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最終更新日:2024.03.29 公開日:2024.03.28

なぜLUUPはここまで普及した? その理由を取材で訊いてきた!【次世代モビリティ最前線! Vol.2】

自動車ライター大音安弘が、今みんなが気になる次世代モビリティの開発背景やモビリティの魅力に迫る連載。第2回目は、Luup社の「電動キックボード」を紹介する。ところで、Luupは電動キックボードメーカーじゃないって知ってた?

文=大音安弘

写真=KURU KURA編集部

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Luup誕生のきっかけは、介護士の交通インフラ不足?

2023年7月1日に施行された改正道路交通法により、特定小型原動機付自転車に属する短距離モビリティの活躍が拡大している。その普及を後押ししているのが、電動キックボードのシェアリングサービスだ。今回は、緑と白のコントラストが印象的な電動キックボードを扱ったサービス「LUUP(ループ)」(以下、Luupは社名、LUUPはサービス名として表記)を紹介する。

Luupは、2018年に創業したスタートアップ企業だ。電動キックボードのシェアリングサービスのイメージが強いが、サービスそのものは、2020年5月から電動アシスト自転車よりスタート。2021年4月より電動キックボードを導入している。同社のシェアリングサービスの狙いは、「街じゅうの“駅前化”」だ。

一見、交通インフラが充実している都市圏でも、アクセスの悪いエリアは存在する。そこでLUUPの駅となる「ポート」を多く設置し、その間を短距離モビリティで結ぶようインフラを整備することで、街中に生まれる移動の不便さを解消しようとしているのだ。

そもそもLuup誕生のきっかけは、創業者である岡井大輝さんの祖母が、介護が必要な状態であったことからだった。そこで介護士不足の現状を知り、要介護者と様々な事情でフルタイムではなく、スポット的に働きたい介護士をマッチングするサービスの構築を目指していたが、その介護士自身の移動に適した交通インフラがないことで事業化を断念。今後の人口減少での影響が懸念させる日本の交通インフラ課題に立ち向かう「電動マイクロモビリィのシェアリング事業」の立ち上げへと繋がった。だからこそ、Luupは「電動・小型・一人乗り」という手軽な個人向けのモビリティを提供しているのだ。

短距離モビリティのシェアリングサービスを提供する「Luup」の電動キックボード。使用される車両は、Luupとパートナー工場が共同開発した専用品だ。写真提供=Luup

電動キックボードを主体としている理由は、その利便性が評価され、先進国でのルール整備と普及が進んでいることが大きいとする。ただ日本では電動キックボードが原動機付自転車に分類されたため、その交通法規が公道走行に最適とはいえない現実があった。そこでキックボードに適した法整備が必要と考え、まずはシェアサービス事業を電動アシスト自転車から開始。それと並行し、電動キックボードに適した法制化の策定と施行に向けて、政府への働きかけを一本化。

具体的な動きとして、マイクロモビリィの普及の環境作りの為に、2019年5月に、同業他社と共に「マイクロモビリティ推進協議会」を立ち上げ、電動キックボードに関わる企業が協力することで、政府への働きを一本化。さらに法制化の検討に必要なデータの収集を目的に、2019年6月より私有地での実証実験を開始。私有地での実証実験の結果を基に、新規事業特例制度を用いて、2020年10月~2021年3月までの原動機付自転車扱いとした公道での実証実験、2021年4月~2023年6月までの小型特殊自動車扱いの公道での実証実験を実現させた。

それを一部参考に法制化されたのが、最高速度20km/h以下となる特定小型原動機付自転車と最高速度6km/h以下となる特例特定小型原動機付自転車という車両区分なのだ。

電動キックボードのイメージが強いLUUPだが、電動アシスト自転車の提供も行っている。料金やアプリ操作などのシステムは共通だ。写真提供=Luup

Luupが考える未来の電動マイクロモビリティのイメージ。将来は、より幅広い地域で、高齢者を含めた幅広い世代の人々に自由な移動を提供するモビリティサービスを目指し、研究開発にも取り組んでいる。写真提供=Luup

Luupのシェアサービスが普及した理由とは?

LUUPの利用は専用アプリで行う。ポイントは、利用前に、出発地と目的地となるポートを決めることだ。まずアプリ上で、出発地となるポートにある利用可能な車両を選ぶ。移動中の電欠を防ぐべく、バッテリー残量が少ないものは貸出されないようになっている。ちなみに、充電はポートでは行わず、巡回スタッフが、充電済みのバッテリーと交換することで対応しているとのこと。

出発ポートでは、予約車両に備わる識別用QRコードを専用アプリでスキャンし、利用者の認証を行う。その際に、駐輪場所を確保するために目的地となるポートを決定した後、利用する。これにより、ポートでの駐輪台数を固定することができ、さらに車両の偏りが発生しない工夫となっている。目的地のポートでは、枠内に駐輪した車両を撮影し、車両のGPSの位置情報と画像の送信で、返却を確認した後、アプリ上で決済が行われるようになっている。これもポートの環境と車両の維持管理のための秘訣だ。

