『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第28回 しがみつけ! ホイールカバー
スチールホイール+ホイールカバーこそ至高である! イタリア・シエナ在住の人気コラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情についてアレコレ語る人気連載。第28回は美しくも切ない「ホイールカバー」について。
盗まれても好き
アルミホイールの普及と反比例するように、存在感が薄くなったのがホイールカバー(ホイールキャップ)である。今回は、それに関する悲喜こもごもを。
アルミホイールがバネ下重量の軽減に貢献することは承知だ。だが、筆者自身はスチールホイール+ホイールカバーが好きである。今日ホイールカバーといえば樹脂製が主流だが、筆者が幼少期を過ごした1970年代初頭、「スーパーデラックス」や「デラックス」はメッキした金属製で、樹脂製といえばスタンダード、つまり廉価版のシンボルだった。ただし個人的には、スタンダード用のシンプルさが逆に清々しかったものだ。
デザイン的に秀逸なホイールカバーも少なくなかった。1974年「シトロエンCX」初期型のそれは、簡潔なプレスながら、そのリフレクションが美しかった。今日の「メルセデス・ベンツ」Eクラスの祖先であるW114型のボディと同色のホイールカバーは高貴な雰囲気が漂っていた。日本を含め、他国のモデルで模倣が相次いだことからも、その秀逸さが窺える。
同じメルセデスの1979年のSクラス・W126型のホイールカバーは、ブレーキ冷却用の空気流入まで考慮されており、のちに同社製他モデルにも採用が拡大された。
個人的な車歴でいえば大学生だった1980年代末、親のお下がりで乗っていた「アウディ80」は、スチールホイールでありながら、センター部分だけに小さな直径のホイールカバーが付いていた。「鉄チンで何が悪い!」と言っているような洒落たデザインだったのを覚えている。
かくもホイールカバーには、アルミホイールにはない創造性溢れた世界があった。
ただし苦い思い出もある。イタリアに住み始めて2番目のクルマだった中古の「フィアット・ブラーヴァ」もスチールホイール+ホイールカバーだった。
2005年のことだ。東京出張のため1か月ほどシエナの青空駐車場に置いておいたら、ホイールキャップが4枚とも盗まれてしまった。悔しくて悔しくて、発見直後に市内のカー用品店に飛び込んだ。すると、社外品ではなく純正品を、それほど高くない値段で即座に入手できた。”国民的ブランド”フィアット車の成せる業だと思ったものだ。
そのような筆者ゆえ、いまだ新車のウェブカタログで、無意識のうちにホイールカバー付き仕様を探してしまうことがある。残念なのは、今日のホイールカバーは大半が”なんちゃってアルミホイール”風である。かつてのような志あるデザインがみられないのが嘆かわしい。
“脱落するシーズン”があった
さて、2022年は健康のため、可能なかぎりクルマや公共交通機関を使わず歩こう、と誓いをたてた。実行しているうち最初に気がついたのは、「いかに脇をすり抜けるクルマが速くて怖いか」ということだった。常日頃自分がこんなスピードで歩行者の脇を走っていたかと思うと、身が縮まる思いがした。
それはさておき、第二に気がついたことといえば、「ホイールカバーが頻繁に落ちていること」である。国籍問わず、さまざまなブランドのものが落ちている。
そこで自動車販売店経営者のルイージ氏に聞いてみた。
「ホイールカバーの構成は、本体とそれと一体成型された爪、そしてワイヤーだ」。プラスチック製の爪がホイールのリムに引っかかることで固定される。その爪が常に外側に向けて力がかかるようにワイヤーが付加されている。「その爪が経年変化で割れてしまうのが、ホイールカバーが外れる主因なんだよ」とルイージ氏は説明する。
筆者の記憶では、落ちているのはカーブの途中が多い。「タイヤやホイールに直進路とは異なる力が加わることで、爪が劣化していると外れてしまうことが多いんだ」とルイージ氏は解説する。そしてこう付け加えた。
「季節の変わり目の落下が多いんだよ」。その心は? と問えば「冬タイヤと夏タイヤを交換したあと、ホイールカバーをしっかりと嵌めない場合が多い。したがって落下しやすいんだ」と教えてくれた。
我がトスカーナ州は降雪量が少ないにもかかわらず、毎年11月1日から4月15日までが冬タイヤ、オールシーズンタイヤの装着、もしくはチェーンなど滑り止めの搭載が義務付けられている。少し前にホイールキャップの落とし物が多かったのは、夏タイヤに交換したのが理由だったに違いない。
そのようなある日、市内の坂道でまたもやホイールカバーを発見した。2代目「ランチア・イプシロン」のものだ。ただし路面ではなく、家の外壁に立てかけられていた。住民が発見し、立てかけておいたとみた。落としたドライバーが見つけたら、さぞ嬉しいことだろう。もし筆者だったら、前述の盗難被害経験もあるので、感激のあまり呼び鈴を鳴らして住人にハグするに違いない。