新時代の防災・減災は道路から。激甚化する自然災害に備える取り組みとは。
近年、日本では毎年のように地震や豪雨などの自然災害による甚大な被害が発生。人々の生活や人命に大きな影響を及ぼすだけでなく、堤防の決壊や道路の損壊など、社会インフラにも甚大な被害を生じさせている。今後さらなる激甚化、頻発化も懸念される自然災害から社会インフラを守るため、どのような対策が講じられているのだろうか。
激甚化する地震、豪雨などの自然災害
日本では、2011年に発生した東日本大震災、2016年の熊本地震、2019年の台風19号による浸水被害など、毎年のように地震や豪雨などの自然災害による甚大な被害が発生している。これらの災害は、発生頻度の増加や、発生の切迫性、発生確率の高さが政府機関や専門家らによって指摘され、さらに激甚化、頻発化も懸念される。
例えば、気象庁の発表したデータによると、時間雨量50mmを超える短時間強雨の発生件数は30年前と比較すると約1.5倍となり、気候変動により集中豪雨や強い台風の発生頻度や降水量のさらなる増加が懸念されている。
また、政府の地震調査委員会によると、首都直下地震、南海トラフ地震など、マグニチュード7~9クラスの大規模地震も今後30年以内に70~80%の確率で発生すると予測されている。
これらの災害は、人々の生活や人命に大きな影響を及ぼすだけでなく、堤防の決壊や道路の損壊など、社会インフラにも甚大な被害を生じさせる可能性がある。
社会インフラの防災対策とメンテナンス
激甚化、頻発化する気象災害や大規模地震によって、堤防や道路などの社会インフラに損壊が発生した場合、メンテナンスに関わる費用の増大だけでなく、交通や物流などといった社会経済システム自体が機能不全となる恐れがある。そのため、社会インフラの防災対策や老朽化対策(国土強靭化)は喫緊の課題となっている。
そこで政府は、「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」(以下:5か年加速化対策)を打ち出し、国土強靭化に関わる取り組みの加速化・深化を図るため、2021~2025年の5年間において、重点的かつ集中的に対策を講じるとしている。
【防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策の概要】
激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策
・気候変動に伴い激甚化、頻発化する自然災害に対応するため、事前防災対策を推進
・大規模地震時の緊急物資輸送機能等の確保のため、社会資本の耐震対策等を推進
予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策
・緊急または早期に措置すべき社会資本に対する集中的な修繕等の対策を推進
国土強靭化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進
・国土強靭化事業を円滑化する情報通信技術(ICT)の活用を推進
・観測体制の強化やスーパーコンピューター等の活用により、気象予測を高度化
道路における国土強靭化
災害から速やかに復旧・復興するためには、道路ネットワークの機能強化が必要であるため、5か年加速化対策の中では、高規格道路のミッシングリンク(未開通区間)の解消および暫定2車線区間の4車線化、高規格道路と代替機能を発揮する直轄国道とのダブルネットワークの強化などを推進している。
これらの対策は、災害時に緊急車両の通行を確保することや、通行を確保した状態で復旧工事を実施するために大いに役立つ。実際、下記のような事例でもその有効性が示されており、災害対策として非常に有効であるといえよう。
4車線区間における早期復旧
2018年7月に高知自動車道・新宮IC~大豊IC(上)の立川橋上部において発生した土砂流出では、被災しなかった下り線を上下各1車線に規制し、交通を確保しながら復旧工事を実施。
ダブルネットワークによる交通機能確保
2021年8月に国道9号(島根県出雲市)で発生した地すべりによる通行止めでは、ダブルネットワークを形成する山陰自動車道を迂回路として活用し、交通機能を確保して復旧工事を実施。
他にも道路の老朽化対策、河川隣接構造物の流出防止対策、直轄国道の高架区間等を活用した緊急避難場所の整備など、さまざまな対策を推進している。
防災道の駅の選定
これまで地方創生や観光の拠点として認知されてきた「道の駅」にも、新たなあり方が検討されている。国土交通省は2021年6月、都道府県の地域防災計画等で、広域的な防災拠点に位置づけられている「道の駅」を「防災道の駅」として選定。防災拠点としての役割を果たすための重点的な支援を実施すると発表した。「防災道の駅」の選定要件は下記の通り。
【防災道の駅の選定要件】
1.都道府県が策定する広域的な防災計画(地域防災計画もしくは受援計画)および新広域道路交通計画(国交省と都道府県で策定)に広域的な防災拠点として位置づけられていること
