神奈川~静岡の新ルート「伊豆湘南道路」計画が進行中! 熱海まで「信号ゼロ」が実現!? 現在の進捗は【いま気になる道路計画】
小田原から熱海、三島方面をむすぶ新たな高規格道路「伊豆湘南道路」の計画検討が進行中だ。開通によるメリットや、現在の計画進捗について詳しく解説する。
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日本有数の温泉観光地「熱海」に悲願の高速道路が誕生へ!

伊豆湘南道路の概要。
「伊豆湘南道路」は、神奈川県小田原市の「小田原厚木道路」あるいは「西湘バイパス」の延伸となる形で、真鶴・熱海を経由して、函南・三島方面まで繋がる新たな高規格道路だ。
神奈川・静岡県境を越える高規格道路としては、東名高速・新東名高速(一部未開通)に次ぐ新たなルートとなり、日本でも有数の温泉地・リゾート地である熱海エリアにとっては、悲願の「信号ゼロ」道路の誕生となる。
鉄道では東海道新幹線の熱海駅があり、在来線でも東海道線と伊東・下田方面が分岐するターミナル駅となっている一方で、高速道路は熱海とはまるで無縁の位置を走っている。首都圏~中部地方をむすぶ大動脈の東名高速は、箱根を隔てて反対側である松田・御殿場を経由しているのだ。
東京方面からドライブで熱海へ行く場合、高速道路は先述のとおり小田原厚木道路や西湘バイパスまで。そこからは国道135号で伊豆半島の付け根を南下していくこととなる。この国道135号がとにかく熱海方面のボトルネックとなり、深刻な混雑が地域課題となっている。
途中には「真鶴道路」および「熱海ビーチライン」という局所的なバイパスが存在するものの、観光シーズンの大渋滞を解消するには至っていない。
小田原~熱海の平均所要時間は、通常期は41分(うち渋滞9分)なのに対し、夏期は8月をピークとして71分(うち渋滞33分)に達する。山あいで並行道路も少ないため、国道の渋滞は地域の生活に影響を及ぼしているほか、緊急車両の通行阻害、さらにトラック輸送の到着時間の読めなさも課題となっている。
また、災害に脆弱なのも課題だ。山あいの国道135号は土砂崩れによる寸断のリスクが高く、高波の被害も受けやすい。さらに県道「熱海函南線」とあわせて急勾配・急カーブが連続し、交通事故が県平均を上回るレベルで多発しているという。
こうした災害・事故で通行止めになった場合、代替ルートに乏しいのもまた課題だ。大きく離れている東名・新東名を除くと、最寄りの神奈川・静岡県境間ルートは国道1号の「箱根越え」のみ。こちらも旧態依然とした強烈な急勾配・急カーブの連続で、大雨で通行止めとなるほか、事故多発の状況は国道135号などと同様の難路となっている。
このような背景から、長年にわたり、熱海経由での新たな「神奈川~静岡バイパス」が要望されてきたのだ。
「伊豆湘南道路」実現へ、現在の道のりは?

小田原~熱海の国道135号は観光シーズンを中心に大渋滞となる。
さて、気になるのは計画進捗だが、事業の正式スタートである「事業化」までの具体化プロセスの第一歩となるのが「計画段階評価」だ。ここで意見聴取(地域アンケート)結果などをふまえ、概略ルートや構造を決定し、都市計画決定や環境アセスメントの段階へ進んでいくこととなる。
伊豆湘南道路はというと、計画段階評価の「最初の課題抽出」が終わった段階となっている。
一般的には地域アンケートが2回行われ、まず課題抽出、次に概略ルート案(3案程度)の提案、そして最終決定へと繋がる。しかし伊豆湘南道路の場合は、地域アンケートが「3回」行われる計画になっている。そのうち1回目が2021年夏に終了し、4年を経ていよいよ2回目の実施が秒読み段階という状況だ。
ところで、なぜ異例となる3回もの地域アンケートが必要なのか。同じ課題抽出で、1回目と2回目は何が違うのか。
実は1回目のアンケート結果や委員会での意見をふまえ、伊豆湘南道路の役割や意義について、さらに検討の余地があるとして、より解像度の高い内容で地域課題を抽出するために、再度のアンケートを行うことになったのだ。
具体的には、主に「広域的ネットワークからの観点」での課題についての質問が、次のアンケートへ盛り込まれることになっている。東名・新東名が通行止めになった場合の迂回路としての機能や、富士山噴火が発生した場合に果たす役割といった、地域独自の視点が考慮されている。
他にも、概略ルート案を絞り込むまでに片づけておくべき「宿題」は少なくない。1回目の課題抽出で、「地形・地質、構造上の課題について検討が必要」という点が浮き彫りになった。
計画エリア周辺は、活火山に近い断層地帯で複雑な地質状況なため、大規模トンネルの建設にあたって難工事が想定される。歴史をたどっても、付近で県境を貫くJR東海道本線の「丹那トンネル」(1918年着工、1933年貫通)の建設時も、大規模な湧水や崩落に悩まされている。
これを考慮し、まずはそもそもここへ道路を通すことが技術的に可能なのかを検討。難工事が予想される場合には、概略ルート案の検討段階で、当初の計画から大きく見直す必要があるとして、より根本的な検討が求められることになったのだ。
他にも、温泉地を多く抱えるエリアならではの考慮点として、「温泉の源泉等の調査を行うことが望ましい」という指摘も委員会から出ている。
このように、伊豆湘南道路の実現にあたって、事業が「見切り発車」とならないように、しっかりと調査検討を進める姿勢が見えてくる。なかなか一朝一夕で事業化まで漕ぎつけられる計画ではなさそうだが、まずは概略ルートの最終決定が大きな一歩となるだろう。引き続き動向に注目していきたい。
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