吉田 匠の『スポーツ&クラシックカー研究所』Vol.16 アルピーヌA110という名のフランス製スポーツカー(後編)
モータージャーナリストの吉田 匠が、古今東西のスポーツカーとクラシックカーについて解説する人気連載コラム。第9回目はフランス製スポーツカーの「アルピーヌA110」を大特集。今回は現代に蘇った2代目A110のインプレッションをお届けしよう。
2台のA110を乗り比べ
新生アルピーヌA110の多彩なバリエーションのなかから、今回はA110 GTと、前後に大型のスポイラーを装備したA110 S Ascentionの2台を、箱根のワインディングロードに走らせた。
最初に乗ったのはGTだったが、外観では繊細なデザインの19インチホイールが目につくのに加えて、ダークブラウンのレザー張りシートなど、コクピットにスポーティななかにもラグジャリーな雰囲気がそこはかとなく加わっているのが目につく。
その、身体をしっかりとホールドするレザー張りのシートに収まってエンジンを目覚めさせると、背中の後ろで1.8リッター4気筒ターボが軽く吠えた。コンソールのDボタンを押した後、ステアリングコラムに備わる大きなパドルを操作して7段DCTを1速に入れて少しだけスロットルを踏み込むと、A110 GTは軽快に走り出した。
A110 GTは300ps仕様のエンジンを搭載する一方で、その名のとおり長距離を高速で快適に移動するためのモデルだから、ノーマルA110と同じ標準仕様のサスペンションを備えている。したがって、充分に強力な加速と、いかにも軽量なミドエンジンスポーツカーらしい軽快な身のこなしを披露しながらも、その乗り心地に硬さや粗さはなく、路面の凹凸をスムーズに吸収して高性能スポーツカーらしからぬ快適さを維持したまま、箱根のワインディングを駆け抜けていく。
実をいうと今から45年前の1977年、僕が初めて初代アルピーヌA110の1600SIというモデルに乗ったときも、その俊敏なコーナリングと同時に、乗り心地が信じられないほど快適なことに驚かされたのだった。
絶妙な乗り味の違い
続いて今度は、前後に派手なスポイラーを備えるA110 S Ascentionに乗り移る。パワートレーンはGTと同じだが、サスペンションはS仕様に固められ、しかも試乗車はハイグリップタイヤを履いていたから、走り出すと同時にその硬派ぶりがストレートに実感できた。
乗り心地はGTより明らかに硬めで、しかも路面の継ぎ目などを超える際にはハイグリップタイヤからの硬質なショックがボディやステアリングに伝わってくる。だがその代わり、コーナリングの感触は一段とタイトなもので、公道のワインディングだけでなく、サーキットに持ち込んで走ってみたくなる雰囲気に満ちていた。
同じA110をベースに、これだけ乗り味の違うモデルを生み出すというのも、ロードカーにもレースカーにも精通した、アルピーヌの開発陣ならではの仕事ぶりだといえる。
したがってA110は、幅広いユーザーの好みに応え得る多彩なバリエーションを持つ強みを発揮しつつあるといえるが、その一方で252psエンジンとノーマルのソフトでしなやかなサスペンションを備える標準型A110が、実は普段の足にもスポーツドライビングにも向いたすこぶるバランスのいいモデルであることを、最後にあらためて書いておきたい。