110万円の国産原付ミニカー「ミボット」に予約殺到! 前後左右対象のレトロかわいいデザインはなぜ生まれた?【試乗レビュー】

2024年8月の予約開始から2025年3月までで申し込みは約2000件! コスパに優れた「原付ミニカー」規格として、東広島市発のベンチャー企業「KGモーターズ」が開発した超小型モビリティ「mibot(ミボット)」が、いま注目を集めている。人気の秘密はレトロかわいいデザインにあり!? 元スバルのカーデザイナー 渕野健太郎が試乗会に参加しその魅力を探った。

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ミボットがコスパ抜群な理由
広島県、東広島市に本社がある「KGモーターズ」の小型モビリティ「mibot」の、説明会と試乗会が都内で行われましたので、参加してきました。
KGモーターズは2022年に創業された、EVを製造販売するベンチャー企業です。私は2023年東京オートサロンで、このクルマのプロトタイプを見たことがあり、クルマというより家電やガジェットなどのプロダクト製品に近い感覚のデザインが魅力だなと感じていました。その時はまだプロトタイプの段階でしたが、今回の試乗会では量産一歩手前の車両が用意されていました。
mibotの車両区分である「原付ミニカー」は、全長2500mm以内、全幅1300mm以内、全高2000mm以内の、軽自動車よりもさらに小さい規格です。排気量は20ccから50ccまで、EVの場合は0.25kWから0.6kWまでと細かく決められており、乗車定員は1名です。この規格は車庫証明や車検が不要で、保険が安いなど、軽自動車と比べても維持費が大幅に安く済むというメリットがあります。電気(充電)代を含めた3年間の維持費はたったの11万円というから驚きます。
mibotの最高速度は60km/hで、航続距離は100km、充電は家庭用のAC100V電源に接続して5時間で満充電できます。そして、気になる車両本体価格は110万円です。コストだけ考えると、クルマを所有するハードルが大幅に下がったのではないでしょうか?

軽自動車、軽EV、mibotそれぞれのコスト比較。資料=KGモーターズ
なぜミボットのデザインは前後左右対称なのか?
サイドから見たシルエットはスズキの4代目 キャリイバンなどに通じる台形型のワンボックスで、全長2490mmに対し全幅が1130mmと、とても狭く(ちなみに軽自動車は1480mm)独特のプロポーションをしています。しかし、その不利なパッケージの中でもタイヤをちゃんと主張したデザインになっており、意外と安定感のあるスタンスを感じさせます。この点がmibotのデザインを魅力的なものに見せている一番の要因だと思います。
さらに全体のデザインテイストは、代表取締役である楠さんの狙い通り、タイムレスでロングライフを意識したレトロな雰囲気になっています。

mibotをサイドから見ると、フロント・リアが同じ形状に見えます。なぜこのようなデザインになったのでしょうか?
そんなmibotのデザインを決定づける最大の特徴は「車体の上半分のフレーム形状が前後で同じ」だということです。そのことについて楠さんにお聞きすると、コストを極限まで削減するために共用部品をできるだけ増やした結果だそうです。
実際、外装部品ではフロントとリアのパネルをはじめ、フロントフェンダーとリアフェンダー、前後クォーターウィンドウや左右ドアなどが同じ部品です。ボディパネルが材着未塗装など含めて、日本で未発売である「シトロエン・アミ」と同じようなコンセプトですね。

mibotのフレームイメージ
プロダクトデザインにおいて、コストとの兼ね合いはとても重要です。とくに新しい部品を作るとなると、必ず金型の作成費用がかかります。金型は高額で、私もカーデザイナー時代に見栄えとコストを天秤にかけ、設計者と何度も議論をしました。例え小さな部品でも金型作成にはコストがかかるので、工夫を凝らしてできるだけ部品点数を減らす努力をします。とくに小型EV市場においては、価格競争が激しく、新規参入メーカーにとって徹底したコスト管理が成功の鍵を握るでしょう。
デザイン開発の流れを楠さんにお聞きしたところ、はじめに自ら慣れないCADを使い、雛形を作ったそうです。それを外部デザイナーに委託してデザインを詰めていったということで、このアプローチはスピード感を持って開発を進めるベンチャーならではの手法といえます。
見た目以上に乗りやすい!?