※ハザードエリアに存する場合は、適切な対応が講じられていること
2.災害時に求められる機能に応じて、以下に示す施設、体制が整っていること
・建物の耐震化、無停電化、通信や水の確保等により、災害時においても業務実施可能な施設となっていること
・災害時の支援活動に必要なスペースとして、2500平方m以上の駐車場を備えていること
・道の駅の設置者である市町村と道路管理者の役割分担等が定まったBCP(業務継続計画)が策定されていること
3.2が整っていない場合については、今後3年程度で必要な機能、施設、体制を整えるための具体的な計画があること
選定された「防災道の駅」は、大規模災害時の広域的な復旧・復興活動の拠点として、自衛隊や警察、テックフォースなどの救援活動拠点や、緊急支援物資などの中継基地になる予定だという。
首都直下地震に備える「八方向作戦」
日本全国でさまざまな災害が起こる可能性があるが、政府としても非常に警戒している災害がある。それは首都直下地震だ。首都圏は日本の中枢であり、同地域が大きな被害を受けた場合、日本そのものが麻痺しかねない危険性があるからだ。
実際に首都直下地震が発生した場合、その被害はどれほどのものになるのか。2013年に、内閣府の中央防災会議・首都直下地震対策検討ワーキンググループが発表した、報告書「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」の最大被害想定では、死者が約2万3000人、全壊・焼失家屋が約61万棟、要救助者が約7万2000人、被害額が約95兆円になると想定されている。
首都直下地震発生後、最も重要なことの1つは、救助活動のための通行や緊急物資の輸送ルートを確保することだが、どのような備えが行われているだろうか。
発災後の迅速かつ的確な道路啓開を目的に、道路管理者と関係機関が連携して策定したのが「首都直下地震道路啓開計画」、通称「八方向作戦」だ。なお「道路啓開」とは、道路が通行できるよう切り啓くことを意味する言葉である。
「八方向作戦」ではその名の通り、都心を中心として8方面から取り囲むように、優先して道路啓開するルートを設定。発災後48時間以内に各方向最低1ルートは道路啓開を完了することを目標にしているという。
また、「八方向作戦」で啓開する道路に加え、水路(河川、運河)、航路、空路を合わせた四路を総合的に啓開することも計画されている。四路を結び付けることで、より確実に都心へアプローチするルートを確保する事が可能となる。
緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)の活動
発災直後から、迅速かつ円滑に応急対策活動を実施するため、人員確保にもあらかじめ準備された計画がある。それは全国の国土交通省地方整備局などの職員を隊員とした支援チーム「緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)」の設置だ。地方整備局などの職員は日頃からインフラの整備・管理を行っており、河川や砂防、道路、港湾などの調査・計画・設計業務や現場で培った専門技術力を有している 。その技術力を活かした災害復旧の技術者集団として、いち早く被災地へ出向き、災害対策用ヘリコプターなどによる被災状況の調査、排水ポンプ車による緊急排水、自治体への技術的助言などを行うそうだ。
なお、首都直下地震が発生した場合の動員計画、高域派遣のタイムラインなどもあらかじめ規定され、全国から1日約2360人の隊員、災害対策用のヘリコプター8機、バックホウや排水ポンプ車などの災害対策用機械約514台、災害対策用船舶26隻が最大限動員される計画だという。
このように、激甚化、頻発化する気象災害や大規模地震に対しては、ソフト・ハード両面でさまざまな防災対策が計画・実施されている。しかし、実際に災害が発生した時、まず自分自身を守るためには、災害に対する正しい知識を身に付けておくことが必要だ。
例えば、過去の自然災害から得られた知見や教訓は避難行動や防災活動にとって大きな意味を持つ。国土地理院のウェブ地図「地理院地図」には2019年6月から、過去の自然災害情報を伝える石碑やモニュメントをあらわす「自然災害伝承碑」の地図記号が掲載。地図記号のアイコンをクリックすると碑名や災害名が表示されるようになっている。自分の住む地域や職場の近くで、どんな災害が発生したのかを知ることで防災意識の向上に繋がるだろう。
また今年2月には、「道路から考える新時代の防災・減災フォーラム」というオンラインシンポジウムも開催された。そのような識者や専門家の発表や講演、討論などを行うイベントを見ることで自らでは気付けなかった課題や考え方に触れることもいいだろう。
非常事態に直面した際に冷静に行動できるよう、避難経路や方法、ドライバーが取るべき行動など、自分自身がどのような行動をとるべきか学んでおいてほしい。