高速道路はどこで管理されているのか? 交通管制のひみつ。【川辺謙一の「道路の科学」Vol.10】
交通技術ライター川辺謙一が語る「道路の科学」。第10回は、高速道路の交通管制に迫る。
この記事をシェア
高速道路が混み合う時期
まもなく夏休みですね。みなさんのなかには、お盆休みなどを利用して、クルマで行楽や帰省をしようと考えている方もいるでしょう。
それゆえ夏は、高速道路の交通量がとくに多くなります。損保ジャパンが公開した「交通安全ニュース Monthly Report 2024年8月号」によると、1年でもっとも高速道路が混雑しやすく、渋滞が発生しやすい月は「8月」だそうです。お盆があり、休みをとりやすい時期だからでしょう。
高速道路には、こうした交通量や状況の変化を1日24時間、1年365日見守っている施設があります。そこは、自動車などの車両の流れを把握するだけでなく、事故や災害などの緊急時に対応し、スムーズな道路交通を維持するという重要な役割をしています。
首都高の交通管制室
今回は、そのような施設の一例として、首都高速道路(以下、首都高)の交通管制室を紹介します。首都高速道路株式会社(以下、首都高会社)は、3つの交通管制室を運用しています。私が取材したのは、そのうちの一つで、初期に開通した東京都心の西側の路線をおもに管理している交通管制室です。
入った交通管制室は、白い照明に照らされた明るい場所。外を眺める窓はなく、時計を見ないと今が昼なのか夜なのかわかりにくい部屋です。
内部を見渡すと、奥に巨大な画面「大型表示装置」が見えます。そのサイズは縦3.7m✕横17m。畳に換算すると約38枚分の面積があるので、遠くからでもよく見えます。
「大型表示装置」に近づいて眺めると、首都高全体の状況がわかります。各路線の車両の流れや、各地の状況が、ひと目でわかるように表示されるからです。
「大型表示装置」の中央には、首都高の路線図があり、車両の平均速度が段階的に色で表示されています。同様の路線図は、ウェブサイトやアプリで見ることができます。たとえば首都高技術株式会社が運営する道路交通情報サイト「mew-ti(ミューティ―)」や日本道路交通情報センター(JARTIC)のウェブサイトを見ると、カラーの路線図が表示され、「混雑」している区間が橙、「渋滞」している区間が赤で表示されます。

「大型表示装置」に表示された路線図(都心部)。東京タワーなどのランドマークの位置や、レインボーブリッジの風速が表示されているのが見える。筆者撮影
「大型表示装置」の左右両側には、現地の映像や山手トンネル(日本最長の道路トンネル)の状況が表示されます。現地の映像は、首都高の沿線に設置された約2,600台のカメラで撮影したもので、撮影地点が周期的に変化します。
「大型表示装置」の前では、基本的に9人が交替で勤務し、監視しています。その内訳は、交通管制員が7人、交通管理司令(交通管制のリーダー)が1人、交通管理司令補(交通管理司令のサポート役)が1人です。交通管理司令は、一番高くて見晴らしがよい場所、交通管理司令補はそこより一段低い場所にいます。

交通管理司令がいる場所からの眺め。床が高くなっているので、全体の様子を確認しやすい。筆者撮影
ドライバーが道路緊急ダイヤル(#9910)に電話し、首都高を選択すると、交通管制室の電話が鳴ります。交通管理司令補がその電話をとり、すぐさま状況を確認。情報が交通管理司令と交通管制員に伝達され、人々が忙しく動き始めます。
首都高では、平均で約13.6分に1回という頻度で事故・車両故障・落下物(車両からの積荷などの落下)のいずれかが発生します。1年間に発生する事故は9,295件(1日平均約25件)、車両故障は10,426件(1日平均約29件)、落下物は18,415件(1日平均約50件)で、合わせて38,136件(数値は2024年度)。1年の時間をその件数で割ると、先述の頻度になります。
このため、交通管制室は慌ただしいです。人の声や機械の警告音、電話の呼び出し音がひっきりなしに響きわたります。
交通管制室は、必要に応じて警察やパトロール隊と連携します。両者が現地に急行しないと、事故・車両故障・落下物などのトラブルに対応できないからです。

「大型表示装置」に向かう交通管制員たち。異常を見つけると、必要に応じて首都高のパトロール隊や警察に情報を伝達する。筆者撮影
高速道路を見守り続ける「司令塔」
今回紹介した交通管制室は、高速道路を管理する「司令塔」の役割をする施設の一例です。国内には、首都高以外の都市を通る高速道路(都市高速道路)や、NEXCOグループが運営する高速自動車国道などの都市間高速道路があり、それぞれを管理する施設が存在します。
このような施設では、ゴールデンウィークや盆休み、年末年始など関係なく、常に人々が高速道路の状況を見守っています。ドライブするときは、そのような職場があることを意識すると、高速道路に対する見方が変わるかもしれませんよ。
記事の画像ギャラリーを見る