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最終更新日:2024.01.09 公開日:2022.06.15

車の所有者が死亡したら~名義変更について弁護士に訊いてみた~【クルマと法律vol.01】

交通問題やクルマに関する相談について、法律の見地から分かりやすく解説する新連載「クルマと法律」。今回は、クルマの所有者が亡くなった際の名義変更と遺産分割協議について、弁護士・芳仲美恵子先生に話を聞きました。

文=弁護士・芳仲美恵子

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(c)sasun Bughdaryan – stock.adobe.com

 今回の相談はこちら
「亡くなった親が残したクルマを売却するにはどうすればいいですか? 名義変更は必要ですか? また、すぐにそのクルマを使っても大丈夫ですか?」

クルマの相続には、遺産分割協議と名義変更が必要

相談者:先月、父が亡くなりました。父のクルマはどうしたらよいでしょうか? 母はもう運転をしませんし、私としては売却したいと考えています。しかし、実家の近くに住んでいる妹がセカンドカーとして使うかどうか迷っているようです。

芳仲弁護士:クルマを第三者に売却する場合、まず新所有者の相続人に名義変更してから売却するのが通常です。また、遺族の誰かがクルマを相続して乗り続ける場合も、もちろん名義変更が必要です。いずれにしても、名義変更するために、まず、相続人全員による遺産分割協議を行って下さい。

相談者:遺産分割協議! なんだか仰々しい名前ですね。

芳仲弁護士:遺産分割協議とは、亡くなられた方の遺産について、相続人全員で分割方法について協議し、合意することです。誰が相続人であるかは、民法886条以下で定められており、本件の場合は、お母様(配偶者)とお子さん方ですね。

 遺産分割協議は、遺産の一部についてだけ、つまり、クルマについてだけ行うことも可能ですから、誰がクルマを相続するかを話し合って決めましょう。

 また、遺産分割協議では、クルマの売却を前提としてその代金の分け方を決めることもできます。この場合、遺産分割前の相続財産は相続人全員の共有ですから、未分割のままクルマを売却するのであれば、相続人全員の共有名義とする(複数の相続人が新所有者として登録される)手続きをとるのが本筋です。とはいえ、その方法だと、必要書類が多かったりして手続きの負担が大きいので、実務的には、登録上のクルマの新所有者として相続人を1名決めることが多いのです

 いずれにしても、クルマの新所有者となった相続人は、クルマの登録された運輸支局に必要書類を提出。名義人が自分になるように変更します。

クルマの名義変更に必要な書類は?

遺産分割協議書のイメージ。 画像=国土交通省

相談者:わかりました。まず、相続人全員による遺産分割協議。その後に、名義変更ですね。名義変更の手続きにはどんな書類が必要ですか?

芳仲弁護士:名義変更に必要な書類は、車検証や戸籍謄本などのほか、相続人全員の実印の捺印を要する「遺産分割協議書」の提出が必要です。運輸支局のホームページに自動車専用の遺産分割協議書が掲載されていますので、ダウンロードして利用するといいでしょう。遺産分割協議でクルマを相続しないことになった相続人に、クルマについての「相続分不存在証明書」に署名捺印してもらう方法もありますが、これには印鑑証明書の添付が必要ですから、押印だけですむ遺産分割協議書の方が簡便かと思います。

相談者:遺産分割協議書に全員の捺印を集めるのは面倒そうですね。

芳仲弁護士:遺産分割協議書を出さなくていいケースもあります。もし、車の査定価格が100万円以下の場合は、査定価格を確認できる資料や査定証明書を提出すれば「遺産分割協議書」の代わりに「遺産分割協議成立申立書」で済ますことができます。ただし、「遺産分割協議成立申立書」は、あくまで、遺産分割協議が成立した事実をクルマの新所有者になる相続人ひとりで申し立てられるようにしただけの書類です。遺産分割協議自体が不要になる訳ではありませんので注意しましょう。

相談者:なるほど、査定価格も影響してくるのですね。

芳仲弁護士:他にも、クルマの相続についてお父様が書き遺した遺言書(公正証書遺言や家庭裁判所の検認を受けた自筆の遺言書)があれば、名義変更の手続き上は、遺産分割協議は必ずしも必要ではありません。ただ、一般論として、他の相続人に断りなく手続きすることは争いの種になりがちです。相続全体の問題とも関わってきますので、心配な場合は、弁護士に相談することをお勧めします。 

