新時代の仕事「ロボット管制」ってなに? どんな業務なのか、NTT Comを取材した!
少子高齢化の影響で、今後さらに労働者不足が加速する日本にとって、AIやロボットは欠かせない存在だ。“AIやロボットに仕事を奪われる”と思う人もいるかもしれないが、その裏で人がロボットを管理するという新しい仕事も誕生しているのだ。
目次
ロボット管制ってどんなイメージ?
日本で少子高齢化が急速に進むなか、物流・運送業においても労働者の人手不足が深刻化しつつある。このような問題を解消する手段のひとつとして、今後は AIやロボットが人に代わって運搬業務を行うようになるだろう。
物流・ロジスティクスの分野においては、ロボットの自動運転は前々から実用化されている。例えば、私たちにとって身近な存在である“通販”では、ロボットが倉庫内で注文が入った商品をピッキングしたり、自動配送させている企業が存在する。なぜこの分野で自動配送の普及が進むのかというと、公道と違い、敷地内では人が立ち入らない場所や、ロボットが効率よく動ける環境を用意しやすく、運用へのハードルが低くなるためだ。
遠隔操作型小型車での無人サービスが解禁
ただし、これが公道となると話は変わる。たしかに、公道でEVミニカーやEVバスなどを用いた自動運転の実証実験は全国で実施されているが、安全性の確保や法の整備が追いついていない。そのため、これらのモビリティが公道で無人の自動運転をすることは、現在でもハードルが高い。
だが2023年4月に施行された改正道路交通法により、「遠隔操作型小型車※」であれば、遠隔でもオペレーターを配置することで、無人でサービスを提供することが可能となった。
(※遠隔操作型小型車とは、人または物を運送するための小型車のうち、遠隔操作により通行させることができるものであり、車体の大きさや構造が他の歩行者の通行を妨げないものを指す。また、遠隔操作により道路を通行するときは、歩行者としての通行方法に従う必要がある。)
そこで、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は、ロボットを導入する企業に対し、業務環境および体制を整備し、ロボットの運用業務を一元で請け負うサービス「RobiCo(ロビコ)」の提供を2023年10月から開始している。
今回、筆者はロボットによる無人配達の実証実験現場に同行。その後、遠隔からロボットを監視している様子を見学させていただいた。
ちなみに、ロボット管制という言葉はNTT Comが“航空交通管制”の様子からヒントを得て、こう呼び始めたそうだ。“ロボットの監視”、“自動運転見守り”、“遠隔オペレーター”といった言葉を思い浮かべれば、なんとなくロボット管制という仕事を連想できるのではないだろうか。
ロボットの無人配達に、道行く人も興味津々!
デリロを使った実証実験とは?
では、実証実験の内容を説明しよう。まず、一般の顧客からフードデリバリーの注文が入ると、あらかじめプログラミングされた巡行ルート上を、ZMP社※の無人宅配ロボ「DeliRo(デリロ)」が、時速4kmで歩道を進み始める。そうして最初の目的地である飲食店で配達物を受け取り、次の指定場所まで移動して、注文した人のもとに届ける、というものだ。
※ZMP社は東京に本社を構えるロボットベンチャー企業
配達中は、1名以上のスタッフがデリロに同行し、遠くの管制室にいるオペレーターと連携しながら、デリロがしっかりとルート上を安全に移動できているかを監視する。
配達物は、スマホアプリからQRコードをデリロに読み取らせることで、収納棚のロックを解除し、デリロに預けられる。注文した人も同様に、QRコードをデリロに読み取らせることで、商品を受け取れるという仕組みだ。
無人配達での課題とは?
筆者が同行した配達では、予定時刻より余裕をもって目的地に到着し、しっかりと商品を受け取り、注文した人のもとに届けていた。しかしこの間に、いくつかの課題についても説明してもらった。
例えば、自動走行する配達ロボットの珍しさからか、子どもや外国人観光客に囲まれて、デリロが身動きできなくなる瞬間があった。また、電波が弱い場所では映像を管制室に送信できず、手動で移動せざるを得ない場面があった。
他にも、現場を案内していただいたNTT Comの田代さんからは、「ロボット管制というサービスをマネタイズしていくうえで、どう収益化させていくかも大きな課題です。例えば今回も、単純な配達の対価だけではコストに見合わないため、配達とラッピング広告を組み合わせる工夫をしています」という事情も教えていただいた。
同行者がいない状態でどれだけイレギュラーに対応できるか、そして、このロボット配達で人間と同等以上の成果を出すための、複数台の同時運用など、さらなる工夫が必要だという。
イメージ通り? 管制室はやっぱりモニターだらけ!
ロボット配達現場の次は、遠隔で管制する様子を見学させていただいた。ここでは、配達の様子をモニター越しに確認し、予定通りタスクが進行しているか確認することが主な業務となる。
注目すべきは、横に並んでいる2台のモニター画面だ。片方は、メーカーが用意したシステム画面で、ロボットのカメラ情報やGPS等をリアルタイムで確認できる。そして、もう一方には地図とロボットの現在地が映し出されており、こちらがNTT Comが開発したシステム画面となる。
RobiCoのサービスに含まれる機能に、メーカーやロボットの機種に依存せず、ひとつの画面で複数台のロボットを一括管理できるシステムがあり、これを「Robility management system(以下、RMS)」という。
RMSがないと、複数台の同時運用はかなり大変?
今回の実証実験では、配達ロボットは1台のみの稼動だ。しかし、前述したとおり、ひとり1台の管制では、人間が実際に配達するよりも効率が悪くなる。そのため、将来的には一人4台以上の管制が現実的なラインとなるという。
しかし、複数同時にモニタリングする場合、1台ずつそれぞれのモニター画面で状況を把握するのは困難となるため、これらを一括で管理するのがRMSの役割というわけだ。
ロボット管制業務は誰でもできるの?
管制業務には二名のスタッフが配置され、一人が無線を使って現場でロボットの同行者と細かく連絡を取り、もう一人はRMSから配信された情報を元に運行計画の確定をしていた。
筆者は、見学するまでは管制室側はもっと余裕のあるイメージで、現場でなにか動きがあれば対応する、という姿を想像していた。しかし、一台のロボットだけでも、通行者回避、信号横断、待機中の周辺警戒など、現地スタッフと常に会話をしていた。実証実験中は、毎日5回ずつ配達を実施していたそうだが、ロボットの運用中は集中力が問われそうだ。
オペレーター業務を担当している成田さんも、「これが管制するロボットが4台、10台……と増えていけば、かなり大変かもしれません。ちょっと想像できないですね」とコメントしていた。
ロボット管制のオペレーターに関する要件には特に規定はなく、民間資格などメーカーの自主規制によるものとなる。ただし、筆者から見てもPC操作に慣れた人の方が職務に適しているように思えた。
ロボット管制が身近な仕事になる日は来るのか?
まだまだ課題は多いと思うが、「ロボット管制」という仕事は、今後はコンビニやスーパー、宅配業、バス・観光地の周遊モビリティといったシーンでも必要とされ、私たちにとって身近な存在となるだろう。
直近では、Uber Eatsも今年の3月6日から自動走行ロボットによるフードデリバリーサービスを都内の一部で開始した。このサービスも当然、ロボット管制をしている人間が裏側にいる。
ロボット管制という仕事は、今はまだ黎明期であるため、ビジネスとして成立する姿を想像するのは難しいかもしれない。だが、世間に認知されていけば、大手企業だけでなく、個人事業や副業としてこの仕事に就く人も出てくるだろうと筆者は感じている。
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