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最終更新日:2023.06.14 公開日:2022.06.20

『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第28回 しがみつけ! ホイールカバー

スチールホイール+ホイールカバーこそ至高である! イタリア・シエナ在住の人気コラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情についてアレコレ語る人気連載。第28回は美しくも切ない「ホイールカバー」について。

文・写真=大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)
写真=大矢麻里 (Mari OYA)

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メルセデス・ベンツW114型の同色ホイールカバー。白リボンタイヤとともに独特の気品を醸しだしている。

盗まれても好き

アルミホイールの普及と反比例するように、存在感が薄くなったのがホイールカバー(ホイールキャップ)である。今回は、それに関する悲喜こもごもを。

アルミホイールがバネ下重量の軽減に貢献することは承知だ。だが、筆者自身はスチールホイール+ホイールカバーが好きである。今日ホイールカバーといえば樹脂製が主流だが、筆者が幼少期を過ごした1970年代初頭、「スーパーデラックス」や「デラックス」はメッキした金属製で、樹脂製といえばスタンダード、つまり廉価版のシンボルだった。ただし個人的には、スタンダード用のシンプルさが逆に清々しかったものだ。

デザイン的に秀逸なホイールカバーも少なくなかった。1974年「シトロエンCX」初期型のそれは、簡潔なプレスながら、そのリフレクションが美しかった。今日の「メルセデス・ベンツ」Eクラスの祖先であるW114型のボディと同色のホイールカバーは高貴な雰囲気が漂っていた。日本を含め、他国のモデルで模倣が相次いだことからも、その秀逸さが窺える。

同じメルセデスの1979年のSクラス・W126型のホイールカバーは、ブレーキ冷却用の空気流入まで考慮されており、のちに同社製他モデルにも採用が拡大された。

シトロエンCX初期型のホイールカバー。単純にして個性的という秀逸なデザインである。

メルセデス・ベンツは1980年代、空力ホイールカバーを各モデルに装着した。

 個人的な車歴でいえば大学生だった1980年代末、親のお下がりで乗っていた「アウディ80」は、スチールホイールでありながら、センター部分だけに小さな直径のホイールカバーが付いていた。「鉄チンで何が悪い!」と言っているような洒落たデザインだったのを覚えている。

かくもホイールカバーには、アルミホイールにはない創造性溢れた世界があった。

筆者が乗っていたアウディ80。鉄チンの中に小さなホイールカバーが付いていた。

かつてホイールカバーはウインドウを飾ったこともあった。2007年にモーターショーで沸くジュネーブ市内にて撮影。

 ただし苦い思い出もある。イタリアに住み始めて2番目のクルマだった中古の「フィアット・ブラーヴァ」もスチールホイール+ホイールカバーだった。

2005年のことだ。東京出張のため1か月ほどシエナの青空駐車場に置いておいたら、ホイールキャップが4枚とも盗まれてしまった。悔しくて悔しくて、発見直後に市内のカー用品店に飛び込んだ。すると、社外品ではなく純正品を、それほど高くない値段で即座に入手できた。”国民的ブランド”フィアット車の成せる業だと思ったものだ。

ホイールカバーを盗まれた愛車フィアット・ブラーヴァに、カー用品店のスタッフが新品を嵌めてくれているところ。2005年撮影。

 そのような筆者ゆえ、いまだ新車のウェブカタログで、無意識のうちにホイールカバー付き仕様を探してしまうことがある。残念なのは、今日のホイールカバーは大半が”なんちゃってアルミホイール”風である。かつてのような志あるデザインがみられないのが嘆かわしい。

近年は限りなくアルミホイール風デザインのホイールカバーが主流である。これはルノー・クリオのもの。

雑貨店では、文房具に紛れるようにして汎用のホイールカバーが販売されている。価格1枚5.9〜6.9ユーロ(約840〜980円)。2022年6月撮影。

“脱落するシーズン”があった

さて、2022年は健康のため、可能なかぎりクルマや公共交通機関を使わず歩こう、と誓いをたてた。実行しているうち最初に気がついたのは、「いかに脇をすり抜けるクルマが速くて怖いか」ということだった。常日頃自分がこんなスピードで歩行者の脇を走っていたかと思うと、身が縮まる思いがした。

それはさておき、第二に気がついたことといえば、「ホイールカバーが頻繁に落ちていること」である。国籍問わず、さまざまなブランドのものが落ちている。

ある汎用品の裏側。一体成型された爪は、純正品以上に華奢である。

以下は、いずれも2022年に入ってからシエナの道路上で撮影したスナップ。4代目フォルクスワーゲン(VW)のホイールカバーだ。

4代目日産ミクラ(日本名マーチ)用。

これはスチールホイール用ではなく、フィアット500用アルミホイールのセンターに装着されるカバーである。

 そこで自動車販売店経営者のルイージ氏に聞いてみた。

「ホイールカバーの構成は、本体とそれと一体成型された爪、そしてワイヤーだ」。プラスチック製の爪がホイールのリムに引っかかることで固定される。その爪が常に外側に向けて力がかかるようにワイヤーが付加されている。「その爪が経年変化で割れてしまうのが、ホイールカバーが外れる主因なんだよ」とルイージ氏は説明する。

4代目VWポロ用のホイールカバーが裏側になっていたので観察する。時計でいうところの45分位置のプラスチックが欠け、ワイヤーも張力を失ったのだろう。

かと思えば、ここまでプラスチックが欠けてしまっても、ホイールにしがみついている例も。2代目フィアット・プント。

 筆者の記憶では、落ちているのはカーブの途中が多い。「タイヤやホイールに直進路とは異なる力が加わることで、爪が劣化していると外れてしまうことが多いんだ」とルイージ氏は解説する。そしてこう付け加えた。

「季節の変わり目の落下が多いんだよ」。その心は? と問えば「冬タイヤと夏タイヤを交換したあと、ホイールカバーをしっかりと嵌めない場合が多い。したがって落下しやすいんだ」と教えてくれた。

我がトスカーナ州は降雪量が少ないにもかかわらず、毎年11月1日から4月15日までが冬タイヤ、オールシーズンタイヤの装着、もしくはチェーンなど滑り止めの搭載が義務付けられている。少し前にホイールキャップの落とし物が多かったのは、夏タイヤに交換したのが理由だったに違いない。

落下したホイールカバーは、カーブで目撃する確率が高い。2022年5月シエナで撮影。

 そのようなある日、市内の坂道でまたもやホイールカバーを発見した。2代目「ランチア・イプシロン」のものだ。ただし路面ではなく、家の外壁に立てかけられていた。住民が発見し、立てかけておいたとみた。落としたドライバーが見つけたら、さぞ嬉しいことだろう。もし筆者だったら、前述の盗難被害経験もあるので、感激のあまり呼び鈴を鳴らして住人にハグするに違いない。

2代目ランチア・イプシロン用ホイールカバーが、家屋の外壁に立てかけられていた。

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