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最終更新日:2024.05.16 公開日:2024.05.16

クルマのインパネ、デジタルよりアナログが使いやすい? タッチパネルと物理スイッチの関係を考察!

クルマのIT化とともに、コックピットにタッチパネル式ディスプレイを採用した新型車が数多く登場している。しかし、近頃は再び物理スイッチの採用車を評価する動きも出ている。アナログとデジタルの関係性はどのように変化しているのか、永遠のテーマにモータージャーナリストの原アキラが切り込む!

文と写真=原アキラ

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欧州では今後、物理スイッチ「有」が評価される?

最新EVなどの車内では、大型のタッチパネルに操作系を集約することで、物理スイッチのない室内構成になっているものが増えてきた。見た目がシンプルでスマートなインテリアは先進感があってステキだし、メーカーにとってもコストをかけずにいろんな操作ができたり、ソフトのバージョンアップが簡単に行えたりと有利な点があって、そちらに進んでいこうという姿勢はわからないでもない。

これに対してヨーロッパの自動車安全評価機関が実施するユーロNCAP(ヨーロッパ新車アセスメントプログラム)は、2026年以降に生産されるクルマに対して、ウインカー、ワイパー、ハザード、ホーン、SOSコールという主要機能に関しては、タッチパネルではなくボタンやダイヤル、レバーなどの物理スイッチを割り当てないと最高評価が得られない、との提言を発表している。

あくまで評価基準なので法的にどうこういうわけではないのだが、クルマを製造するメーカーは今後、これを意識せざるを得ないだろう。

デジタル派は“タブレット型”と“全面型”の2つに

タッチパネルでほぼ全ての操作を行うテスラが登場したときには本当にびっくりさせられたものだが、ちょっと前のモデルにはステアリング横にシフトとウインカーのレバーがまだあった。しかし最新の「モデル3」や「サイバートラック」にはそれがなく、ステアリングとタッチパネルだけという徹底的に物理スイッチを廃したデザインを採用している。テスラらしさを表現するためには、ユーロNCAPを意識する必要はない、との判断かもしれない。

先ごろ日本でも公開されたサイバートラックのインテリア。ステアリングとディスプレイのみとなっている。

ボルボの新型EV「EX30」も、ダッシュ中央に大型のタッチパネルだけを搭載して北欧家具を思わせるようなシンプルなデザインとなっているけれども、シフトやウインカーレバーがしっかりと存在しているところを見ると、提言を意識した仕様になっているようだ。ジャパンモビリティショーで見たBMWやマツダのコンセプトカーも同じようなシンプルなダッシュボードを採用していて、そちらの方向に進んでいきそうな感じではあった。

ボルボのBEV「EX30」の運転席は大幅にシンプル化された。ステアリングにはシフトとワイパー、ウインカーレバーが備わっている。

一方で、ダッシュボード全面を高精細なパネルでカバーしているのがメルセデスの「Sクラス」や「Eクラス」、また日本では先ごろ惜しまれつつディスコンとなってしまったホンダeなどだ。

前者は認識能力の正確さが初期のものに比べて格段に高まった音声入力によって、深い階層を辿ることなく様々な操作が可能になっている。また、肝心の安全面での操作はレバーやボタンで行うレイアウトを採用しており、さすがメルセデス、と呼べるレベルをキープしている。

ホンダの画面はエンターテインメント性を重要視した作りとなっていて、運転に関するものはスイッチやダイヤルによって行う上手なレイアウトになっていた。

3個のディスプレイを1枚のガラスで覆ったメルセデス・ベンツのBEV「 EQS」のMBUXハイパースクリーン。音声操作に優れている。

ホンダのBEV「ホンダe」の全面ディスプレイを採用したダッシュボード。運転操作系はボタンやスイッチを多用している。

ちょっと古いクルマは使いやすい?

