960×全幅1950×全高1380mmという大柄なサイズを意識しながら、東京都心のビルにあるステランティスの地下駐車場から出て、首都高を目指す。 ドライブモードには、コンフォート、GT、スポーツ、コルサの4段階があり、デフォルトのコンフォートで走り出すと、乗り心地はかなりソフトな印象。フロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンクというサスペンションは電子制御のエアスプリング式だから、 この乗り心地が実現できるのだろう。

というわけで、ごく静々と走って首都高に乗った。 と同時にドライブモードをGTに切り替えるが、脚が硬くなった印象はさほど明確ではなく、 相変わらずソフトで快適な乗り心地を提供してくれる。もともとグラントゥーリズモなのだから、GTがデフォルトでもいいかもしれないと思ったほどだ。

全開で踏み続ければ 316km/hの最高速に達するはずの高性能車だから、日本の高速道路の流れのなかでは実力の1/3も発揮していないわけで、エンジン音は静かだし、前記のように乗り心地も当たりがソフトだから、高速クルージングば快適そのものだ。

マセラティ グランカブリオ トロフェオ|Maserati Grancabrio Trofeo

ステアリングの左下はエンジンのスタート/ストップボタン、右下はドライブモード切り替えスイッチが備わる。ドライブモードには、コンフォート、GT、スポーツ、コルサの4段階がある

マセラティ グランカブリオ トロフェオ|Maserati Grancabrio Trofeo

340km/hまで刻まれた12.2インチの液晶メーターパネル

マセラティ グランカブリオ トロフェオ|Maserati Grancabrio Trofeo

MC20譲りのV型6気筒ツインターボを搭載するグランカブリオ トロフェオ。最高出力550PS、最大トルク650Nmを発生する

グラントゥーリズモ=GTとは本来、長距離を高速で、しかも快適に走っていくためのクルマだから、ソフトトップを閉じた状態のグランカブリオはまさにそのとおりに仕上がっているが、あまりに快適すぎてちょっと物足りなく思ったりするのだから人間とは贅沢なものだ。

そういえば先代グランツゥーリズモ/グランカブリオは、4.2リッターもしくは 4.7リ ッターのV8を搭載していたのでクルージング中も気持ちいいサウンドを奏でていたのを 思い出す。そこで試みにドライブモードをGTからスポーツに切り替えたら、変化が起こ った。

8段ATのギアが1段低いポジションに落ちると同時に、マフラーもやや解放されるのだろう、GTでは聞こえなかった排気音が耳に入ってきた。その代わり燃費は少し落ちるはずだが、平和なクルー ジングに飽きたらこの手を使うのもいいだろう。

山道ではスポーツカーのような身のこなし

マセラティ グランカブリオ トロフェオ|Maserati Grancabrio Trofeo

電動格納式ソフトトップの開閉に要する時間はわずか14秒。時速50km/h以下であれば走行中も開閉が可能だ

マセラティ グランカブリオ トロフェオ|Maserati Grancabrio Trofeo

ソフトトップはファブリック製で、オーダー時に5色のカラーバリエーションから選択できる

というわけで快適至極な高速クルージングを終えて箱根の麓に到着、 そこで14秒で開閉可能という電動ソフトトップをオープンにした。こういう4座オープンモデルの場合、トップを外すと途端にルックスが締まりのないものになるクルマもあるが、グランカブリオは違った。

コクピット後端の部分でリアフェンダーがぐんと盛り上がったデザインに加えて、サイドウインドーを前後とも上げることによってクーペに近いプロフィールが得られるのがその主因だろう。というルックスの良さに気分を上げてオープン状態で箱根の山に挑むが、まずドライブモードはスポーツを選んでターンパイクを駆け上がる。

走り出して3つ目のコーナーを抜けるあたりで、コイツは凄いと思った。高速クルージングを平和にこなしていたのと同じクルマとは思えぬほどシャキッとした身のこなしで、グランカブリオはコーナーの連続を猛然と駆け上がっていく。

ドライバーが狙ったとおりのラインを描いてコーナリングする様子をOn The Rail=レールに乗ったような、 と表現するが、グランカブリオの身のこなしはまさにそれで、ステアリングを切ったままにノーズが向きを変えていく。

マセラティ グランカブリオ トロフェオ|Maserati Grancabrio Trofeo

オープンエアの軽快なドライビングと、スポーツカーのようなフットワークを高次元で両立させたグランカブリオ トロフェオ

もともとクーペとして生み出されたクルマをオープンにすると、ボディが緩いという印象を与えるクルマも少なくないが、グランカブリオはそういう弱点もほとんど感じさせない。4WDらしい安定感を常に維持しながら、車重2t近い大柄なクルマだという事実を忘れさせる軽快なフットワークは、大きな魅力だと思った。

しかもグランカブリオ、 もうひとつワザを持っていた。 ドライブモードをイタリア語でレースを意味するコルサに切り替えると、クルマの動きがスポーツよりさらに一段と引き締まると同時に、コーナー脱出時にスロットルを踏み込むと、後輪が絶妙にアウトに張り出すようになった。

「ドリフト」と呼ぶほど派手でも危なっかしくもないが、 明らかにテールアウトの感触を意識させながらコーナーを抜けていくコルサモードのコーナリングは、ワインディング好き、コーナリング好きには、堪らないプレゼントに思えた。

タイトなコーナーが続く芦ノ湖スカイラインが5m先も見えないような濃霧に覆われて いて、そこでコーナリングを味わえなかったのが残念だったが、グランカブリオは箱根の山を下って帰路に着くことに。

その際の高速道路でもしばらくはオープンのまま走ったが、前記のようにサイドウインドーを上げておけばコクヒットに暴力的な風が舞い込むことはなく、強い直射日光さえ浴びなければ、オープンのまま快適に高速クルージングできるクルマであることを実感した。

リアシートの部分に装着して風の入りを制限するウインドストッパーというオプションも積まれていたが、 それを使う必要は感じられなかった。リアシートといえば、試しに僕の運転ポジションの後ろに僕が座ってみたらさほど無理なく収まることができたから、長時間でなければ大人の4人乗りも可能かもしれない。

マセラティ グランカブリオ トロフェオ|Maserati Grancabrio Trofeo

リアシートの座り心地を確かめる筆者

マセラティは控えめなところが好ましい

さてこのマセラティ・グランカブリオ、車両本体価格3120万円、試乗車はオプションを含めて3294万円となると、どんな人物に向いているのか? クルマに3000万くらいの出費は充分に想定内だけど、何台も揃えるスペースはないので、1台で色々愉しめるのが望ましい、というリッチ層にはいいのではないか、と思った。

近年のフェラーリのニューモデルと比べるとグランカブリオのルックスはクラシックに感じられるが、マラネッロ産の馬よりも少々控え目なところが、昔からマセラティの持ち味だったのだから。

マセラティ グランカブリオ トロフェオ|Maserati Grancabrio Trofeo

マセラティ伝統のサイドエアベントの上には“Trofeo”のバッジが輝く

SPECIFICATIONS
マセラティ グランカブリオ トロフェオ|Maserati Grancabrio Trofeo
ボディサイズ:全長4966×全幅1957×全高1365mm
ホイールベース:2929mm
車両重量:1970kg
駆動方式:4WD
総排気量:2992cc
エンジン:V型6気筒ツインターボ
エンジン最高出力:550PS(404kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:650Nm(66.3kgfm)/3000rpm
トランスミッション:8段AT
タイヤ:(前)265/30ZR20/(後)295/30ZR21
最高速度:316km/h
0-100km/h加速:3.6秒
価格:2915万円
※スペックは欧州仕様

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