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最終更新日:2025.04.28 公開日:2025.04.28

なぜタイムズの「カーシェア」は絶好調なのか? クルマ離れの時代に若者たちに支持される理由【クルマの経済学】

タイムズカーが設置されている駐車場のイメージ

クルマに乗る若者は本当にいなくなってしまったのだろうか? 否、実は日本では「カーシェア」が急成長しており、それを支えているのが若者だという。モータージャーナリストの山崎 明氏が、国内カーシェアリングサービス最大手「タイムズカー」を運営するタイムズモビリティに、カーシェア業界の現在を伺った。

タイムズカーが設置されている駐車場のイメージ

文=山崎 明

資料=パーク24

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カーシェアのユーザーは増えている? 減っている?

最近、街で走るタイムズカーを良く目にする。東京に住む私の息子もよく使っているらしい。タイムズカーのステーションも増えているように感じられる。カーシェアといえば「自動車業界の100年に一度の大改革」のキーワードとしてよく使われるCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化を示す)の“S”である。これからの時代のクルマの有り様を示す動きとして注目に値するものだ。

そこで今回、カーシェアの現状について、国内シェアNo.1であるタイムズカーを運営するパーク24グループのタイムズモビリティ株式会社第二事業本部長の矢野恵司氏に話を伺った。

タイムズカーはCASEという言葉をメルセデスベンツが初めて使った2016年より7年前の2009年に事業をスタート。非常に先見の明のある動きである。発足数年は会員数も車両台数も少なかったものの、CASEが叫ばれ始めた2016年には会員数50万人を突破した。

全国でのタイムズカーのステーション数や会員数の推移など(2024年10月末時点)。サービス開始から右肩上がりに成長していることがわかる。

全国でのタイムズカーのステーション数や会員数の推移など(2024年10月末時点)。サービス開始から右肩上がりに成長していることがわかる。

しかし、その当時カーシェアは欧米が先行しており、例えばアメリカのZipcarの会員数90万人に比べると少ない水準だった。ただし、タイムズカーはその後も順調に会員数を伸ばし、2018年には100万人、2022年には200万人、2024年には300万人を越えている。車両台数もステーション数もほぼ右肩上がりに伸びていて、2025年3月末時点では、車両は約7万台、ステーション数は約2万か所となっている。

一方のZipcarであるが、最新の会員数は公表されていないものの、2021年でも100万人を僅かに超える水準に留まっており、会員数は伸び悩んでいる。欧州中心に鳴り物入りで始まったメーカー主導のカーシェア事業も今ではほとんどが撤退してしまっている。つまりCASEともてはやされたものの、海外での「S」は全く伸びていないといっていい状態なのである。

カーシェア人気の秘密は日本特有の文化にアリ?

ではなぜ、日本でカーシェアが今もなお伸び続けているのだろうか?

まず考えられるのが、日本の大都市でのクルマの保有コストの高さと、公共交通機関の充実だ。クルマが必要な場面が少ないにもかかわらず、駐車場をはじめとした保有コストが高い。

アメリカでは車検も車庫証明も不要でクルマの保有コストは安く、公共交通機関が発達していない。クルマを保有せずに生活できる都市はニューヨークなどごく僅かだ。ヨーロッパではロンドンやパリなどを除けば都市の規模が小さく、中心部を離れると公共交通機関が不便でクルマが必要なケースが多い。つまり日本の大都市は潜在的にカーシェアのニーズが高い特性があるということだ。

次に、おそらくこれが最も重要なポイントだが、日本人の公共心の高さ、つまりマナーの良さだ。日本の公共交通機関や公共トイレの綺麗さは世界トップレベルと言って良いが、それは使う人の多くがマナーをわきまえて使っているからだ。レンタカーと違い、カーシェアのクルマは貸し出しが終わるたびには清掃しない。

タイムズカーは2週間に1回、清掃を行っているが、言い換えれば、その程度の清掃頻度で済むように利用者が綺麗に使ってくれているということだ。

これは海外でのカーシェアで最も問題になっていることだという。汚れてもそのまま、ぶつけても報告しないといったマナー違反が続出し、結局貸し出しのたびに係員が清掃したり点検したりしなければならないケースが多発しているとのこと。それではレンタカーと同等以上の人件費がかかることになってしまい、カーシェアの価格的優位性が失われてしまう。

タイムズカーではさらに、車両を大切に使っている会員を優遇するプログラムを導入している。一例では、新たに車両を借りる人が、ゴミが残っていないかなど直前に利用した人の使い方を評価し、高評価を受けるとポイントをもらえるといったものがある。また車両の使い方以外にも、無事故やエコドライブでもポイントをもらえるので、安全運転と汚さないで使うモチベーションが高まる仕組みだ。

ポイントをためるとステージが上がり、プレミアムクラスのクルマをベーシッククラスの金額で借りられたり、通常より早くから予約できたりという特典を得ることができる。このような仕組みが日本人の気質に合い、好循環に貢献しているのだろう。

「タイムズカープログラム」のステージ特典詳細。人気車種に乗りたい場合、”ステージ2”から付与される「3週間前から予約可能」という特典を利用するといいだろう。

「タイムズカープログラム」のステージ特典詳細。人気車種に乗りたい場合、”ステージ2”から付与される「3週間前から予約可能」という特典を利用するといいだろう。

もう一つ大きな理由として、日本のカーシェアは時間貸駐車場「タイムズパーキング」を運営するパーク24グループが主導しているということだ。つまり膨大な数の駐車場を管理し、様々な場所にステーションを設置できるインフラを持っている会社が主体となっているのだ。

