左折前の“幅寄せ”で安全性がアップ!|長山先生の「危険予知」よもやま話 第28回(前編)
JAF Mate誌の「危険予知」を監修されていた大阪大学名誉教授の長山先生からお聞きした、本誌では紹介できなかった事故事例や脱線ネタを紹介するこのコーナー。今回は長山先生の話が多いに盛り上がったため、前編と後編に分けて紹介します。まず前編では、左折時にバイクを巻き込む危険な心理、さらにバイクのすり抜けの違法性を詳しくお聞きしました。
左折前の“幅寄せ”で安全性がアップ!
編集部:今回は交通量の多い幹線道路の交差点で左折しようとしている状況です。左ドアミラーで安全確認をしてから曲がろうとしたところ、側方からバイクがすり抜けてきて巻き込みそうになりました。ミラーにはバイクは映っていなかったので、ミラーの死角に入っていたということですね。
長山先生:そうですね。自動車学校では、技能教習の運転教本の中でミラーに映る部分と映らない部分を教えています。最近ではミラーに映らない部分にバイクなどを置いて、頭を回して直接目視して確かめることの必要性を実体験させています。問題写真のミラーには映っていなかったので、バイクはこの死角部分を走行していたことになります。
編集部:私も何度か経験していますが、ミラーの死角は意外と大きいですよね。とくに相手が車体の小さなバイクですと、完全に隠れてしまう可能性が高いですし。
長山先生:そうですね。実際に運転していて側方の死角に入っている四輪・二輪などを見落としてヒヤッとするような経験は、多くの方が体験していると思います。また、このような危険性は左折時だけでなく、進路変更の際、左右に車線を変える場合にも同様に生じることを認識しておかなければなりません。
編集部:高速道路で合流するときにもヒヤッとしたことがあります。本線を走ってきた車がちょうどミラーの死角に入り続けていたようで、いざ合流しようとしたら真横に車がいて危なかったです。目視しなかったのがいけないのですけど、誌面で紹介している「死角を確認する補助システム」があれば、よかったかもしれません。
長山先生:私はそのようなシステムが付いた車に乗ったことがないので、死角部分の車がミラーの中にどのように映るのかピンと来ませんが、多くのメーカーが同じ機能のものを装備し始めているようですね。
編集部:そのようです。マツダのCMでも紹介していますが、国内・海外メーカーを問わず、採用車種が増えているようです。誌面の写真はトヨタの「ブラインドスポットモニター」で、死角部分に車両が併走している場合、ドアミラーにオレンジ色のインジケーターが点灯し、さらにその状態でウインカーを操作するとインジケーターが点滅して注意を促すようになっています。メーカーによって車両を検知する範囲は異なるようですが、トヨタの車に乗った印象では割と広めになっていました。
長山先生:ドアミラーの死角は運転者の体格やシートポジション、ミラーの調整の仕方で変わってくるので、安全マージンを取って広めにしているのでしょうね。
編集部:そのようです。ただ、自動車メーカーのホームページなどを見ると、このような安全装備は進路変更時に死角に入った四輪車の存在を知らせてくれるもので、小型の二輪車や自転車などは検知できないこともあるそうです。あくまでもドライバーの安全確認を補助するもので、やはり目視はしないといけないようです。
長山先生:もちろん目視は重要ですね。ただし、左折時にはもっと大事なことがあります。左側への幅寄せです。
編集部:“幅寄せ”ですか? 幅寄せと聞くと、ちょっと悪いイメージがありますが、バイクや自転車が車の左側に入らないように車を寄せることですね。教習所でみっちり教わった覚えがありますが、実際の道路でちゃんと実践しているドライバーは少ないような気がします。
長山先生:たしかに実践しているドライバーは少ないですが、これは道路交通法34条第1項で「左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、できる限り道路の左側端に沿って(中略)徐行しなければならない」とされています。
編集部:道交法で決まっているルールなのですね。では、これを実践していないと、取り締まりの対象になるのでしょうか?
