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最終更新日:2025.04.22 公開日:2025.04.22

『イタリア発 大矢アキオ ロレンツォの今日もクルマでアンディアーモ!』第56回【Movie】━━クルマのカセットテープ化、着々進行中? パリ「レトロモビル」2025リポート

自動車誌『ヴュルカン』のスタッフ、ヴァランティンヌさんは24歳。同僚たちと展示した「日産ミクラ(日本名マーチ)」の前で。

なぜフランスの若者たちは日本のマンガとクルマが好きに? イタリア・シエナ在住のコラムニスト、大矢アキオ ロレンツォの連載コラム第56回は、パリで開催された「レトロモビル」の模様をお届けします。

自動車誌『ヴュルカン』のスタッフ、ヴァランティンヌさんは24歳。同僚たちと展示した「日産ミクラ(日本名マーチ)」の前で。

文・写真=大矢アキオ ロレンツォ(Akio Lorenzo OYA)

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日本ブランドも積極出展

毎年フランス・パリで開催される「レトロモビル」は、独エッセンの「テヒノクラシカ」や伊ボローニャの「アウトモト・デポカ」などと並ぶ、欧州を代表するヒストリックカー・ショーである。第49回を迎えた2025年は、2月5日から9日まで一般公開され、前回を1万6千人上回る約14万6千人が来場した。

フランス勢ではステランティス・グループの「DSオートモビルズ」が、ブランドのルーツである1955年「シトロエンDS」の誕生70年を祝った。その傍らで、前月にブリュッセル・モーターショーで初公開したばかりの最新型電気自動車(EV) 「DS N°8」をフランス初展示した。

DSオートモビルズは、1955年「シトロエンDS」の誕生70年を特集。1959年のカタログ写真の実車再現は、メーカーの歴史部門監修のもと、パリ郊外の自動車専門学校が制作にあたった。

DSオートモビルズは、1955年「シトロエンDS」の誕生70年を特集。1959年のカタログ写真の実車再現は、メーカーの歴史部門監修のもと、パリ郊外の自動車専門学校が制作にあたった。

「N゜8」はDSブランド初の量産フルEV。イタリアにあるステランティスのメルフィ工場で生産される。

「N゜8」はDSブランド初の量産フルEV。イタリアにあるステランティスのメルフィ工場で生産される。

対するルノーは電気自動車(EV)である「フィラント・レコード2025」を世界初公開した。大胆なデザインは、ほぼ100年前の1926年に同社が製作した速度記録車「40CV」をモティーフにしたものだ。ただし、単なるエキセントリックなショーカーではなく、2025年中にEVとしての効率記録更新を狙う。

「ルノー・フィラント・レコード2025」。

「ルノー・フィラント・レコード2025」。

今回特筆すべきは、例年になく日本ブランドの積極的な出展がみられたことだ。トヨタの現地法人は電動化への長い取り組みをアピールすべく、ハイブリッド車である初代「プリウス」と初代「RAV-4」のEV仕様を展示した。同時に「スポーツ800」もディスプレイ。

解説員のアラン・ドゥレーズ氏は、遠く1965年発売でありながら後年にその空力・超軽量設計が評価され、ガスタービン発電式EVやBEVのプロトタイプ素材となったことを説明。トヨタの技術的先進性を筆者に強調した。

今回展示された1965年「トヨタ・スポーツ800」は、300台が造られた左ハンドル仕様である。なぜ現存台数が少ないかは、動画を参照されたい。オランダのローマンズ・トヨタワールド博物館蔵。

今回展示された1965年「トヨタ・スポーツ800」は、300台が造られた左ハンドル仕様である。なぜ現存台数が少ないかは、動画を参照されたい。オランダのローマンズ・トヨタワールド博物館蔵。

トヨタは電動化の先駆者であることをアピール。左は初代プリウス、右は初代RAV-4のEV仕様。

トヨタは電動化の先駆者であることをアピール。左は初代プリウス、右は初代RAV-4のEV仕様。

また三菱は1985年パリ-ダカール・ラリーにおける「パジェロ」初優勝から40年を、マツダは初代「MX-5(日本名ロードスター)」の欧州導入35周年をそれぞれのブースで祝った。

三菱の展示から。これは2001年ダカール・ラリーでユタ・クラインシュミットが駆り、同ラリー初の女性総合優勝者に導いた「パジェロ」。

三菱の展示から。これは2001年ダカール・ラリーでユタ・クラインシュミットが駆り、同ラリー初の女性総合優勝者に導いた「パジェロ」。

マツダはMX-5の35周年を展開。手前は3代目(NC)をベースにした2009年のコンセプトカー「スーパーライト」。

マツダはMX-5の35周年を展開。手前は3代目(NC)をベースにした2009年のコンセプトカー「スーパーライト」。

2代目(NB)を基にした超希少な2003年クーペ仕様。今回のコレクションはいずれも、独アウクスブルクの「マツダ・クラシック・オートモビル・ミュージアム・フレイ」所蔵車である。

2代目(NB)を基にした超希少な2003年クーペ仕様。今回のコレクションはいずれも、独アウクスブルクの「マツダ・クラシック・オートモビル・ミュージアム・フレイ」所蔵車である。

クルマ雑誌女子発見

ところでレトロモビルの会場は、パリ・モーターショーと同じポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場で、原則として2月初旬の5日間である。2010年代は、日本のポップカルチャー・イベント「PARIS MANGA(パリ・マンガ)」とたびたび会期が重なった。そのため、見本市会場ゲートを追加したあと、若者や子どもたちはパリ・マンガへ、おじさんたちはレトロモビルへと、まるで分水嶺のごとき光景がみられた。