試乗会は王子自動車学校の教習コースで実施されました。写真で試乗している方はKGモーターズ 代表取締役の楠一成さんです。
さて、実際に試乗すると、まず小さなボディに関わらず思いのほか乗り込みやすいと感じました。ドアの開口面積の大きさやヒップポイントの高さをはじめ、サイドシルからシートまでの距離などを吟味されたのだと思います。これなら若者はもちろん、高齢者でも乗りやすそうです。
発進するにはダイヤル型のシフトを操作するのですが、これも形状、視認性とも非常にわかりやすいです。今回は操作NGだったのですが、縦型の液晶ディスプレイも搭載されており、こちらの操作性も気になりました。
実は乗る前に、ひとつだけ疑念点がありました。それはドライバーの位置に対しフロントウィンドウがかなり前方にあり、Aピラーや戸当たり部のピラーで視界に制限があるのではないか、ということです。クルマのデザインは人の位置がまず重要で、全ての基準になります。ドライバーの視界とデザイン性との兼ね合いは、いつも頭を悩ますところです。とくに前方視界は重要で、Aピラーの位置や角度によって大きく変わるところです。
mibotの場合、前述の通り車体上半分のフレームが前後で同じ形状なので、ドライバーとフロントガラスとの距離が長いです。コスト面からこの構造は必然ということですが、そこが使い勝手としてどうなのか気になっていました。
運転した印象としては、やはりAピラーの位置はかなり前方で、場合により邪魔だったりするのですが、クォーターウィンドウの下端が大きく下がっており、交差点などでは思っていたより見やすく感じました。今回の試乗コースはクローズされた場所でしたので、このあたりは実際に街中で確認したいところです。
なお、加速性や静音性については、EVとして違和感がなくスムーズに加速し、車内もとても静かでした。

ドアは両サイドに設けられ、エアコン、シートヒーター、ディスプレイモニター、最大45kg積載可能な荷室と、移動を快適にしてくれる機能をひと通り搭載しています。
予約者はmibotをどう使う?
日本には元々「軽自動車」という非常に優秀なモビリティがあり、さらに都市部では「電動キックボード」の台頭と、小型モビリティは競争が激しいカテゴリーになっています。
mibotは予約が入った1911件のうち、約95%もの人が、現在1台以上クルマを保有しているということで、今のところセカンドカーとしての需要が多いようです。
しかし、今回の試乗会でKGモーターズは、mibotはSDV(Software Defined Vehicleの略。ソフトウェアを中心に作られたクルマを意味する)であると公言していました。つまりmibnotはテスラなどと同様に、ソフトウェアの遠隔アップデートや走行データの収集などを考えており、将来的には完全自動運転を目指すということです。
そういえば説明資料でも、mibotは「小型モビリティロボット」と表記しており、開発が始まる前からSDVを意識していることがわかります。
楠さんのお話によると、アプリはすでに開発中とのことです。それらのサービスを目の当たりにすれば一気に魅力が増して、新たな顧客層にも響くのではないでしょうか。これからの発展に期待したいです。
mibotは今後、2025年10月から2026年6月にかけて300台量産され、2026年7月から1年間で3000台の本格量産に入る予定です。

KGモーターズ ミボット|KG Motors mibot
SPECIFICATIONS
KGモーターズ ミボット|KG Motors mibot
ボディサイズ:全長2490×全幅1130×全高1465mm
車重:430kg
最高速度:60km/h
航続距離:100km
充電規格:AC100V
満充電時間:5時間
乗車定員:1名
規格:第一種原動機付自転車
必要免許:普通自動車免許
価格:110万円