長山先生:“できる限り”という文言なので、それをどう判断するのか難しそうですが、左折巻き込み事故になりかねないほど明らかに左側を空けたまま左折すれば、道交法違反に問われるかもしれません。
編集部:逆に言えば、“左折時に左に寄せる”のは、それほど大事なことなのですね。
長山先生:そのとおりです。左に寄せることは、左側に二輪車や自転車が入る余地をなくすだけでなく、後続する車両に左折する意思を明確に伝える目的もあります。これをしっかり実践すれば、左折巻き込み事故はかなり減らすことができるでしょう。今回の結果写真でも、左側方をバイクが通過して来ているのですから、あらかじめ左に幅寄せしていなかったことになります。
編集部:幅寄せをする際にすでに死角部分にバイクがいたり、ある程度幅寄せしても、狭い隙間をバイクや自転車が無理にすり抜けてくることがあります。そんなときはどうしたらいいのでしょう?
急な左折は、合図を忘れて事故原因に!
長山先生:すでにミラーの死角部分に二輪車などがいた場合、二輪車を先に行かせてから幅寄せします。もし、幅寄せした状態でそこをすり抜けてくる二輪車や自転車がいた場合も同じで、先に行かせてから左折します。
編集部:ということは、事前に幅寄せする際に1回、曲がる際にもう1回、死角を2回目視する必要がありますね。
長山先生:そうですね。とくに二輪車の速度が速かったり、事前に左側端に十分幅寄せていなかった場合、目視を十分行う必要があるでしょう。二輪車は速い速度で走行していることが多く、チラッとミラーを見ただけでは見落とす危険性がありますから。また、左折事故を分析すると、交差点の直近で曲がることに気づいて急に左折を開始したり、突然経路を変えようと思って、合図もなしで急に左折したことが原因で起きているケースが少なくありません。
編集部:私も経験したことがあります。以前、渋滞で停止中の車列の右側(中央線付近)をバイクで通過していたところ、突然車が右側の路地に曲がろうと出てきたため、危うく接触しそうになりました。渋滞を回避しようと、急に進路を変えたようです。
長山先生:慌てて曲がろうとしたり、急に思いついて行動に移すと、いつも行っている安全確認を忘れがちで、とても危険です。そのような状況になったら事故の危険性を考えて、一呼吸おいて慎重に行動するか、状況によっては無理に行動に移さないことが大切です。
編集部:急に曲がろうとすれば、ウインカーを忘れたり、出すのが遅れますね。
長山先生:そのとおりで、合図が遅れれば、そのぶん周囲の車両にも左折する意思が伝わらず、運転者のミスがそのまま事故に直結してしまいます。なお、合図は交差点や駐車場の入口など、左折しようとする地点から30m手前に達したときに開始し、左折行為が終わるまで合図を継続して出さなければいけません。
編集部:左側端に寄せるのも厳密には進路変更になるので、30mのさらに手前から左にウインカーを出さなければいけませんよね?
長山先生:そうです。合図を行う時期は道路交通法施行令第21条で、下記のように規定されています(一部抜粋)。
【合図を行う時期】
- 左折するとき。:
その行為をしようとする地点(交差点においてその行為をする場合にあっては、当該交差点の手前の側端)から30メートル手前の地点に達したとき。 - 同一方向に進行しながら進路を左方に変えるとき。:
その行為をしようとする時の3秒前のとき。
編集部:進路変更は下欄に当たるので、3秒前になりますね。最短だと、ウインカーを3秒出してから幅寄せし、そのまま30mウインカーを出し続けて交差点を左折する計算ですね。かなり手前から準備していないと、とてもこのとおりできませんね。
長山先生:周囲の車に進路変更や左折の意思を確実に伝えて安全に左折するには、これだけの手順が必要であるということです。だから、目的地に行くため、どの交差点で左折するのか決まっている場合、その交差点のかなり手前で「あの交差点で左折だ」と意識しておくことが必要になります。
編集部:ところで、私はバイクに乗るのですり抜けしたくなるライダーの気持ちがよく分るのですが、今回のような交差点手前でのすり抜けは、バイク側にも問題がありますよね?
