2022年10月17日 22:30 掲載
旧車
吉田 匠の
『スポーツ&クラシックカー研究所』Vol.9
アルピーヌA110という名のフランス製スポーツカー(前編)
モータージャーナリストの吉田 匠が、古今東西のスポーツカーとクラシックカーについて解説する人気連載コラム。第9回目はフランス製スポーツカーの「アルピーヌA110」を大特集。3回に分けてお届けする。初回はA110のヒストリーを振り返る。
ジャン・レデレという男
1960年代半ばのルマン用レースカーをバックに語る、40代のジャン・レデレ。
スポーツカーの生産国というと、イタリアやイギリスやドイツ、それに日本を思い出すが、実はフランスにも素晴らしいスポーツカーが存在する。ルノー傘下のアルピーヌが生み出すA110というクルマだ。全長4.2mほどの比較的小柄なボディのミドシップに1.8リッター4気筒ターボエンジンを横置きして後輪を駆動する、英語流に言うとミドエンジン方式のレイアウトを持った、本格的なスポーツカーだ。
フランス大西洋岸の港町ディエップ、そこにあったルノーディーラーの息子に生まれたジャン・レデレという男が、アルピーヌの生みの親だ。レデレは自動車屋の息子に相応しくクルマ好きに育ち、第二次大戦直後のルノーの主力モデル、750ccリアエンジンの4CVという小さな4ドアセダンに乗ってレースやラリーに参戦していたが、やがて彼はある閃きを得る。このルノー4CVに軽くて低く空力的なボディを組み合わせれば、理想的な小型スポーツカーが誕生する、と。
しかもその頃ルノー4CVには、エンジンをハイパワーにチューンし、標準では3段のギアボックスを5段に換えたレース用のベース仕様、「1063」というモデルが存在したから、それをベースに使えば高性能な小型スポーツカーを生み出せる。レデレはそれを実行に移し、1955年秋に初の市販型アルピーヌとして登場させたのが、4CVに軽量で背の低いプラスチック樹脂=FRP製のボディを組み合わせた2座クーペ、A106だった。
アルピーヌとして市販する前のプロトタイプの1台がレース中。
1955年秋にパリで華々しくデビューした初の市販型アルピーヌ、A106。
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