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最終更新日:2021.12.27 公開日:2021.12.27

急速に進む軽自動車の先進安全機能。その現状に迫る!

ドライバーの高齢化にともない、それまで小型車や普通車に乗っていた人が軽自動車に乗り換える "ダウンサイザー" が増加している。かつて車体のコンパクトさゆえに衝突時などに不安があるクルマとされていた軽自動車の近年の先進安全機能の変化について、モータージャーナリストの会田 肇氏が解説する。

文・写真=会田 肇

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安全性の向上で変わってきた軽自動車のイメージ

クルマの安全機能イメージ © metamorworks – stock.adobe.com

 ドライバーの高齢化にともない、それまで小型車や普通車に乗っていた人が軽自動車に乗り換える、いわゆる “ダウンサイザー” が増えている。その要因には軽自動車ならではのコンパクトな車体サイズや機能性アップなどが考えられるが、見逃せないのがクルマとしての安全性が小型車や普通車並みに向上していることだ。かつて軽自動車といえばコンパクトな車体サイズが衝突時の不安材料として挙げられていたが、その状況がここ数年で大きく変化しているのだ。

 車両の安全性を公的な立場でチェックしている独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)が実施している自動車アセスメント(JNCAP)では、ここ数年、安全性でAランクを獲得する軽自動車が相次いでいる。これは衝突時の生存空間が確保されていることや、予防安全としてブレーキアシスト系の性能が飛躍的に向上していることが大きい。これらが軽自動車の価格アップにつながったのは事実だが、一方で軽自動車に対するユーザーのイメージを大きく変えることにも貢献したと見ていいだろう。

軽自動車の10年を振り返る調査によると、軽自動車の安全性が向上したと答えた人が全体の96.7%にのぼった。また、約7割の親が自分の子供に対して軽自動車を勧めたいと答えている 出典=N-BOX PR事務局

 ホンダがこのほど発表した「軽自動車の10年を振り返る調査」でもそれを裏付ける結果が出ている。この10年間で軽自動車の安全性が向上したと答えた人が全体の96.7%にものぼったのだ。加えて、もう少しで事故になりそうだった、いわゆる “ヒヤリハット” 経験についても61.8%の人が「ある」と回答し、そのうち24.2%が安全装備で助けられたという。これを受け、約7割の親が自分の子供に対して軽自動車を勧めたいと答えている。もはや軽自動車への信頼性は以前とは比べものにならないほど高まっていると言っていいだろう。

 そうした意味でもダウンサイザーは今後も増えていきそうな状況下にあるのは間違いない。ここからは、その軽自動車の信頼性を高めている先進安全機能について、具体的に解説していきたい。

【衝突被害軽減ブレーキ】

ダイハツ・タントでは、ステレオカメラを使った「スマートアシスト」によってクルマ以外にも歩行者との衝突回避もサポートする 出典=ダイハツ工業株式会社

 これは一般的に “自動ブレーキ” とも呼ばれている装備で、JNCAPでの評価対象となっている装備だ。この中には、アクセルの踏み間違いによる誤発進抑制制御機能も含まれる。2021年11月よりフルモデルチェンジした新車は搭載が義務化されており、そうした背景もあって軽自動車でも基本的には全グレードに標準装備されている。

ダイハツ・タントの例。ペダルを踏み間違えたとき、前方はステレオカメラで、後方は超音波センサーによって急発進を抑制する 出典=ダイハツ工業株式会社

 ポイントはそのセンシングする方法で、今販売されている車両で採用されているのは、カメラ方式、カメラ+ミリ波レーダー方式、カメラ+赤外線レーザー方式の3タイプがある。これらはいずれも前方用として使われるが、後方用としてはバンパー内に埋め込まれた超音波センサーによって制御される。

ダイハツ・タントに搭載されたステレオカメラ。カメラの解像度を上げることで左右の間隔を狭めても高い検知能力を実現したという 

 カメラ方式を採用するのはダイハツとスズキで、いずれも二眼タイプのステレオカメラとしている。カメラの感度を高めることで夜間での検知能力も高めているのが特徴だ。カメラ+ミリ波レーダー方式を採用するのは日産と三菱、ホンダで、カメラは単眼タイプであるものの、夜間でも認識能力が高いミリ波レーダーを組み合わせてトータルでセンシング能力を高めている。

