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最終更新日:2024.12.26 公開日:2024.12.26

KK線緑地化計画のモデルはニューヨークにあり? 銀座を通る高架道路のひみつ。【川辺謙一の「道路の雑学」Vol.3】

交通技術ライター川辺謙一が語る「道路の雑学」。第3回は、来年4月上旬に廃止されることになった銀座の高架道路と、その緑地化計画のモデルに迫る。

文と写真=川辺謙一

銀座を通る高架道路「KK線(東京高速道路)」。東急プラザ銀座より撮影

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銀座に新しい憩いの場が生まれる

東京・銀座の風景が、これから大きく変わりそうです。街を横切っていたKK線(東京高速道路)と呼ばれる高架道路が来年4月上旬(本年11月12日発表)に廃止され、緑地化されるからです。

銀座は、歴史がある街であるゆえに建物が密集しており、公園などの無料の休憩スペースが少ないという弱点がありました。KK線が緑地化されれば、銀座に新しい憩いの場ができることになります。

そこで今回は、KK線の概要を紹介するとともに、緑地化計画のモデルの1つとなったニューヨークの「ハイライン」を紹介します。

日本橋の首都高地下化とセット

KK線は、銀座を通る全長2km余の高架道路です。かつて銀座付近を流れていた河川(外堀・汐留川・京橋川の一部)を埋め立てて建設され、1959年に部分開通、1966年に全線開通しました(ここでいう「開通」は「供用開始」のこと)。

この道路は、3つの料金所で首都高速道路(以下、首都高)と直結していますが、首都高の路線ではありません。このため、首都高速道路株式会社とは異なる別の企業(東京高速道路株式会社)が運営しています。

通行料金は無料です。道路の真下にある14棟に分割された賃貸スペース(レストラン街やショッピングモール)で得られた収益を、道路の建設費や維持管理費にあてているからです。

KK線の真下にある賃貸スペース(商業施設)。ここでの収益が、建設費や維持管理費にあてられている

KK線の廃止は、前回紹介した「日本橋での首都高地下化」とセットで進められています。KK線の一部区間の地下では、新しいトンネルを通る道路(首都高の新京橋連絡路)が建設されます。これが完成すると、首都高の都心環状線(C1)の築地川区間と八重洲線(Y)が結ばれ、日本橋付近を通らない新しい都心環状ルートができます。

つまり、新しい都心環状ルートをつくることで、KK線がなくても必要な交通処理ができるようになるので、KK線を廃止することが可能になったのです。

緑地化のモデルはニューヨークにあり

さて、冒頭で述べた通り、KK線は廃止後に緑地化されます。

東京都都市整備局が公開している「東京高速道路(KK線)再生方針」(2021年3月付)のp20では、「海外の事例」として、パリの「ラ・クレ・ヴェルト・ルネ・デュモン」やニューヨークの「ハイライン」、ソウルの「ソウル路7017」が紹介されています。

このなかで、KK線緑地化のモデルとしてよく紹介されるのが、ニューヨークの「ハイライン」です。たとえば東京都総務局が公開している「知事と区市町村長との意見交換(中央区)」(2019年10月21日付)には、銀座がある中央区の山本泰人区長が、小池百合子都知事と会談し、「(KK線の)上部をニューヨークのハイラインのように、人でにぎわう緑のプロムナードにすることを願っている」と述べたと記されています(カッコ内は筆者追記)。

ニューヨークの「ハイライン」の案内図。黄色の部分が緑地になっている

「ハイライン」の歩道は、ウッドデッキになっている。11月に撮影したため、緑になった部分が少ない

ニューヨークの「ハイライン」は、全長約2.3kmの線状の公園で、2009年に開園しました。そのすべてが高架橋の上にあるため、地上に降りる階段が8箇所、車いすも利用できるエレベーターが4箇所あります。

KK線とくらべると、全区間が高架橋である点が共通しており、全長も近いです。ただし、KK線は半径が小さい急カーブが2箇所あるのに対して、「ハイライン」はほぼ直線状です。

ここは、もともと貨物列車が走る鉄道の高架橋でした。ニューヨークの中心地があるマンハッタン島のハドソン川に面した地域にあり、ここが港湾地区や工業地域として栄えた時代は、多くの貨物が鉄道で輸送されていました。

また、高架橋の沿線には、1890年に建設されたレンガ造りの建物がありました。ここには、かつてナビスコの工場があり、クッキー「オレオ」を製造していました。

その後、トラック輸送が発達すると、鉄道が衰退し、廃止されました。

そこでニューヨーク市は、鉄道が通っていた高架橋の上を緑地化して、同市が管理する公園「ハイライン」にしました。

「ハイライン」から見た線路の跡。かつてはここを貨物列車が走っていた

いっぽう、先ほど紹介したレンガ造りの建物は、1990年代に外観を保ったまま再開発され、「チェルシーマーケット」と呼ばれる複合施設になりました。その一部はレストラン街やショッピングモールになっており、「ハイライン」と直結しています。

「チェルシーマーケット」は、日本の「横浜赤レンガ倉庫」と似ています。「横浜赤レンガ倉庫」は、横浜港の倉庫を、外観を保ったまま文化・商業施設に改造したものです。その内部の雰囲気は、「チェルシーマーケット」のレストラン街やショッピングモールと似ています。

現在、「ハイライン」と「チェルシーマーケット」は、ニューヨークの観光名所になっており、多くの人が訪れています。このため、都市再生のモデルケースにもなっています。

「チェルシーマーケット」のショッピングモール。かつて工場だった面影が残っている

銀座にできる空中回廊

東京都と東京高速道路株式会社は、KK線を、緑に囲まれた歩行者中心の「Tokyo Sky Corridor(トウキョウスカイコリドー)」へと再生するプロジェクトに取り組んでいます。全区間の整備完了目標時期は、2030年代から2040年代です。

それが実現すると、車道は緑ある空中回廊(スカイコリドー)となります。それは港湾地区にある「ハイライン」とはちがい、都市の中心地の眺望を歩きながら楽しめる空間です。

また、KK線の真下には、すでにレストラン街やショッピングモールがあります。空中回廊に続く通路ができれば、それらの利便性が増します。

もし、これらが実現すれば、「ハイライン」を超える観光名所が東京に誕生するかもしれませんね。

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