【相続人の1人が名義変更手続きをする場合の必要書類(一例)】(2022年6月15日現在)
・自動車検査証
・戸籍謄本または戸籍の全部事項証明書(故人と相続人のもの。それぞれ1通ずつ)、あるいは法定相続情報証明書(※)

※法定相続情報証明書は、相続人の申し出によって、登記官(法務局)が、故人と法定相続人全員との関係などを一覧図にして証明してくれる証明書。申し出には、法定相続人を確定するために必要な、故人の出生から死亡までの戸籍謄本や除籍謄本などのほか、それに基づいて作成した相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出することが必要だが、1度証明書が作成されれば、その後のさまざまな相続手続きで戸籍謄本の束を何度も提出する必要がなくなる。

・遺産分割協議書(相続人全員が実印を押印したもの)、または遺産分割協議成立申立書(車の査定価格が100万円以下の場合、査定価格を確認できる資料や査定証明書とともに提出)
・新所有者となる相続人の印鑑登録証明書
・新所有者となる相続人の実印または委任状(代理人による申請の場合に限り必要。新所有者となる相続人の実印を押印したもの)
・車庫証明書

 なお、今後は行政手続きのIT化が進むと思われます。必要書類も変化していきますので、手続きの前に、運輸支局のホームページで確認したり、特殊な事情があるときは電話で確認したりするのがいいと思います。

自動車税や自動車保険の手続きもお忘れなく

(c)KATSU – stock.adobe.com

相談者:ところで、自動車税や自動車保険(自賠責保険・任意保険)なども何かの手続きが必要ですか?

芳仲弁護士:はい。どちらも手続きをする必要があります。

 自動車税は、自動車が登録されている都道府県に納める地方税です。運輸支局は国の機関ですので、登録変更手続と同時に、運輸支局に併設されている都道府県の自動車税事務所に対して、申告区分を「移転登録」、取得原因を「相続」と記載した自動車税申告書を提出しましょう。

 また、自動車税には、さまざまな減免の制度があり(例えばお母様が身体障害者手帳をお持ちである場合など)、新所有者たる相続人がそれらを利用できるかどうかといった点も確認が必要ですので、提出すべき書類は、事前に都道府県税事務所によく確認して下さい。

相談者:わかりました。自動車保険はどうすればいいですか?

芳仲弁護士:自動車保険も書き換えが必要です。任意保険は、年齢限定特約や家族限定特約がついている可能性もありますし、誰が相続するかによって等級の引継ぎの可否や、免許証の色で保険料が変わる可能性もあるので、保険名義の書き換えが終わるまでは、運転を控えた方がいいでしょう。

 まずは保険名義人が死亡したことを保険会社あるいは保険代理店に知らせ、対応を相談してください。遺産分割協議が整いクルマの新所有者が決まった段階で再度、保険会社等に連絡し、必要な手続きをとりましょう。

 一方、自賠責保険は強制保険であり、名義変更しないまま、万が一、事故を起こしても、保険期間内であれば自賠責保険が使えます。そのため、名義の書き換えを怠る例もあるようです。ただ、相続人宛てに自賠責保険契約更新のお知らせが届かないため、保険期間が切れてしまう危険性もあります。自賠責も忘れずに名義書き換えの手続きをしておきましょう。

相談者:なるほど、たとえ自賠責が使えたとしても、任意保険が補償対象外になってしまったら、損害賠償責任をカバーしきれませんね。気を付けます。

芳仲弁護士:クルマは保険料や駐車場代などの費用が日々発生するものですし、長期間放置してから売却すると価値も下がってしまいます。さらに、車検が切れてしまったら動かすこともままなりません。また、万が一、相続がまとまらないうちに事故を起こしてしまうと大変です。できるだけ早めに遺産分割協議を行い。名義変更や自動車税などの手続きを行って下さい。

相談者:わかりました! 早めに手続きをするようにします。

芳仲弁護士:ちなみに、もしクルマが軽自動車の場合には、名義変更等の窓口が運輸支局ではなく、軽自動車検査協会になりますので注意してください。

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