コンパクトカーの魅力をもう一度!──ジャパンモビリティショー2025でクルマの未来を語る<後編>【吉田 匠と今尾直樹のクルマ放浪記】
クルマの未来に夢はあるか。ジャパンモビリティショー2025の見どころを、モータージャーナリストの吉田 匠と今尾直樹が語り合う。後編ではホンダ、マツダ、そしてトヨタのブースを巡ります。
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「ゼロ」より「ワン」が気になるホンダ
ホンダ0 シリーズ|Honda 0 Series
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──南館のトヨタから東館へ移動し、ホンダのブースを訪れる。「0(ゼロ)サルーン」と「0(ゼロ)SUV」、それに世界初公開の「0(ゼロ)アルファ」という3タイプのBEVからなる0(ゼロ)シリーズ3兄弟がホンダの目玉だ。軽BEVのN-ONE e:の高性能版の「Super-ONEプロトタイプ」は、2026年から、日本市場でまず発売し、小型EV需要の強いイギリスとアジア各国に輸出する。
今尾 Super-ONEはブースト機能が新しいらしい。電池容量を大きくすると値段に直結するから、それはないかも……。と思うけれど、オーバーフェンダーをつけると軽規格の全幅を超える。悩ましいところです。でも日本だけじゃなくて、コンパクトEVの需要があるところで売る、と三部(敏宏)社長がプレスコンファレンスのスピーチで言ってたから、軽規格ではないかもしれない。
ホンダ・スーパー ワン プロトタイプ|Honda Super-ONE Prototype
Super-ONEプロトタイプの量産モデルは、2026年に日本で発売予定だ
左右に張り出したブリスターフェンダーなど、そのフォルムは1980年代に人気を博したスポーツモデル「シティ・ターボII」、通称“ブルドッグ”を彷彿とさせる
「BOOSTモード」では有段変速機のようなギアチェンジの感覚や、仮想のエンジンサウンドなど、EVでありながらスポーティーなエンジンを意のままに操っているかのような運転感覚を提供するという
吉田 ホンダは前歴があるからね、N600で。
秋月 だいぶ遡りましたね。
吉田 遡った。我が家は経験したからね。N360の次にN600に乗っていたから。
今尾 ああ。N600が身近だったんですね。N600なんて、誰が買ったんだろう、と思ってました。
吉田 買う人いるんですよ。それと、ジムニーのシエラがそうじゃん。排気量を大きくしてオーバーフェンダーにして。そういう例はけっこうあるから、日本で売ってもおかしくない。まあ、税金が高くなってもハイパワーのEVが欲しいひとは、あんまり多くないだろうけど、いるとは思うよ。僕だったらハイパワーというよりも、航続距離が長くなる方が有り難いけどね、EVの場合。
今尾 EVの走り屋風というのは日本初かも。
吉田 ところで、この0サルーンて、乗り降りしにくそうだよね。ショーモデルだから背を低くしてあるんだろうけど、それにけっこうデカいよね、これ。日常生活にはちょっと邪魔なサイズ?
ホンダ0 サルーン|Honda 0 SALOON
ホンダ0 サルーンのインテリアは左右いっぱいに大型スクリーンが広がり、まるでSF映画の宇宙船のよう
今尾 アメリカ向けですね、どっちかというと。
秋月 あ。ホンダ国内広報の森さんがいたので聞いてみましょう。
吉田 ホンダ0シリーズ、これに近いものが出るということだけど、それがホントだとするとスゴイ。
森 これにかなり近しいと思っていただいて大丈夫です。かなり薄いバッテリーを使っているので、室内が広い。居住空間がしっかりある。
吉田 発売は?
森 2027年度中に3つとも出す。今回、ワールド・プレミアの0アルファは日本とインド向けで、アメリカには出さない。ちょっと小さめのSUVです。
吉田 日本とインド?