いっぽうで今回目立ったのは若い世代の姿である。

マツダのブースを熱心に見学する制服姿の3人組がいたので声をかけてみると、パリ郊外に本拠を置く「自動車およびトランスポーテーション専門学校(GARAC)」の生徒であった。1948年の創立で、自動車の板金、塗装、整備、古典車修復などのコースがある。「卒業生の96%が半年以内に就職」と学校はアピールしている。

「日本車は信頼性が高いうえ、デザインもいい」と彼らは話す。かつて、日本ブランドといえば「お買い得で品質も最高。でもスタイルは今ひとつ垢抜けない」というのが欧州における、よく聞かれる意見だった。近年はそのイメージが徐々に変わりつつある。

参考までにGARACは、前述のシトロエンDS70周年記念展示に参画。シトロエン歴史資料館のドゥニ・ユイユ館長監修のもと、1959年の有名なカタログ写真「4つの風船に乗ったDS」を再現した。

マツダ・ブースを見学していたGARACの生徒たち。左からオーレリアン、テイムそしてルカ君。

マツダ・ブースを見学していたGARACの生徒たち。左からオーレリアン、テイムそしてルカ君。

新興自動車雑誌『ヴュルカン』のスタンドではスタッフのヴァランティンヌさん(冒頭写真)がビジター対応や販売にあたっていた。24歳の彼女がクルマに関心をもったきっかけは、モータースポーツ好きの父親に幼い頃からイベントに連れて行かれたことだという。

今回彼らが展示したレース仕様に改造した2代め日産ミクラ(日本名マーチ)のように、日本車はデザインが良く、そして楽しいとヴァランティンヌさん。

彼女が働く雑誌『ヴュルカン』は2021年創刊の季刊誌である。価格は1部16ユーロ(約2500円)だ。編集部はパリではなく、フランス第2の都市リヨンである。しかしながら雑誌媒体の経営がけっして容易でない昨今、どのように乗り切ろうとしているのか?

彼女のボスである編集長のシルヴァン氏は、「既存の雑誌流通システムに依存せず、創刊当初から定期購読を主体にしています」と説明する。創刊号の「ホンダ・インテグラ・タイプR」以来徹底した1号1車種主義、そればかりか1号1バージョン主義を貫くことで記事の深みを出してきた。

まもなく創刊5年目。最新号である2024年12月号のテーマは「ルノー・シュペール5GTターボ」だ。

自動車誌ヴュルカンのスタンド。スタンドのアイキャッチには日産ミクラを選んだ。ダミーの横浜ナンバーにも注目。

自動車誌ヴュルカンのスタンド。スタンドのアイキャッチには日産ミクラを選んだ。ダミーの横浜ナンバーにも注目。

憧れは「宮田!」

顔出しNGということで撮影はかなわかなったが、パリ16区在住のイメンヌさんは20歳。情報関係の仕事をしているという彼女は、開催2日めの木曜午前に、友達のヤスミンさんと休暇をとって来場していた。

彼女たちと会ったのは、公式オークションであるアールキュリアル社の内覧会場である。ブースの観覧は無料だが、混乱を避けるため人数が規制されている。そのため長い列ができていて、イメンヌさんたちも30分待ちの末の入場だったという。

参考までに、レトロモビル2025年の一般入場料(前売り)は20ユーロ。2024年から遠い郊外のメッセ会場に移転したPARIS MANGAと同額で、かつ規模がより大きい。さらに16歳以下12ユーロ、12歳以下無料という、財布に優しい設定も、若者たちの入場を促していると考えられる。

まだ自動車を保有していないイメンヌさんにとって、夢のクルマは2台ある。1台は緑のポルシェ911、それも初期モデルだ。そしてもう1台は? 彼女が「宮田!」と聞こえたので聞き返すと、フランス語発音によるミアータ、つまりMX-5のことであった。そこですかさず、隣からヤスミンさんが「私、先日日本を観光旅行してきたばかりです!」と興奮気味に教えてくれた。こうした“サブ環境”も日本車人気の醸成につながっているのだろう。

アールキュリアル・オークションに出品された1974年「ホンダZ」。エンジンは日本国内用の360ccではなく、当時輸出用に設定されていた600ccである。事前の参考予想価格に近い23,840ユーロ(約373万円。税・手数料込み)で落札された。

アールキュリアル・オークションに出品された1974年「ホンダZ」。エンジンは日本国内用の360ccではなく、当時輸出用に設定されていた600ccである。事前の参考予想価格に近い23,840ユーロ(約373万円。税・手数料込み)で落札された。

現代の若者はクルマに興味がないといわれるが? という問いに、「フランスではそんなことはないわよ。一般日の週末には、若い人たちがいっぱいいるわよ」とイメンヌさんは教えてくれた。

最後に、前述のように今回、MX-5特集が会場内にあることを筆者が告げると、彼女たちは必ずブースを訪問すると、力強く答えて去って行った。

たとえ一人ひとりのアプローチは違っても、若者集うところにまた若者がやってくるのはたしかだ。2026年に開催半世紀を迎えるこのイベントは、最近のアナログレコードやカセットテープのごとく、プロダクトが現役だった時代を知らないジェネレーションによって支持されるという、新たなステージを迎えそうだ。

スーパーカー・スペシャリスト「ラ・スクアドラ」のブースで。「ケーニグセグCC850」にカメラに収める来場者。

スーパーカー・スペシャリスト「ラ・スクアドラ」のブースで。「ケーニグセグCC850」にカメラに収める来場者。

ポルシェが設置した「GT3RS」のシミュレーター。仲間の操縦ぶりを記録する。

ポルシェが設置した「GT3RS」のシミュレーター。仲間の操縦ぶりを記録する。

会場各所でみられた保護者同伴ではない若者の姿は、半世紀続く旧車イベントの新たな幕開けか?

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