バイクの“すり抜け”は道交法に触れる?
長山先生:そうですね。そもそも走行車両の左側をすり抜ける行為は、道交法28条の“右側追い越しの原則”に反する可能性が高いです。進路を変えず側方を通過する場合、「追い越し」ではなく「追い抜き」になりますが、わずかでも進路変更をともなって走行中の車の前に出ると「追い越し」になります。追い越しの場合、「交差点およびその手前30m以内」は追い越し禁止になるので、それに触れる可能性もあります。
編集部:なるほど。たしか「すり抜け」には明確な規定がなかったようなので、意外と道交法に触れないのかと思いましたが、追い越しに関する違反に当たる可能性があるのですね。
長山先生:また、道交法34条第6項の「右左折合図車の進路変更の妨害禁止」にも触れる可能性があります。今回の場合では、左折しようとする車が道路の左側端に寄ろうと合図をしたら、後方の車はその車両の進路変更を妨げてはならないことになります。後続の車が急ブレーキや急ハンドルの操作をしなければならない場合は除外されますが、二輪車の運転者が前を走る車が左ウインカーを出して左側端に寄ろうとしているのを確認しながら側方をすり抜けようとしたなら、これに当たる可能性があります。
編集部:いずれにせよ、走行中の車の左側方をすり抜けるのは、道交法に触れる可能性が高いということですね。
長山先生:そう思って間違いありません。それだけ危険をともなう行為であると言えます。
編集部:でも、渋滞で完全に停止している車の左側方をすり抜けるのは問題ありませんよね?
長山先生:よく見かけますが、それも道交法違反になる可能性があります。今回の道路の左側端は路側帯ではないようですが、歩道がなく1本の白線で区切られた路側帯だった場合、軽車両(自転車)なら通行できますが、二輪車は通行できないので、白線の中を走行してすり抜けをすると違反になります。また、停止車両の側方を通過する際も、停止車両のドアが開いたり車両の隙間から人が飛び出す可能性もあるので、安全な間隔を空けたり速度を抑えて走行する必要があります。速度を出したまま、停止車両ギリギリを通過するような走り方をすれば、道交法70条の「安全運転の義務」に抵触する可能性があります。
編集部:停止車両の側方であれ、すり抜けは危険な行為で、何かしら法律に触れる可能性があるのですね。
長山先生:そうです。また、道交法に触れなくても、交差点や駐車場付近で停止車両の左側方を通過する際は細心の注意が必要です。停止していた車が急に左折する危険性があります。先ほども触れましたが、停止車両の運転者が急に思いついて左折するような場合、合図を出さずに曲がることが多く、事故になる危険性が高くなります。バイクに長く乗っている人なら、そのような危険性は知っているかと思いますが。
編集部:ただ、バイク乗りの立場から言うと、多少危険ではあるものの、すり抜けには渋滞中でも停止せず前に進めるという大きなメリットがありますから、大ケガでもしない限り完全にやめるのは難しいと思います。
長山先生:多くのライダーも同じかと思われますので、「走行中の左側追い越し」や「交差点や駐車場付近でのすり抜け禁止」など、最低限のルールや注意点は守って走行してほしいものです。
編集部:そうですね。高校生向けの「バイクの三ない運動」ではありませんが、十分注意してすり抜けを行うほうが、より現実的で受け入れやすいですね。
『JAF Mate』誌 2017年6月号掲載の「危険予知」を元にした「よもやま話」です
<後編を読む>
左折前の“幅寄せ”で安全性がアップ!|長山先生の「危険予知」よもやま話 第28回(後編)
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