森 と、アジア諸国。
吉田 なるほど。アメリカ、ヨーロッパは関係ないと。
今尾 0シリーズは基本的に同じプラットフォームなんでしょ。あれ、メガキャストだけど、あえて大小3つぐらいにプラットフォームを分割して、それを組み合わせることで大中小のモデルをつくる、という話でした。伸縮自在のプラットフォーム。だけど、0アルファは全幅が違うか……。
森 0アルファはちょっと系統が違うんです。インドでWR-Vという小型SUVをつくってまして、日本でも売ってますけど、それに近しいものがある。同じとは言いませんけど。
ホンダ0シリーズの入門モデルとして世界初公開された0アルファ
今尾 WR-VのEV版なんですね。
森 お察しください。
今尾 ありがとうございます。
吉田 まあ0シリーズのリアのデザインは、スポーツカーではあったけど、アルピーヌA310とかね、でもセダンとかSUVでは新しい。というか、こんなセダンはだれも量産していない。ランボルギーニぐらいだね、似たようなのは。
ホンダ0シリーズは、ほぼこのデザインのままで発売するという
今尾 カウンタックに似てます。
吉田 いや、エスパーダね。
Less is moreの新しいマツダデザイン
──続いてマツダ・ブース。「ビジョンX(クロス)クーペ」と「ビジョンX(クロス)コンパクト」、2台のコンセプトカーが目玉だけれど、吉田さんの足は広島レッドの「ビジョンXコンパクト」の前で止まった。幸いブースは比較的空いており、取材を申し込んで、デザイン本部の木元英二本部長にお話をうかがうことができた。
マツダ・ビジョン クロスクーペ|Mazda Vision X-Coupe
吉田 これ(ビジョンXコンパクト)はデザインがシンプル、特に面の処理がすごくクリーンでとても新鮮に感じたんですが、クルマとしてはEV、それともエンジンも想定してるんですか?
木元 あくまでデザイン・スタディです。われわれ、ずっと「引き算の美学」と言ってシンプルなデザインをやっていたんですけれど、さらにそれを推し進めて、フロントでいうとシグニチャーウィングすらなくても、マツダの顔に見えるものをつくっていこうということで。
マツダ・ビジョン クロスコンパクト|Mazda Vision X-Compact
吉田 なるほど。表現を変えれば「Less is More」ということですよね。
木元 サイドも、これまでは光の動きとかって言っていたんですけど、それもやめて、生命感というのをアップデートしていく。
吉田 そう、サイドの面が特に新しく感じますね。
木元 向こう(ビジョンXクーペ)も同じテーマで、ネオオーセンティックと言ってるんですけれども、クルマが本来持っている魅力をしっかり引き立てながら、新しさを出す。電気自動車だと「なんでもできます」となるんですけど、われわれはクルマの持っている魅力をしっかり守りたいな、と。
マツダ・ビジョン クロスクーペは、2ローター・ロータリーターボエンジンとモーター、バッテリーを組み合わせたプラグインハイブリッドシステムで走ることを想定している
吉田 あっち(Xクーペ)は以前出ていたビジョン・クーペと同じテーマだけれど、こっち(Xコンパクト)はサイドの面がもっとシンプルというか。
木元 こちらはコンパクトカーなので、エレガントさより楽しい感じとか可愛らしい感じ、コンパクトカーってそういう魅力があるじゃないですか。
吉田 ありますあります。
木元 それを引き算をやりながら、やってみた、というのがこちらです。
吉田 プレスラインがまったくない。余計なラインが1本も入っていないところがすごくいい。Aピラーもフェンダーからスーッと伸びていて、一体感がある。
木元 そうなんです、塊にして生命感を出そうと。
マツダ・ビジョン クロスコンパクトは、人とクルマの絆がさらに深まることを目指したという
ボディサイズは全長3825×全幅1795×全高1470mmで、ホイールベースは2515mm。現行の「マツダ2」より、全長が255mm、ホイールベースが55mm短い一方、全幅は100mmワイドだ
吉田 プロフィールはシトロエン2CVに近いものがありますよね、一筆書きみたいで。2CVは昔のクルマだからフェンダーが別体になっているとか、構成要素はぜんぜん違うけど。
今尾 これはデミオというか次期マツダ2ではないのですか?
