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最終更新日:2022.10.12 公開日:2022.10.12

MaaSと地方交通の親和性。人の移動はどう変わるのか。連載|森口将之の「あたらしい交通様式」vol.01

自動運転やMaaS(マース)の登場など、日々進化を続けるモビリティ。人の移動を大きく変える交通インフラのこれからについて、モビリティジャーナリストの森口将之が語る新連載がスタート。第1回はMaaSについて。

文=森口将之

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公共交通が抱える課題

(c)beeboys – stock.adobe.com

 新型コロナウイルス感染症は、移動のあらゆる部分に影響を与えた。感染防止の観点から、自転車や二輪車を利用する人が増えた一方、公共交通は大きな打撃を受けた。

 なかでも地方の鉄道やバスは以前から、人口減少とマイカー普及の影響を受けて厳しい状況にあったところに、コロナ禍が追い打ちをかけた。想定された危機が10年前倒しでやってきたという声もある。

 その状況は今年、より顕著になった。JR西日本(西日本旅客鉄道)が発表した、ローカル線の課題認識という名目の情報開示は象徴的だ。最近では国土交通省がローカル鉄道のあり方についての提言を発表するなど、この種のニュースが相次いでいる。

 しかし筆者は、必ずしもネガな話題だけではないと思っている。まず注目したいのは、コロナ禍で始まった地方移住の動きだ。

転入超過数の多い上位20市町村(2021年) 画像=総務省

 総務省が発表した2021年の住民基本台帳人口移動報告によれば、東京23区が集計開始以降初めて転出超過となったのに対し、道府県庁所在地以外で転入超過数の多い市町村として、茨城県つくば市や神奈川県藤沢市などが入った。

 加えて運転免許返納者が増加している。警察庁の統計によると、日本の運転免許保有者数は最近まで増え続けてきたが、東京都池袋で高齢ドライバーの暴走事故が起こった2019年から、一転して減りはじめている。

 運転免許を返納した人は、当然ながら公共交通に頼る。高齢者の比率は大都市より地方のほうが高い。つまり厳しい状況にある地方の公共交通に、マイカー移動を続けていた人々が戻る可能性がある。

注目されるMaaS(マース)

フィンランドのMaaSアプリ「Whim(ウィム)」。 画像=MaaS Global

 コロナ禍では観光も大きな影響を受けた。ただし直近では、国内旅行については回復の兆しが出ており、インバウンドも外国人観光客の受け入れ条件などが緩和されつつある。加えて昨今の円安は、日本に住む人にとっては好ましくないかもしれないが、海外からの旅行者には追い風になるだろう。

 とはいえ財政面で新たな公共交通を導入するのは難しく、既存の公共交通を使いやすくするかが大事になる。こうした状況下で、一部の地方が注目しているのがMaaS(※)だ。

 MaaSは北欧フィンランドで生まれた。筆者は2018年に首都ヘルシンキに行き、世界初のMaaSアプリと言える「Whim(ウィム)」を実際に体験する一方、フィンランド運輸通信省、ヘルシンキ市役所、WhimのオペレーターであるMaaS Global社に行き、そこでの体験を書籍「MaaS入門」にまとめた。

 そこでも書いたが、MaaSMaaS GlobalCEOを務めるサンポ・ヒエタネン氏のアイデアが、国や自治体のバックアップを受けて形になったものだ。

 その裏には首都ヘルシンキの再開発があった。交通渋滞による環境悪化が懸念されたのだ。その解決策の1つとして、マイカー移動を減らすためには、公共交通をより使いやすくするとともに、自転車シェアリングなど新しいモビリティサービスとの融合が重要だと考えたのだ。

 その結果生まれたWhimは、公共交通から自転車シェアやレンタカーまで含めたオールインワンであり、経路検索だけでなく決済も可能で、月額制のサブスクメニューまで用意するという画期的な内容だった。

 Whimは首都ヘルシンキを中心とした地域をカバーする、いわば都市型MaaSだ。一方フィンランドには地方型MaaSもあり、代表格と言える「Kyyti(キーティ)」では、公共交通とオンデマンド交通の融合、企業の送迎バスへの一般客の混乗などを実現している。

 ※MaaS(マース):Mobility as a Serviceの略称。複数の公共交通や移動サービスを最適に組み合わせ、検索・予約・決済などを一括で行うことができるサービス。観光や医療など、交通以外のサービスとも連携する。移動の利便性向上だけでなく、人口減少などによる地域の課題解決にも資する可能性があるもの。

日本でも導入されるMaaS

NIKKO MaaS(ニッコーマース)のサービス概要。 画像=東武鉄道株式会社、株式会社JTB

 そして今、日本でも、主に地方でMaaSの導入が目立っている。その中から、筆者が実際に体験した2つの事例を紹介しよう。

 まずは栃木県日光市のNIKKO MaaS(ニッコーマース)。観光客をターゲットにしたいわゆる観光型MaaSの代表格で、地域の鉄道やバスを運行する東武鉄道が導入した。

 まず評価できるのは、昨年10月の導入当初から通年での本格サービスを続けていることだ。日本国内の多くのMaaSが実証実験止まりで期間も限られているという中で、本気を感じる。

 デザインも評価したい。四季を通じて日光に訪れてほしいという気持ちを4色で表し、それぞれにメニューを配したトップ画面は使いやすく、そこから先の操作感も快適。高齢の旅行客に配慮してコンテンツを絞り込んだことも、扱いやすさに結びついている。

「信州こもろ・こま~す」で利用できるEVバス「こもこむ」とアプリのイメージ。 画像=株式会社カクイチ

 もうひとつは筆者が事業会社であるカクイチのアドバイザーを務めている長野県小諸市「信州こもろ・こま〜す」だ。

 今年は実証実験の2年目で、昨年とはアプリを一新。LINE公式アカウントから入る形として、多くの人が気軽に利用できることに配慮した。電動バスや電動カート、オンデマンド交通、しなの鉄道のチケット購入、飲食店/商店の位置やサービス内容などが見られるマップなどを提供している。

 日本の公共交通は欧米とは違い、多くが民間企業の運営で、ひとつの自治体に複数の事業者が存在していることも多いので、すべてのモビリティをシームレスにつなげるというMaaSでは不利である。

 とはいえ地方は大都市に比べれば、交通事業者が少ないので統合しやすいし、第3セクターなど自治体が交通運営に関与しているパターンも多い。日本のMaaSは地方から発展してくのではないかと感じている。

<筆者・森口将之 プロフィール>
1962年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、出版社編集部勤務を経て1993年に独立。モビリティジャーナリストとして国内外の最新事例を取材。2011年にはリサーチやコンサルティング、セミナーなどを担当する株式会社モビリシティも設立。グッドデザイン賞審査委員。著書に「パリ流環境社会への挑戦」「MaaSが地方を変える」など。

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