 カメラ+赤外線レーザー方式は、スズキがワゴンRとラパンに採用している。衝突被害軽減ブレーキが普及し始めた当初は赤外線レーザーのみで対応していたが、制御できる速度域が低いことや人などの形状を認識できないことから、今はカメラを併用する方式に置き換わっている。ただ、今後は赤外線レーザーは使われなくなっていくものと予想される。

【アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)】

日産・ルークスのプロパイロットでは、カメラとミリ波レーダーによって先行車を捉え、車間を維持しながら速度を調整して停止まで自動追従する 出典=日産自動車株式会社

 アクセルとブレーキの操作を制御して、先行車との車間を維持しながら自動追従することができる。主に高速道路での使用が基本となるが、ロングドライブでの疲労軽減に役立つ。小型車や普通車を中心に普及してきたこの機能だが、最近では軽自動車でも急速に普及が進んでいる。

日産・デイズのプロパイロットが作動している時のメーター内の表示。ステアリング制御を行いながら先行車に追従している状況を示している

 センシングにはカメラやミリ波レーダーが使われ、車種によっては車線のはみ出しを警報だけでなく、車線中央を走行するようにステアリング制御までサポートする車線逸脱防止支援機能を備える車種も増えてきた。

ホンダ・N-WGNに搭載された電動パーキングブレーキのスイッチ。ACCによって自動停止した後もこの機能によって停止状態は維持される

 ACCで見逃せないのが、組み合わせるパーキングブレーキの仕様だ。これまで軽自動車のパーキングブレーキは足踏み式や手動式の「機械式」がほとんどだったが、最近ではこれを「電動式」とするクルマが増えてきた。これはACCの機能を左右する極めて大きなポイントとなる。というのも、機械式の場合は、たとえACCが全車速域に対応して一旦は停止まで制御しても、数秒後にはアラームを発してその状態をリリースしてしまうからだ。一方で電動式では停止後もその状態がホールドされ、クルマは動き出さない。

ダイハツ・タントでは、車線をセンシングしながら中央部を走行するようステアリングを制御するレーンキーピング機能が搭載されている 出典=ダイハツ工業株式会社

 電動式パーキングブレーキは小型車や普通車でも上級車を中心に搭載されてきた機能だったが、日産と三菱が採用して以降、搭載はホンダやダイハツにまで広がっている。特にホンダの場合、社内規定で機械式の組み合わせではACCを全車速対応にしないとし、N-BOXがようやく電動式となってACCの全車速対応としたのもこの規定があったからだ。一方でスズキ(&OEMのマツダ)には今のところ、電動式を採用する車種は用意がない。

【SOSコール】

日産・デイズに搭載されたSOSコールのスイッチ。このカバーを開いて中のボタンを押すとオペレーターと通話ができる

 事故など緊急事態が発生した際にオペレーターセンターへ接続し、救援を依頼できるサービス。救援依頼は自らが専用ボタンを押して呼ぶ方法と、エアバッグと連動して自動通報する2つの方法がある。通報には車両側のGPSによって得た位置情報が同時に送信されるため、センター側では通報位置が把握できるようになっている。

 通報があるとオペレーターは、電話回線によってドライバーへの呼びかけを行い、応答があった場合には必要な救援方法について相談を受ける。もし応答がない場合は、緊急事態が発生していると判断して取得した位置情報を基に警察や消防、救急などの手配を行う。

日産デイズのSPSコールの作動イメージ図。ボタンを押してオペレータと通話できるほか、エアバッグが作動した際は自動的に接続される機能も装備する 出典=日産自動車株式会社

 SOSコール用ボタンを車内に設置しているのは日産とスズキで、ダイハツはダイハツコネクトに対応したカーナビの画面上にSOSコール用ボタンを表示させて対応する。いずれも設定車のみの装備とはなるが、エアバッグとの連動も実現している。ホンダは今のところ専用機能は搭載せず、スマホアプリ経由でオペレーターにつなぐサービスにとどまっている。