レンタルは、全て専用アプリで行う。車両の認識と返却作業にはQRコードと写真による画像認識などのスマホのカメラ機能も活用することで、完全無人のサービスを実現。

貸出時にアプリ上で交通ルールの説明と、その順守を承諾させることで、安全なモビリティサービスの提供を目指す。

最新の利用料金は、乗りものの種類を問わず、基本料金の1回50円(税込)に加え、時間料金の1分15円(税込)が必要だ。例えば、10分間の利用ならば、200円となる計算だ。さらにヘビーユーザー向けのサブスクプランも用意され、月額980円で、30分ごとに200円で利用することが出来る。サブスク利用者が短時間利用した場合は、通常料金の方を適用することで、利用料を抑える工夫もされている。

また、地域によっては専用料金が適用されることもあるという。価格については、利用者の声やデータ分析などを行うことで、さらなる最適化を図っていきたいとしている。

実際に電動キックボードに試乗して感じたことは?

実際に、LUUPの電動キックボードに乗車してみた。スマートな見た目だが、本体の作りはしっかりしており、それなりの重さはあるが、電動アシスト自転車と同等なので、ポートの出し入れはし易い。また、アプリによる認証後にスタンバイ状態となるので、複雑な操作は不要。ハンドルには自転車同様に、左右に前後ブレーキのレバーが備わる。

加減速は右側のハンドルグリップ根元にあるアクセルレバーを親指で押し下げることでおこなう。スタート時は、キックボード同様に、路面を蹴り、勢いをつけつつ、アクセルレバーで加速。少し速度が上がると、安定した走りを見せてくれた。最初こそ乗り出しがギクシャクしたが、転倒しそうになることはなく、すぐに走り方はマスターできた。停車時はブレーキ操作が必要だが、電動モーターの特性を活かし、アクセルレバーを緩めると減速するので、加減速の調整もし易い。このため、急な減速と停車時以外はブレーキレバーの操作は不要だった。

自転車感覚でUターンも可能で、非常に狭い場所でも降車すれば簡単に方向転換できるので、機動性は高いと感じた。これならば、若者を中心に積極的に短距離移動に使う人が多いことも納得できる。

法規的には、ヘルメット着用は努力義務とされるが、他の車両などの飛び出しによる衝突時には転倒のリスクが高い。自転車やオートバイ同様に、ドライバー自身を守るプロテクション機能はないため、頭の怪我を防ぐためにヘルメットは必須だろう。

走り始めこそ、キックによる漕ぎ出しが必要だが、その後はアクセルレバーだけで加減速が可能。安定感も悪くない。停車時は、自転車同様に前後輪ブレーキをレバーで操作し、停車直前に足を付けばよい。

ちょっとしたスペースに設置できる「ポート」がサービスの核だ!

LUUPシェアサービスの肝となるのは、「ハブとなるポート」の存在で、その設置エリアと数が利便性を大きく左右する。そのため、街中に溶け込みやすいスマートさを重視しているという。ポート設置は、モビリティを安全に駐車できるスペースがあれば問題なし。設置もアイコンとなるグリーンのテープで駐輪スペースを囲うだけ。設置場所を示すのは、小さな立て看板とLUUPのモビリティのみというシンプルさ。車両管理も、車載通信機を用いて遠隔で行うことで、管理に必要な人員を最小化。スタッフが、モビリティと接するのは、基本的にはバッテリー交換とメンテナンス時の回収と配備のみとしている。

最大の課題である交通安全については、利用者のアプリ上での交通ルールテストによる教育に加え、サービス提供を行う地域での安全運転講習会も実施している。もちろん、もしもの事故に備え、対人対物保険にも標準付帯している。

さらに新たな取り組みとして、3月18日にスマートフォン向けナビアプリを提供する「ナビタイムジャパン」と協力し、ナビ機能の試験提供も始めることを発表した。これは目的地となるポートに向かう際、電動キックボードと電動アシスト自転車の走り易い推奨ルートを表示することで、安全な運転をサポートするものだ。

LUUPは、鉄道やバスといった身近な交通インフラよりも、より身近な交通インフラを目指している。このため、人の多い都市部だけでなく、自由な移動手段が求められる観光地でも、その利便性に注目が集まる。都市部のとあるカフェでは、ポートを設置したことで、集客に繋がった例もあるという。将来的にLUUPのポートを設けた公共施設や集合住宅、地域の価値を高めることに繋がればと意気込みを見せる。

そして、次なる課題として、電動キックボードではカバーできない高齢者や障碍者でも使いやすいモビリティの提供の実現にも意欲的に取り組んでいくという。まだ現時点では、サービス提供エリアが限定されるLUUPだが、そのシステム自体は場所を選ばないものなので、提供車両を含め、地域に適したカスタマイズを施せば、最も身近な交通インフラとして成長していくだろう。今後の課題は、他社を含めた電動キックボードの普及が高まった場合、道路交通にいかなる影響を与えるかだろう。その取り組みは、まだ始まったばかりだ。

街中に設置されるLUUPのポート。看板と緑のテープだけの簡単な作りだが、これも様々な環境下で簡単に設置するための工夫。駐車台数は、アプリでコントロールしているため、ステーションの上限を超えた駐輪はできないように工夫される。

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