なぜポルシェのブレーキは良く効くのか?━━河村康彦の「ポルシェは凄い!」♯3
いつの時代もスポーツカーファンから一目置かれているブランドと言っていいポルシェ。ではポルシェのいったい何が凄いのか。ポルシェ愛好家のモータージャーナリスト河村康彦の新連載コラム、3回目はブレーキをクローズアップ!
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採用するブレーキシステムの違いだけではない
ポルシェのブレーキは良く効く——そんなハナシを耳にしたことのある人は多いだろう。そして、そうした声に対してはまさに「その通り!」と賛同したくなるというのが実感でもある。
そんなポルシェ車でも日常的に乗っていると、それが当たり前となって特に優れているとは感じなくなってしまうもの。ところが、そこから他ブランドのモデルに乗り換えるとふとしたタイミングで、「あれ? 何かブレーキがちょっと物足りないナ……」と感じさせられることは実は少なくなかったりもする。例えそれが、誰にも名前を良く知られたスポーティなモデルであったとしても、だ。
そうした差は一体どこから生まれてくるものなのか? 多くの人は、それは「採用するブレーキシステムの違いにある」と考えることだろう。ところが実際には、その要因はそれだけには留まってはいないように思う。
例えばポルシェ車では多くの場合——特に911やボクスター/ケイマンといった2ドアモデルでは——ライバルと想定される他ブランドのモデルに対して車両重量が明確に軽いという事実がある。最新のモデルで言えば「911カレラ」の空車重量が1520kgで「718ケイマン」のそれは6速MT仕様で1410kg(7速PDK仕様は1440kg)。これらが、想定されるライバルたちよりも決定的に軽量であるというのはちょっと調べればすぐに明確になる事柄だ。
同時に、そんなポルシェ車では前後の重量配分がいずれもリヤヘビーを基本としていることから、ブレーキングによって荷重が前方へと移動してもなお後輪側に十分な荷重が残り、結果として“つんのめり”の姿勢に陥ることなくリヤタイヤもしっかりと仕事をしてくれるという特徴も挙げられる。
それを証明するように、かつてのポルシェ車にはフロントにエンジンを置きながら通常はそれと対を成すトランスミッションを敢えて分離して後方にマウントするトランスアクスルなる凝ったレイアウトを採用することで、前輪側に重量物が集中することを嫌った「924/944」や「928」といったモデルが存在したという史実も、操縦性のみならずブレーキの効き具合にも強く配慮したこのブランドならではのクルマづくりのポリシーを物語る一例と受け取ることもできる。
ユーザーの希望に適した特性の異なるシステムを準備

718シリーズのトップグレード「718ケイマンGT4 RS」にオプション装着されたPCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)。フロントは410mm径ディスクに6ピストンキャリパーを、リヤは390mm径ディスクに4ピストンキャリパーを組み合わせている
さらに、そうした基本的に優れたディメンションを採用したうえで、吟味が重ねられたブレーキシステムが選ばれるのもすべてのポルシェ車に共通する見どころであることは言うまでもない。
優れたペダルタッチを生み出す剛性に富んだモノブロックキャリパーや耐フェード性を高めるための冷却性に優れたベンチレーテッドディスクローターの採用などはもちろんのこと、どのような走行シーンを重視するのか? あるいはメンテナンスの容易性やブレーキダストの少なさに重きを置くのか? などと、ユーザーが求める多様な希望に適した特性の異なる様々なシステムを準備している点もポルシェならではと言って過言ではない。
例えば、ベースとなるモデルにもレースの世界で得られた様々な知見を活かしたシステムを採用しながら、さらに超高速走行時からのブレーキングで優れた性能を発揮しつつ耐熱性や耐久性にも優れ軽量化も実現させたセラミック・コンポジット・ブレーキ(PCCB)や、タングステンカーバイドでコーティングした鋳鉄製のディスクローターを用いることで通常のブレーキに対して30%の耐久性向上や連続使用時の対熱性向上を実現させるとともに、発生ダストを低減させることで必要なクリーニング頻度の低減も謳うサーフェス・コーテッド・ブレーキ(PSCB)などと、同じモデルの中で異なる特性を備えた複数のアイテムを設定するという拘りもこのブランドならでは。
ここまでやって勝ち取ったのが「ポルシェのブレーキは凄い!」「ポルシェのブレーキは良く効く!」という称賛の声であるもの。見方によっては「加速以上に減速が重視されている」と言えるのがポルシェの“動力性能”なのである。