ルノーが日本のハイブリッド車に挑戦状!? 新型SUV「アルカナ」が搭載する「E-TECH」がオモシロイ!
ハイブリッド大国の日本に、ルノーの新型SUV「アルカナ」がやってきた。トヨタともホンダとも違うハイブリッドシステムを採用するルノー独自の技術「E-TECH」は、いったい何がスゴイのか。モータージャーナリストの小川フミオがレポートする。
ルノーがいまハイブリッド車を投入する理由
ハイブリッドは過去のもの? 電気自動車を各社が続々と発表している昨今、エコカーの代表選手の座を長いこと守ってきたハイブリッドカーは、もはや古いのだろうか。と、心のどこかで思っていたものの、じつはそうでもないと感じさせてくれたのが、ルノーの新型車「アルカナ」だ。
ピュア電気自動車は、行動範囲によっては給電もままならないこともある。インフラの問題で、乗れないひとは欧州にも多い。そのため、フランスのルノーでは「ハイブリッドはいまも有効なパワープラント」(日本法人の広報担当者)として、先ごろ、ハイブリッドSUV「ルノー・アルカナ」を開発。2022年5月に日本でも発売開始した。
ハイブリッドといっても、じつは形式は、各社によって異なる。日本でもっともシェアが高いのは、トヨタ自動車が「プリウス」をはじめ多くのモデルで展開している「THS(-Ⅱ)=トヨタハイブリッドシステム」という方式。通常走行時はエンジンを使用するが、発進時や低速時はモーターのみで走行できる上、急加速時などはエンジンとモーターの両方を動力として使用することが可能だ。分類上はシリーズ・パラレル方式といったりする。
ホンダが「シビック」や「ヴェゼル」などに採用している「e:HEV」も、やはり、エンジンを駆動用バッテリーの給電(のみ)に使うシリーズ方式と、必要に応じてモーターとエンジンが協調して動力を供給するパラレル方式を、独自のやりかたで組み合わせたもの。
シリーズ方式の代表選手は、日産自動車の「オーラ」や「キックス」。「e-Power」と呼ばれるシステムで、エンジンは搭載するものの発電するためだけに利用し、モーターで走る。
もうひとつ、ドイツ車を筆頭に欧州車に増えているのが、マイルドハイブリッド(パラレル方式)だ。メーカーによって多少異なるが、発進時や変速時、加速時など、エンジンのトルクが落ち込むときにモーターが回って、トルクを補う。
発進時など、アクセルペダルを多めに踏みがちな領域で、トルクのあるモーターが動力源になるため、燃費が良くなり、走行kmあたりの排ガス中の有害成分が抑えられる。欧州の規制をクリアするために、近年、特に大型車でよく使われるようになった。
そこにあって、ルノー・アルカナのおもしろさは、日本のメーカーが得意としてきたシリーズ・パラレル式ハイブリッドの短所を克服し、長所を伸ばそうという考え方にある。
欧州での大きな流れはピュアEVにあり、化石燃料車の走行を規制する市街区も出てきている。しかし、使うひとによっては、ピュアEVの充電インフラが整っていなかったりするのも事実。それを(当面?)ハイブリッドで乗り切ろうというのだ。
ルノー・ハイブリッドの魅力とは?
「日本のハイブリッド車の多くは、市街地走行をメインに作られているため、高速領域でエンジンがうるさいとか速度の伸びがいまいちとか、欧州で使うにはネガがある、と私たちは考えて、独自の『E-TECHハイブリッド』を開発しました」(ルノージャポンの技術担当者)
どこが独自かというと、ひとつは比較的排気量の大きな1.6リッターエンジンを使うこと。高速ではこのエンジンのパワーに頼る。もうひとつは、変速機だ。プリウスやシビックのシステムでは、”変速機構”はあるものの、変速機そのものは持たない。ギアとエンジンとモーターが常に繋がっているからだ。(メーカーのカタログには「電気式無段変速機」と記載されているが、実際に変速機が搭載されているわけではない)
「従来のハイブリッド車は、走行中、急な加速が欲しいときにかったるい思いをすることもあるし、アクセルペダルを踏み込みすぎて燃費を悪化させたりすることもありました。ルノーはそれをネガと捉えて、同社のE-TECHハイブリッドでは”変速機”を採用しています」(同上)
でもって、このルノー独自の変速機が大変興味深いのだ。通常のマニュアルやオートマチックの変速機のようにクラッチやシンクロナイザーを使わない。これらは、エンジン側のギアと変速機のギアをショックなくつなげるために、いってみれば滑らせるための装置だ。
アルカナのギアボックスは、そんなものを使わない。エンジンの出力軸側のギアと変速機のギアをダイレクトに噛み合わせる。ドグトランスミッションといって、レースやラリーでは当たり前のシステムだ。一般車では極少ない。
だからといって、ギアが噛み合うたびにガツンッガツンッとショックがきては、乗員はたまらない。アルカナでは、両方のギアの回転を合わせてポンっとつなげるために電子制御されたモーターを使う。
はたして、ルノーの目論見通りなんだろう。じつにキモチがよい。どんなエンジン回転域からでも、一瞬で力強い加速が得られる。エンジンとモーターがうまく協調しているのでトルクがたっぷりあるうえ、それを変速機がしっかり活かしてくれる。燃費がリッターあたり22.8km(WLTC)というのも、欧州車としては驚くほどいい数字だ。原油高の時代にありがたいではないか。
もちろん、トヨタにしても日産にしてもホンダにしても、それぞれいいところはたくさんあるし、最近だと、たとえば、ルノーとアライアンスを組んでいる日産のシリーズハイブリッド車、オーラなどは、力強く、扱いやすく、充電する必要もないため、日本によく合っている。
ハイブリッドと一言でいっても、このように多様性があって、自分の使い勝手で選ぶのがもっともいい。ハイブリッドはまだまだ過去のものになっていない。優れた生活のパートナーといっていいんじゃないかと私は思っている。