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最終更新日:2023.06.14 公開日:2023.04.28

『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第38回 波乱のアニヴァーサリー! 旧車ショー「アウトモトレトロ」【動画編】

イタリア・シエナ在住のコラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情についてアレコレ語る人気連載。第38回はイタリアの名物ヒストリックカー・イベント「アウトモトレトロ」について。

文と写真=大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)

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アウトモトレトロ2023の会場で。「(フィアット)X1/9クラブ・イタリア」のブース。車両は1983年モデル。

苦渋の決断

イタリアで開催されているヒストリックカー・ショーのひとつに「アウトモトレトロ」がある。第1回は1983年で、長きにわたりトリノの旧フィアット工場棟を再開発したリンゴットのメッセ会場で行われてきた。2月開催であることから、地元自動車ファンの間では、トリノ・モーターショーが2009年をもって消えたあと、新年の挨拶会的なイベントであった。近年は約1200の出展者、約6万7千人の入場者で賑わっていた。

創立者兼オーガナイザーは、ベッペ・ジャノーリオ氏。生粋のクルマ好きが高じ、自動車関連のイベント&オーガナイズ会社を立ち上げてしまった。普段は、映画やテレビの劇用車を時代考証にしたがってコーディネートする仕事を手掛けている。いっぽうで休日はジェントルマン・ドライバーとしてヒストリックカー・ラリーで1971年ポルシェ911″ナロー”を駆る。近年は、一人息子のアルベルト氏が心強い右腕として彼を補佐している。著名イベントでありながら、家族経営であるところがイタリアらしい。

お察しのとおり、新型コロナウィルスの影響を受けて2021年は中止。2022年も時期を後倒しし、かつ一部規制が残るなかでの変則開催を強いられた。

2023年は久々の通常開催、かつ記念すべき第40回となるはずだった。ところが準備を進めていた彼らに2022年暮れ、突如危機が襲った。メッセ運営会社から会場費の改定を通告されたのだ。ジャノーリオ親子に近い常連出展者によると、言い渡された値上げ額は30万ユーロ(約4280万円)だったという。まさに晴天の霹靂だった。そうしたなか親子が選んだ代替地は、トリノから東に240キロメートル離れたパルマだった。

パルマは、トリノと並びイタリア自動車産業を支えるエミリア-ロマーニャ地方にある。加えて、毎年9月には本欄第32回および第33回で紹介したキャンピングカー・ショーの開催地としても知られている。ベッペ氏は「そこで毎年開かれる骨董品市のオーガナイザーと知己だったのが縁でした」と説明する。骨董品市と期間を合わせ、入場券も共通とすることで相乗効果を狙うことにした。

しかしながら、従来のアウトモトレトロ出展者の多くは、トリノを本拠とする店やクラブが中心だった。そのためベッペ氏は「毎日のように、常連出展者たちに電話で参加を呼びかけ続けました。クリスマスも正月もありませんでした」と筆者に振り返る。当然ながら、前述の911も、もう1台所有している愛車BMW Z3も楽しむ暇がなかったという。

第40回を迎えたアウトモトレトロは、初めてパルマで開催された。

オーガナイザーのベッペ・ジャノーリオ氏(右)。子息アルベルト氏のパートナーであるカルロッタさん(左)も手伝う。

名オーガナイザーの苦労、実る

筆者が会場を訪れたのは、一般公開日の3月4日・5日に先立つ関係者公開日だった。恐る恐る館内を覗いてみる。すると本欄でもたびたび紹介したイタリア自動車クラブ(ACI)といったこの国における主要団体のほか、国家警察交通警ら隊の地元パルマ部隊もブースを繰り広げていた。さらに、「フィアット・クラブ」「(フィアット)X1/9クラブ・イタリア」「ジャガー・クラブ」といった、長年の愛好団体も、数多くやって来ているではないか。ベッペ氏の年末年始の苦労と長年にわたって築いた人脈が実を結んだことは明らかだ。

フィアット・クラブの展示。左は1966-68年のテレビシリーズ「バットマン」の劇中車「バットモビル(複製)」。ベースとなったクライスラーが今日フィアットと同じ企業グループという解釈でのチョイスだろう。右隣は「フィアット・アバルト850クーペ・ストラダーレ・ザガート」。

イタリア警察交通警ら隊のパルマ部隊も参加。歴代車両とともに「ランボルギーニ・ウラカンLP610-4」も展示した。

 いっぽうで初出展の店も数々見られた。中古車店「スターカー」もそのひとつだ。販売責任者のフィリッポ氏は説明する。「長年、アウトモトレトロのオーガナイザーを知っていたんだ。でも、私たちの店があるフィレンツェからトリノは、あまりに遠かった。いっぽう今回は、より近いパルマなので初出展を決意したんだよ」。参考までに、出展料は館内・屋外合わせて約2千ユーロ(約30万円)だったという。

普段、彼らの店は新車販売がメインで、今回の展示車はいずれも下取り車として集まったものだ。「ヤングタイマー」と呼ばれる比較的古くない趣味車の市場は好調という。理由は「例の2035年問題だ」とフィリッポ氏は指摘する。エンジン車の新車販売を禁止するとした2022年の欧州連合(EU)による決定である(追記:2023年3月25日、合成燃料を用いるエンジン車は認めると修正された)。

それは昨今、一般ユーザーが古いクルマを手放す、ひとつの動機になっている。そうして放出されたなかには面白い車種もあるため、愛好家にとってはチャンスという。「昔の匂いがするクルマが、今なら納得価格で手に入れられるのです。そうしたモデルの多くは、車庫の小さな隙間に収められるうえ、普段使いもできます。30年物以上なら税金が安い(注:イタリアでは製造後30年が経過し、一定条件を満たした車両は優遇税制の対象となる)のも魅力です」

実際の人気車種とは?

具体的には、どういったクルマが人気なのか?

「50代以上のイタリア人にとっては、ルノー・クリオ・ウィリアムス、プジョー205、ランチア・デルタといった、彼らが20代のときに憧れたモデルです。それらを今ならリーズナブルな価格で買える、もしくは再度手に入れられるのです。ポルシェといった高級モデルを購入できない人にもうってつけです」

初出展したフィレンツェのショップ「スターカー」のスタッフたち。一番右が責任者のフィリッポ氏。1978年「シムカ1005」は7900ユーロ(約112万円)。

 それらのクラブ・団体そして中古車ショップとは別に、会期中には「ヴァンネネス」「モーターヴァレー」両社によるオークションも初めて行われ、大きな話題となった。トリノ時代のスケールをふたたび獲得すべく、ジャノーリオ親子は「2024年も、ここパルマで規模を拡大して開きます」と筆者に力強く宣言してくれた。かくしてイタリアの名物ヒストリックカー・イベントは新たなスタートを切った。

ベッペ氏の子息アルベルト氏。同時開催のチューニングカー・ショー「アウトモトレーシング」を主に統括する。

フィアットの6人乗りマルチパーパスカー「ムルティプラ」をベースに過激なチューニングを施した結果。

会期中に開かれたヴァンネネス社のオークション出展車両から。手前は名門カロッツェリア「ベルトーネ」が「ダイハツ・フェローザ」をベースに製作した1994年「フリークライマー2」。エンジンはBMW製である。

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