木元 純然たるデザイン・スタディです。マツダ2よりちょっと小さいかな。全長が短い(全長3825×全幅1795×全高1470mm)。マツダ2だと全長4m以上ある。ま、多少の寸法違いでもこのテーマは活かせると思います。
吉田 内装もシンプルなところがいいね。
マツダ・ビジョン クロスコンパクトのインテリア
木元 コンパクトカーの魅力をもう一回つくりたいと思ってます。
吉田 これって、僕にとって今回のベスト・デザインかも。
木元 ありがとうございます。
見逃していたロングセラーモデルの大変貌
──この後、さらに会場を見てまわり、ぼちぼち帰りますか、となったところで、吉田さんがボソリと呟いた。
吉田 話は変わるけど、トヨタではカローラがよかった、という話をしているひとがいたんだけど……。
今尾 これはなんだろう? たぶん、EVだろう。と言っていたヤツですね。
秋月 最後にトヨタに寄りますか。
吉田 また南館に行くの? 死ぬな……。ま、行くんなら行きましょ。
──ということで、カローラ・コンセプトを確認すべくトヨタ・ブースを訪れ、担当の方にお話をうかがった。
トヨタ カローラ コンセプト|Toyota Corolla Concept
吉田 これがカローラ!? けっこう大きいですよね。
カローラ・コンセプトの担当者(以下担当者) ひとまわり大きいです。
吉田 全体にかたちがシャープですね。まず感じるのはフロントウィンドウがプリウス並みに寝ていること、それにショーモデルだけかもしれないけれど、リアウィンドウもけっこう小さい。
担当者 キャビンをけっこう絞っているんです。
担当者が造形に拘ったというリアセクション。量産化ではどこまで再現されるのだろうか
「これが次のカローラなの!?」と驚きながら車内を覗き込む吉田 匠(奥)と今尾直樹(手前)
斬新なトヨタ カローラ コンセプトのインテリア
EVのためだけのデザインスタディではなく、エンジン車とハイブリッドとBEVを地域に合わせて、つくり分けて販売するという。しかも値段はカローラで。というから、トヨタ恐るべし
吉田 プリウスとの関連性はどうなんですか?
担当者 プリウスはウェッジ・ダイナミズムみたいなことをやっているんですけど、このクルマは水平感、安定感を出しています。
吉田 もはやカローラというイメージじゃないですね。
今尾 ホンダ・シビックみたいに、次のカローラは北米市場を意識して大きくなるのかもしれないですね。いずれにしても、私の考えていることより、トヨタの考えていることのほうが進んでいる。いまのプリウスが出たときもそう思ったけど。
2025年のモビショーを総括
秋月 最後に感想をひとことずつ、お願いします。
今尾 おもしろかったね。トヨタのひとり勝ち、と誰かが言っていたけど、その通りだと思いました。クラウンのブランド化を考えているのかと思ったら、それよりすごいセンチュリーのブランド化だったことにたまげた。それと、ホンダの再利用可能なロケットはよかった。イーロン・マスクのスペースXよりスゴいのをつくってほしい。
吉田 コンセプトカーの数、およびその華やかさとクオリティからいっても、トヨタのひとり勝ち感は確実にありましたね。でもそれと同時に、他のメーカーはトヨタと明確に違うスタイルでやっているのが分かったのも面白い。日本は自動車メーカーの数が多すぎるって昔から言われていたけど、僕はなるべく多くのメーカーに残ってほしいと思っているのでね。その方がユーザーの選択肢も増えるから。
秋月 お疲れ様でした。では、また再来年。
ジャパンモビリティショー2025の最後の一枚は、「僕にとって今回のベスト・デザインかも」と吉田 匠が唸ったマツダ・ビジョン クロスコンパクトを背景に、デザイン本部長の木元英二さんと一緒に




