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公開日:2025.11.14

なぜトヨタ「ランクルFJ」のデザインはワクワクするのか? “サイコロ”モチーフに隠された絶妙バランスを読み解く——渕野健太郎の「カーデザイン解説ラボ」#1

全高1935mmと高く、フロントオーバーハングも長いのでかなり不利なパッケージですが、巧みなバランスでSUVらしいどっしりとしたプロポーションを実現しています。

元スバルのカーデザイナー渕野健太郎氏が、ジャパンモビリティショー(JMS)2025で気になったクルマを紹介! 今回は発表直後から注目が集まる、トヨタのランドクルーザー“FJ”の魅力を探った。

全高1935mmと高く、フロントオーバーハングも長いのでかなり不利なパッケージですが、巧みなバランスでSUVらしいどっしりとしたプロポーションを実現しています。

文・スケッチ=渕野健太郎

画像=トヨタ

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見ただけでワクワクする、絶妙な外観バランス

JMS2025を取材してきて、特にデザイン的に注目したクルマをご紹介。今回は「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”(以下、ランクルFJ)」です。

ランクルFJは、本格SUVらしいデザインでありながら、可愛らしさやおしゃれさを兼ね備えた絶妙なバランスが魅力です。

ボディサイズは全長4575×全幅1855×全高1960mm。兄貴分の「ランクル250」(全長4925×全幅1980×全高1935mm)と比較すると、全長・全幅は一回り以上小さい一方、全高はむしろ高いという独特なプロポーションをしています。

ラダーフレーム型SUVとしては珍しくフロントオーバーハングがかなり長いパッケージで、通常ならバランスの点で不利なのですが、この少しの「隙」が親しみやすい可愛らしさにつながっていると感じますね。全高がかなり高いにもかかわらず、しっかり踏ん張ったスタンスも見事です。

サイコロモチーフはボディ全体に施されており、その効果的な面取り処理でメリハリの効いた印象的なデザインに仕上がっています。

サイコロモチーフはボディ全体に施されており、その効果的な面取り処理でメリハリの効いた印象的なデザインに仕上がっています。

サイコロがモチーフのユニークなデザイン

このクルマのデザインは「サイコロ」をモチーフにしたということですが、各所の面取りが効果的で「道具感」というキーワードにぴったり当てはまります。それもストイックなだけでなく、ユニークさもあわせ持つ秀逸な仕上がりです。

フロント周りは往年の40系ランドクルーザーのイメージを受け継いだ、高い位置の横長グリルと、しっかりした下回りで構成されています。ランクル250と同様に、丸目ヘッドランプをオプション設定しているのは商売上手な戦略だと感じますね(笑)。個人的にはぜひ丸目にしたいところですが、皆さんはいかがでしょうか?

ランクルFJには、豊富なカスタムオプションが用意されるそうです。丸目ヘッドランプやルーフキャリアはもちろん、車体右側のAピラーに沿って突き出しているのは「スノーケル」です。これは、水深のある場所でも空気を吸い込めるよう、高い位置に吸気口を設けた、本格クロカン向けのオプションですね。

ランクルFJには、豊富なカスタムオプションが用意されるそうです。丸目ヘッドランプやルーフキャリアはもちろん、車体右側のAピラーに沿って突き出しているのは「スノーケル」です。これは、水深のある場所でも空気を吸い込めるよう、高い位置に吸気口を設けた、本格クロカン向けのオプションですね。

リア周りはさらに個性的で、造形を垂直にスパッと切り落としたようなリアゲート周りは明快でモダンさも感じられます。そして最近では少なくなったスペアタイヤを背負わせるスタイルも復活。これらが「道具感」と「デザイン性」の両立を生み出しており、真面目なデザインの250との明確な差別化が図られています。

垂直にスパッと切り落とされたリア周りの造形は、このクルマのデザインで最大の見どころです。

垂直にスパッと切り落とされたリア周りの造形は、このクルマのデザインで最大の見どころです。

唯一の懸念点を挙げるとすれば、後席の居住性でしょう。ラダーフレーム構造のためモノコック車より空間効率が劣ることで、ボディサイズの割に後席の空間、特に足元がややタイトに感じられます。

その代わりに座面を高く設定し足元のスペースを確保しようというレイアウトで、これが全高が高い理由の一つかもしれません。実用性は十分ですが、頻繁に大人が後席を利用するユーザーであれば、250やもうすぐ新型が出る「RAV4」を選択肢に入れても良いですね。

しかし、このようなワクワクするデザインは、おそらくデザイナーや技術者の方々が心から楽しんで開発した証拠ではないでしょうか。トヨタのWebサイトで公開されているスケッチ郡からも、その熱量が伝わってきます。これは商品の魅力に直結する、非常に重要な要素だと思います。

後席空間は若干狭そうに見えますが、実際に座ってみると天井が高いため、窮屈には感じませんでした。

後席空間は若干狭そうに見えますが、実際に座ってみると天井が高いため、窮屈には感じませんでした。

トヨタのSUVラインナップはさらに盤石に

私はランクルFJを見て、トヨタのラインナップにおける「商品穴埋め力」の巧みさに改めて感服しました。トヨタが新型車を投入するたびに、「こんなクルマが欲しかったんだ!」と感じるユーザーは多いのではないでしょうか。

最近の例では、レクサスのコンパクトSUV「LBX」がダウンサイジング需要を見事に捉え、「GRヤリス」は走りを愛するファンを熱狂させました。「クラウン」をブランド化し、一気に4車種展開するという戦略にも感動を覚えました。

ランドクルーザーもすでにブランド化されており、高級志向の300や、よりラギッドな250が大ヒット。これだけでも万全だと思っていたところに、250のコンパクト版とも言える今回のFJを投入し、他メーカーを寄せ付けない盤石のラインナップを構築しました。この先を読む力と、それを実現する開発力は、他社の追随を許しません。

トヨタ ランドクルーザー 250|Toyota Land Cruiser 250

トヨタ ランドクルーザー 250|Toyota Land Cruiser 250

これまでラダーフレーム型SUVは、既存のランクルや三菱「トライトン」のような大型車か、「ジムニー」のような小型車の二択で「ちょうど良いミドルサイズ」が空白でした。

かつてRVブームの80年代には三菱「パジェロ」に代表されるミドルサイズクロカンが多くありましたが、いつの間にか市場から姿を消しています。今回のFJは、まさにその隙間を埋める存在であり、このサイズの本格クロカンを求めていた方は多いはずです。

また、先日モデルチェンジが発表され、より乗用車ライクになったRAV4との差別化も戦略として周到ですね。これにより一般的なユーザーと、より硬派なSUVを志向するユーザーを明確に分け、それぞれの目的をはっきりさせたのだと思われます。

次はどんなクルマで楽しませてくれるのか、これからも引き続きトヨタに期待しましょう!

SPECIFICATIONS
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”(プロトタイプ)|Toyota Land Cruiser “FJ”
ボディサイズ:全長4575×全幅1855×全高1960mm
ホイールベース:2580mm
最小回転半径:5.5m
乗車定員:5人
総排気量:2693cc
エンジン:直列4気筒
最高出力:120kW(163ps)
最大トルク:246Nm(25.1kgf-m)
トランスミッション:6速AT
駆動方式:4WD

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