実は筆者が所有するクルマは、アナログ式の権化ともいっていい1993年式のメルセデス・ベンツ「W124」と1990年式のVW「ゴルフⅡ」。特にW124はもう10年以上付き合っているので、その操作系はほぼブラインドタッチで行うことができる。

一方、試乗会で冒頭に述べたようなタッチパネル尊重型の新型車に乗る際は、どの階層にどんな機能が配されているのかを事前のインストラクションでしっかり把握することが必要で(それでも全部は無理なのだが)、とはいえ試乗時に結局そこに辿り着くことができずにスルーしてしまったり、ブラインドタッチができないので走行中に画面を凝視してちょっと危険な状態になったりと、モヤモヤ感が残ることが多いのが常。帰路でW124に乗り換えると本当にホッとしたものだ。

W124のウインカーとワイパー操作を一体にしたレバーをはじめ、ギザギザの溝があるゲート式シフトレバー、ボタンと組み合わせた上下/左右の回転式空調ダイヤル、センターコンソールのウインドースイッチなど、配置がよく練られているだけでなく確実な操作感覚があるので、瞬時に安全に操作ができるという絶大な安心感があるのだ。また安全面ではないのだが、筆者が気に入っているのがドアの側面に取り付けられたパワーシートスイッチ(座面、背面、ヘッドレストを分けたシートの形をしている)で、シート下にあるものより断然使いやすく、最新モデルでも同じ形で採用され続けている。

1993年式メルセデス・ベンツ「W124」の運転席。バウハウス的なデザインを採用した室内のスイッチやボタン、ダイヤル、レバー類は配置や操作感がよく、筆者の最も好きな仕上がりだ。

1990年式の「ゴルフⅡ」は、四角いダッシュボード内にボタンやスイッチを集中的に配置している。3速ATのシフトレバーは大柄なT字型。

これは余談だが、メーターの数が時代とともにだんだんと増えてきているのも面白い。1958年に登場した「スバル360」はスピードメーターがたった1個だけだったのが、63年のホンダ「S500」では4連メーターになり、67年のトヨタ「2000GT」では7連メーターにまで増えた。海外ではアストンマーティンDB5も7連メーター。60年代のシトロエンDSやその廉価版のIDシリーズでは、8時の位置にセンターがある1本ハンドルと各操作を行う細いレバーを組み合わせるという、アナログ派の中でも超個性的な操作系を持つものもあった。

4つの円形メーターが備わるホンダSシリーズの運転席。シンプルで見やすくスポーティだ。

独特の1本ハンドル(8時の位置がセンター)を持つシトロエン「ID19(DSの廉価版)」の運転席。

では現状の新型車の操作系がどうなっているのかというと、タッチパネルなどの画面と物理スイッチの両方を使うものが大半だ。トヨタ「プリウス」のアウトホイールメーターや、日産「ノート」の木目調パネルに落とし込んだスイッチ類など、各社がいろいろと個性を出しているけれども、折衷型であるという点は同じ。中国BYDや、韓国ヒョンデの電気自動車たちも同様だ。

日産「ノート オーラNISMO」の運転席。木目調パネルに埋め込まれた各種スイッチ類が特徴。

韓国ヒョンデの高性能BEV「アイオニック5N」のコックピットはアナログ式のボタンやレバーを多用し、サーキット走行にも対応できる。

スーパーカーやF1はアナログ派?

一方、ハイスピードでの走行を可能にしたスーパーカーたち、たとえばフェラーリやランボルギーニなどは、ステアリングホイール内にボタンやスイッチ、レバーを配置することで、手を離すことなく一瞬で走行に関した各操作が行えるようになっている。そして画面には操作を反映した情報やナビが表示されるという使い分けが明確になされているのだ。

レースの世界も同様で、先ごろ日本で開催された「フォーミュラE」や鈴鹿の「F1」で見ることができたマシンのコックピット内のステアリングには、マニュアル式のカラフルなスイッチやボタン、ダイヤルが所狭しと取り付けられていて、そのセンターに表示画面がある、という構成になっていた。一瞬を争う操作には、アナログ式に敵うものがない、という証拠だろう。ユーロNCAPの提言にもうなづけるというものだ。

自動運転などのファクトが盛り込まれてくる今後のクルマの操作系は今後、どのような形に変化していくのか、興味は尽きない。

※その他のコクピット写真は各画像をクリック、または【記事の画像ギャラリーを見る】よりご覧いただけます。(全30枚)

フェラーリ「SF90XXストラダーレ」のステアリング。走行面に関しては手を離すことなくほとんどの操作が可能になっている。ウインカー操作は左右の親指で行う。

フォーミュラEのステアリング。BEVのレーシングカーとはいえ、アナログのスイッチやボタン、ダイヤルを採用している。写真はGEN2時代の日産のものだ。

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