どのような場所に何台配置すれば良いのか、場所ごとにどういう車種が好まれるのか、トライアンドエラーを行うことができ、ノウハウがたまっていくのだ。そうすることで、使う側からみれば利便性の高いところにステーションがあり、使いやすい車種が置かれているということになる。そのため、日本でのカーシェアはパーク24グループのタイムズカーが圧倒的に強く、車両数の7割近く、ステーション数の約65%をタイムズカーが占めている。(公益財団法人エコロジー・モビリティ財団 2024年3月調査より算出)

さらに、タイムズカーは入会のしやすさという点も見過ごせない。当初はクルマの解施錠に会員カードが必要だったため、店舗に行ったり、ネットで申し込んだりして会員カードを発行してもらわないと利用できなかった。

しかし現在ではアプリで解施錠出来るため、ネットで入会申請してアプリをダウンロードすれば最短15分で利用可能となっている。会員でなくても、すぐに入会して利用できるというのは会員数の増加に大きく貢献しているはずだ。

タイムズカー会員「ベーシック クラス」で利用可能な車種一覧(全21車種)

タイムズカー会員「ベーシック クラス」で利用可能な車種一覧(全21車種)

若者たちの意外なカーシェアの使い方とは?

このように、日本ではカーシェアが普及する条件が整っていると言えるが、どのような目的で利用されているのだろうか。まずはカーシェアとレンタカーとの違いを見てみたい。

パーク24グループでは、タイムズカーのほかに「タイムズカーレンタル」というレンタカーサービスも手がけている。最も大きな違いとしては、タイムズカーは15分単位で最大72時間までなのに対して、タイムズカーレンタルは最小単位が6時間で数週間借りることも可能ということだ。(一部タイムズカーは最大30日間利用可能)

このことからも、カーシェアは短時間での利用が多そうだが、実態として、>レジャー目的でカーシェアの利用が増え、長時間利用も増えてきているという。

なお、タイムズカーの料金はベーシッククラスで15分220円と安く、しかもガソリン代も込みなので丸1日借りてもレンタカーよりかなり安上がりだ(レンタカーはガソリン満タン返しが原則)。

ただしカーシェアには使わなくても月額880円の基本料金がかかるから、それなりの頻度でカーシェアを使う人でないとお得とはいえないかもしれない(利用すると月額基本料金は利用料金に充当され、実質無料となる)。このあたりは利用頻度の低いマイカーを保有するよりお得と考えるか、各々のライフスタイルで意見は別れそうだ。

タイムズカー会員のアンケート結果を見ると、入会のきっかけで最も多いのが「自家用車を手放した」である。クルマの保有にはお金がかかるのでやむなく手放したが、クルマを使いたい場面はそれなりにあるということなのだろう。

タイムズカー会員 個人アンケート「タイムズカー入会のきっかけ」

タイムズカー会員 個人アンケート「タイムズカー入会のきっかけ」

「年齢構成」では20代以下の若者が一番多く、30代も含めると半数以上が30代以下となっている。学生の利用も増えているため、平日の稼働率も上がっているという。

これほどまでに若者の利用者が増えた背景には、「スグ乗り入会」サービス開始の影響が大きいという。これは新規利用者がスマホだけで入会が完結するサービスで、前述した通り、申し込み手続き完了から15分ほどでクルマに乗れてしまうというもの。

それまでは30~40代の利用者が多かったが、2022年にスグ乗り入会がスタートして以降は、20代以下の利用者が増え、年齢構成比が変化したとのこと。デジタルネイティブ世代に見事、この施策が刺さったというカタチだ。

このように、多くの若者がカーシェアを利用していることが分かった。若者はクルマ離れをしているのではなく、様々な事情によりクルマを持たない(あるいは持てない)だけなのだ。

タイムズカー会員構成比(2024年10月末時点)。ここ数年で若者の利用者が増え、20代以下~30代までで半数以上を占めるまで成長した。性別の構成比は男性が約73%、女性が約25%と、これは以前からあまり変わらないそうだ。

タイムズカー会員構成比(2024年10月末時点)。ここ数年で若者の利用者が増え、20代以下~30代までで半数以上を占めるまで成長した。性別の構成比は男性が約73%、女性が約25%と、これは以前からあまり変わらないそうだ。

次に、タイムズカーの利用目的としてはレジャー目的やドライブが最も多い。面白いのは運転の練習のために利用する人もいるということだ。クルマを所有していないため、運転技術を維持したいという目的だろう。将来クルマを購入する予定だから、という人も一定数存在する。

いきなりクルマを購入して運転するのは不安だから、カーシェアで練習しようということだろう。練習目的なら、短時間・高頻度で借りても費用がたいしてかからないカーシェアは理想的だ。ユーザーの中にはカーシェアでクルマを使ってみて、クルマの便利さ、愉しさを知ってクルマの購入に至るケースも多いという。クルマ好きなら、様々な車種を試して自分に合ったクルマを見つけることも可能だ。つまり、カーシェアはクルマの需要を伸ばす側面もあるのだ。

パーク24グループはカーシェアの需要はまだまだ伸びると予想しており、そう遠くない将来車両数は10万台を越えると見ている。会員数も現在300万人だが、日本の免許保有人数が8000万人であることを考えると、まだまだ伸びる余地は大きいと見ているようだ。

カーシェアはますます便利になっていくと考えられるので、今クルマを所有していない人もカーシェアを積極的に利用してクルマの楽しさ・便利さを実感し、クルマに対する関心を高めてもらいたいと思う。

お話を伺った、タイムズモビリティ第二事業本部長 矢野恵司さん

お話を伺った、タイムズモビリティ第二事業本部長 矢野恵司さん

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