【ヘッドアップディスプレイ(HUD)】

走行中の車両情報をフロントガラスに直接映し出すスペーシアの例。ガラス面よりも先に投影するように見えるため、焦点が合わせやすい 出典=スズキ株式会社

 前方の視野内に速度をはじめとする車両情報を表示する装置のこと。運転中にメーターなどに視線移動することなく情報が得られるため、安全運転支援として極めて有効な装備となっている。特に年齢が高くなってくると焦点を合わせにくくなるため、前方からメーター内を視認するまでにわずかながら時間がかかる傾向にあり、この意味でもヘッドアップディスプレイは高齢者に優しい装備といえるのだ。ただ、この装備は小型車や普通車でも上級車にのみ搭載されてきたものでもあり、少し前まで軽自動車への搭載など考えられなかった。

ダッシュボード上に立ち上げたコンバイナー(透明の樹脂板)に車両情報を投影する新型アルトの例。フロントガラス面より手前だが、それでも焦点は合わせやすい 出典=スズキ株式会社

 そうした中でこの装置の搭載を積極的に進めているのがスズキだ。現行ワゴンRにコンバイナー(ダッシュボード上から起き上がる透明の樹脂板)を立てて車両情報を映し出すヘッドアップディスプレイを軽自動車で初めて搭載したのだ。さらにその次に登場したスペーシアでは、このモノクロ表示をカラー化し、その上で、これまた軽自動車として初めてフロントガラスへ直接投影するタイプとした。これによって表示がフロントウインドウよりも先に映し出したように見えるようになり、焦点が一段と合わせやすくなったのだ。

 その後はワゴンRスマイルや新型アルトにもコンバイナー方式で搭載。スズキ以外にこれを採用するのは、スズキよりOEMを受けているマツダのみで、それ以外では今のところ軽自動車で採用例はない。

【ブラインドスポットモニター(BSM)】

ダイハツ・タント用に後付けできるブラインドスポットモニター。インジケーターはAピラーに取り付けられ、車両が近づくとはオレンジ色に点灯して知らせる

 近距離用ミリ波レーダーを使い、左右隣車線の斜め後方にいる車両を検知する機能で、車線移動の際には安全運転支援として役立つ。実はこの機能も小型車や普通車には多く搭載されてきたが、軽自動車にはこれまで採用されてこなかった。そんな中、ダイハツは昨年12月に現行タント向けに後付けできる純正キットを発売した。

ダイハツ・タントのブラインドスポットモニターのインジケーター部

 センサーはリアバンパーの左右サイド内に取り付けられ、そのインジケーターは左右のAピラーに設置される。隣車線で車両が近づいて来るとこのモニターがオレンジ色に光り、このタイミングでその方向へウインカーを出すと「ピピピ…!」と断続音で警告する。また、このBSMは、ギアをリバースに入れている時に左右後方から車両が近づいて来ると両側のインジケーターが点滅しながら「ピピピ…!」と音でも警告を発する。これは、頭から入れて駐車した場所からバックして出ようとするときに役立つ。

 さらに、停車中にエンジンがONのままでパーキングブレーキをかけた状態で、後続車が来ているのにドアを開けた場合でも、同様に警告音が鳴る。うっかりドアを空けた際の警告機能として、有効性は極めて高いといえるだろう。

ホンダが純正ナビゲーションと連携して隣接する車線で近づいて来る車両を知らせる「カメラdeあんしんプラス2」※現在は “3” へ進化している

 これとは別にホンダは、バックカメラをセンサーとして活用してBSMに近い機能を備えた「カメラdeあんしんプラス3」を後付けできる純正システムとして発売している。インジケータはカーナビの画面上で表示するが、警告表示が出ているときにウインカーを出すとアラームを鳴らすのもBSMと同じだ。

 ここまで軽自動車の先進安全機能について解説してきた。自動車全体の約4割が軽自動車が占めるようになった今、軽自動車は日本の自動車の立ち位置を左右する重要な役割を持つまでになった。その意味でも軽自動車において、この先進安全機能による事故抑制・防止は重要な意味を持つ。

 2022年は日産が初の “軽EV” を予定しており、本格的な軽自動車の電動化元年となりそうだ。それにともなって、新たな先進安全機能が搭載される可能性もある。そんな軽自動車の動向には、今後も目を離せそうにない。

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